世界のケータイ事情
ベルギーのLTE事情
(2014/1/9 10:00)
昨年クロアチアを加え、加盟国が全部で28になった欧州連合(EU)。EU公用語も1つ増え24になりました。公用語の他にも、一部の地域・少数民族で話されている言語は約60に、移民による言語は175以上にものぼりますが、法令や重要な公文書は全ての公用語で作成されます。翻訳にはEU予算の約1%、市民1人当たり2ユーロ/年が費やされていますが、多言語主義をとるEUではこれは必要なコストとされ、市民に対しては母国語の他に2言語が話せるように取り組んでいます。
そんなEUの本部が置かれるベルギーの首都ブリュッセルを先月訪問しました。街中の表示はほとんどが公用語であるオランダ語とフランス語で、街中で実際に耳にする言葉はフランス語が優勢です。ブリュッセルは海外からの数多くの人々が訪れる国際都市・観光都市であり、移民も多く集まってきています。中心部やEU地区では英語やドイツ語が通用するところも多く、日本語も含めてさまざまな言語を耳にする機会もあります。
ベルギーは王国ですが、1993年にオランダ語圏のフランダース、フランス語圏のワロン、両言語が公用語のブリュッセルの各地域政府と、オランダ語・フランス語・ドイツ語の各共同体の6組織からなる連邦国家に移行しています。ベルギーでは建国以来激しい「言語戦争」が続き、連邦制に移行後も、言語圏の対立から2010年4月に内閣が総辞職し、2011年12月まで541日間も正式な政権が成立しないといった不名誉な記録を作っています。言語戦争の痕跡は遠く日本からでもうかがえ、例えば日本語でのベルギーの公式観光案内は、ベルギー観光局ワロン・ブリュッセルのWebサイトと、ベルギー・フランダース政府観光局のWebサイトでそれぞれ別個に行われています。なお、ベルギー・フランダース政府観光局は隣国のオランダ政府観光局と共同で、日本語Webサイトやアプリを用意しています。
このようなベルギーで、携帯電話サービスを提供するのは何かと大変です。ユーザーにはさまざまな言語での対応が必要になるため、ベルギーの携帯電話会社は、複数の言語のホームページを用意しています(Mobistarはフランス語・オランダ語。BASEは英語も含め3言語。旧国営のBelgacomはドイツ語含め4言語対応)。
そして言語以上に大変なのはベルギーが連邦国家であること。今、EUでは、「断片化」された市場を統合し、欧州全体で単一市場にするために、通信では「連結された大陸(Connected Continent)」という法案群を欧州委員会が公表するなど、欧州統合に向けた取り組みが行われています。しかしながら、連邦国家ベルギーでは地域政府の権限が強く、例えば携帯電話を提供する上で欠かすことのできない電波に関する規制の一部は地域政府に委ねられています。携帯電話サービスに必要な手続きの先が異なるだけでも煩雑に感じてしまいますが、その手続き・規制の内容そのものも各地域政府で大きく異なります。
3地域政府での主な相違点は下表のとおりですが、建築許可の対象も多く、日数もかかり、技術基準も厳格なブリュッセルでは、携帯電話基地局の新設も既存基地局からの切替も進まないため、2013年12月時点でLTEが利用できません(ワロン・フランダースでは、Belgacomが2012年11月から、BASEが2013年10月から商用提供を開始しています)。
建築許可 | 最大電界強度 | |||
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対象 | 平均所要日数 | 累積規格 | アンテナ規格 | |
ブリュッセル | ほぼ全て | 400日 | 3V/m | - |
ワロン | ほぼ全て | 130日 | - | 3V/m |
フランダース | 60%は免除 | 180日 | 20.6V/m | 3V/m |
さすがにEUのお膝元「欧州の首都」でこの状況はまずいとの内外からの声を受けて、地域政府も昨年末に技術基準を緩和しました。これで早ければ今年早々にもブリュッセルでもLTEサービスが始まることになったのですが、LTEがスポットとしてではなくエリアとして利用できるようになるには数百の基地局新設が必要で、まだまだ時間がかかりそうです。
LTEはこういった状況ですが、Wi-Fiでは、Belgacomがfonと提携して約70万スポットを提供しており、旅行者向けのWi-Fiサービスも市中心部の観光案内所や飲食チェーン店、滞在先のホテルなどで整備されてきています。次にブリュッセルを訪れた際には、名高い美食・美酒・チョコレートに加えて、快適なConnected-City Lifeが楽しめることを期待しています。