蘇った昭和の流線型デザイン「PILOT ミュー90」


 1960年から始まった日本の高度経済成長がピークに達しようとした1970年(昭和45年)、万国博覧会が大阪で開催された。日本が最も元気だった時代だ。当時、万年筆は高級文具の代表だった。進学祝いや合格祝い、卒業祝いなど、特別のイベントに贈られるものだった。

 そんなニッポンの絶頂期に企画され、翌1971年に発売されたパイロット社の万年筆「ミュー701」は、ペン先から首軸まで一体構造になった流線型デザインを採用。当時の万年筆デザインの枠を越えた斬新な製品だった。

 筆者のあてにならない記憶だが、1970年当時、「ミュー701」は3500円だった。それから37年後、2008年に創立90周年を迎えたパイロット社は、「ミュー701」に現代的なアレンジを加えた「ミュー90」を、「ミュー701」の約4倍となる12600円で限定発売した。

短く携帯して普通に使うコンセプトの「ミュー90」限定再発売品パッケージにも「M90」「LIMITED EDITION」と誇らしげに刻印されている

 「ミュー90」は、1970年代にも流行した“小さく持ち運んで普通サイズで使う”というコンセプトを反映したデザインだ。キャップをした携帯時の状態では実測118.8mm、キャップを取り外し、ペン軸のうしろにかぶせた筆記時の長さは138.8mmだ。言うまでもなく特徴は、シャープで剛性感があり、ペン先までボディと同じヘアライン仕上げのステンレスで作られた一体感を感じる、そのデザインにある。

 万年筆デザインには、意外と航空機と縁の深いモノが多い。筆者が愛用する「パーカー51」も、その先端部分は第二次世界大戦で活躍した米国の戦闘機「ムスタングP51」 の機首部分に多大な影響を受けている。航空機マニアなら、「ミュー90」のデザインから1972年に羽田空港に飛来したジェット機、コンコルドを思い浮かべる人も多いだろう。

 約40年前にルーツのある「ミュー90」は、21世紀の今見ても、極めて斬新なデザインだ。インクは、カートリッジとコンバーター(別売)の双方をサポートする。

 市場にはまだビンテージモノのデッドストック「ミュー701」が結構良いコンディションで残っているが、限定版の「ミュー90」が再発売されてから、ネットオークションなどで、ミュー701の価格は急騰している。ビンテージモノのミュー701と再発売の「ミュー90」、書き味は好みの問題なので、何とも言えないが、筆者にとって、再発売の「ミュー90」は極めて安い買い物だと思っている。

筆者はカートリッジインクでは無く、別売のコンバーターを購入、ボトルインクを使っているキャップを取り外して背後から被せると140mm近い普通サイズになる
本体ボディと一体化しているペン先、デザイン的には余り他に類を見ない秀作だ万年筆のペン先もメーカーによって大きく異なる。手前から、ファーバーカステル社の一般的な「ペン先全面露出型」、パーカー社の「パーカー51」、インクの自然蒸発を抑えるためにペン先の露出を最小限にした戦闘機「ムスタング P51」の機種そっくりの「ペン先部分露出型」、「コンコルド」を思い浮かべる「ペン先本体一体型」(以上、すべて筆者が勝手に命名)


商品名実売価格購入場所
パイロット「ミュー90」限定発売品12600円日本橋 丸善






(ゼロ・ハリ)

2009/7/29 11:00