本格的なLTE時代へ進む「2012年冬商戦向け新モデル」

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


 2012年10月、ソフトバンク、NTTドコモ、auが相次いで、2012年の冬商戦及び春商戦へ向けての新ラインアップを発表した。9月のiPhone 5発表に始まり、この約1カ月は国内の業界にとって、予想以上に動きの激しい時期だったと言えそうだ。本来であれば、それぞれの発表について、レポートをお送りするところだったが、諸般の事情で記事を執筆できなかったため、今回から数回に渡り、各社の発表を踏まえながら、2012年冬商戦のトレンドを考えてみよう。

予想以上に動きの激しかった約1カ月

 読者のみなさんもよくご存知のように、ケータイ業界には主に3つの商戦期があると言われている。5~6月に発表される夏商戦、10月頃にラインアップが発表される冬商戦、新入学・新社会人をターゲットにした2~3月の春商戦。製品が発売されるタイミングの関係で、多少のずれはあってもここ数年、この商戦期は変わっていない。そして、この商戦期に合わせ、雑誌などでもケータイやスマートフォンの特集記事が組まれ、ケータイ Watchのような日刊ベースのWeb媒体は発表直後に速報記事を公開し、実際の発売へ向けて、開発者のインタビュー記事をはじめ、先行して試用できた製品のレビュー記事などが掲載されるわけだ。

9月21日発売のiPhone 5では店頭イベントも(写真は発売当日のアップルストア銀座)

 ところが、今年に限って言えば、各社の発表とは別に、直前にiPhone 5の発売があり、関連業界のひとつであるPC業界で「Windows 8発売」という大きなイベントを控えていたうえ、ケータイ業界でも2件ほど、『予想外』の大きなトピックがあり、各メディアともかなりてんてこ舞いという状況だった。おそらく、この10年のケータイ業界の中でも2006年の番号ポータビリティ開始当時に匹敵する慌ただしさだったと言えるかもしれない。

 この慌ただしさの要因のひとつとなっているのが高速データ通信サービスの「LTE」だろう。LTEについてはNTTドコモが2010年12月に「Xi」というサービス名で提供を開始し、今年3月からはイー・モバイルも「EMOBILE LTE」の提供をスタートさせていたが、9月に発売されたiPhone 5がLTEに対応していたため、auとソフトバンクはiPhone 5の発売に合わせ、auが「4G LTE」、ソフトバンクが「Softbank 4G LTE」の名称で、それぞれサービスをスタートさせることになった。

 これにより、国内の携帯電話事業者4社が揃って、LTEサービスを提供する形になったわけだが、世界的に見ても最も早い時期での導入でこそないものの、すでに2Gサービスを完全に終了し、3Gのみで提供する中で、LTEサービスを全事業者が揃って提供するという状況は、かなり珍しく、今後、どのようにLTEサービスが使われていくのかという点においても注目される。

 LTEという通信方式については、改めて説明するまでもないが、標準化団体の3GPPで策定されたもので、当初は第3世代携帯電話(3G)の進化形、究極形、4Gへの橋渡しなどの意味合いから「3.9G」などと呼ばれていたが、ITU(国際電気通信連合)がWiMAXなども含め、「4G」という呼ぶことを認めたため、LTEサービスには「4G」という言葉が使われている。ちなみに、LTEをさらに発展させた「LTE-Advanced」は、本来の第4世代携帯電話のひとつとして標準化が進められている。

 LTEの特徴としては、高速・大容量・低遅延などが挙げられるが、パケット通信のみをサポートしていることもユニークな点だ。そうしたこともあって、国内各社のサービス及び端末は、既存のW-CDMAやCDMA2000 1xと併用する形で提供されることになる。また、将来的には低遅延などの特徴を活かし、LTEのネットワーク上でVoIPをサポートする「VoLTE」というサービスが提供されることが期待されている。

違いが見えるLTEへの取り組み

 国内の4事業者のサービスが出揃ったLTE。もう少し正確に言えば、旧ウィルコムのXGPを継承したWireless City PlanningのAXGPがもうひとつのLTEである「TD-LTE」と100%互換性があるとされていることを考え合わせると、国内の5事業者がLTEサービスの提供を開始したとも言える。

 ただ、LTEへの取り組みについては、今回の各社の発表などを見てみると、それぞれの姿勢と事情の違いがうかがえる。

 まず、もっとも早くLTE対応サービスを提供したNTTドコモは、2010年12月にサービスを開始したものの、最初の1年間はデータ通信端末のみを提供し、2011年11月から音声通話にも対応したXi対応スマートフォンを提供している。今年に入り、夏モデルでは主力モデルをXi対応スマートフォンで揃え、冬モデルでは全機種Xi対応スマートフォンとなっている。

ドコモの発表会では秋モデルなどとともに冬モデルを展示

 ネットワークについても着実に拡大している状況で、今回の発表会のプレゼンテーションでは、2012年度末の人口カバー率が約75%になることが明らかにされた。ただ、後述するauの4G LTEサービスが急速に起ち上がろうとしていることもあり、当初の計画よりも前倒しで展開されているという。ちなみに、同じく今回の発表会では、新幹線8路線の全104駅、全国の主要28空港でのエリア展開も明らかにされている。NTTドコモはXiの周波数帯域として、これまで2.1GHz帯の5MHz幅×2を利用してきたが、2012年11月から1.5GHz帯と800MHz帯も利用されるようになり、今回発表された対応機種では受信時最大100Mbpsの通信を可能にする。

 NTTドコモの場合、Xi対応スマートフォンのラインアップは、国内事業者の中でももっとも充実しているが、ネットワークについては元々の契約者数が多いこともあり、2.1GHz帯のFOMAからXiへの切り替えは、ユーザーの利用動向を見ながら進めなければならない状況にある。

エリア整備計画を前倒し2012年度末までに新幹線全駅をエリア化し、全国の県庁所在地での通信速度を向上

 そういった背景もあり、今回の発表会では、Xi対応スマートフォンの購入者向けに基本使用料が1年間、割り引かれる「Xiスマホ割」、Xi対応スマートフォンを購入した10年超のユーザー向けに基本使用料が2年間、割り引かれる「ありがとう10年 Xiスマホ割」というキャンペーンが発表された。すでに、先週から秋発売モデルのLGエレクトロニクス製「Optimus G L-01E」が販売されており、割引サービスが受けられる状況にあるが、昨年の「Xiトーク24」とも相まって、既存のNTTドコモユーザーはXiに移行しやすい環境が整ってきたと言えそうだ。昨今、MNPによるユーザー獲得競争の激化により、各社ともMNPユーザーを厚遇する傾向が強まり、既存のユーザーからは「釣った魚にはエサをやらないのか?」といったイヤミも聞かれたが、Xi対応スマートフォン購入という負担はあるものの、久しぶりに既存ユーザーもサポートしてくれる施策が出てきたという印象だ。こういうところも最大契約者を抱えるNTTドコモらしい取り組みと言えるだろう。

「本気」で4G LTEサービスを準備してきたau

 次に、auについては、9月のiPhone 5発売に合わせ、「4G LTE」のサービス提供を開始したが、今回発表された2012年冬モデルを機に、本格的にLTEサービスを展開する。今回発表された10機種はすべて4G LTE対応で、その内の8機種がサービス開始の11月2日、残り2機種も年内に発売される予定だ。

 周波数帯域については、iPhone 5が2.1GHz(2GHz)帯のみを利用したのに対し、今回発表されたAndroid端末は800MHz帯と1.5GHz帯を利用する。当初の実人口カバー率は84%だが、2012年度末には96%まで拡大する。ちなみに、人口カバー率と実人口カバー率の違いについて、簡単に説明しておくと、人口カバー率は市町村役場付近で利用できれば、その市町村をカバーしたとみなして計算するのに対し、auの実人口カバー率は全国を500m四方単位に区切り、そのエリアに含まれる人口の総人口に対する割合を表わしている。同じ算定方式ではないため、どちらのエリアが広いのか、そもそもどちらの算定方式がいいのかは一概に言えないが、NTTドコモが採用する人口カバー率は従来から総務省が使ってきたもので、携帯電話サービスが発展途上期だった1980~1990年代と基本的には変わっておらず、現在の利用環境に合っているとは言いにくい部分がある。

 また、auの4G LTEは、800MHz帯で10MHz幅を利用し、受信時最大75Mbpsを全国エリアで展開し、2013年以降には15MHz幅を利用した受信時最大112.5Mbpsのサービスを提供するという。auのLTEサービスについては、早くから業界内で基地局の整備をかなり前倒しで進めていて、サービス開始時にはXiを上回るのではないかと噂されていたが、その噂に違わぬほどの充実ぶりで、11月にLTEサービスの本格スタートを迎えることになった。auは元々、CDMA2000 1xの時代から2.1GHz帯よりも800MHz帯を重視する傾向が強かったが、今年7月まで800MHz帯の周波数再編が続いていて、LTEサービスについてはXiの後手を踏む形となった。しかし、それをうまく逆手に取り、早くから基地局の整備を進めることにより、11月の本格サービス開始時に国内最大のLTEネットワークをいきなり立ち上げることになったわけだ。発表会ではKDDIの田中孝司 代表取締役社長は「auの本気」という言葉を使った。かつて国内初のパケット定額制サービス「EZフラット」を実現するために、ネットワークの準備を進め、他社が「定額はないだろう」と予想していたところに、いきなりライバルに一撃を食らわしたことがあったが、今回のLTEサービスの準備は、あのときを彷彿とさせるほどの用意周到な準備と言えそうだ。

ピコセルを導入

 さらに、実用面でもauの準備の良さは際立っている。詳しくは発表会のレポートに譲るが、「CSフォールバック」や「Optimized Handover」「ピコセルの導入」など、実際にユーザーが利用するシチュエーションで役に立つ技術がサービス開始時点から提供されている。料金面でもNTTドコモの「Xiトーク24」対抗の「au通話定額24」、ソフトバンクの「Wホワイト」対抗の「通話ワイド24」をオプションサービスとして提供し、LTEプランの基本使用料もNTTドコモの「Xiスマホ割」に対抗すべく、キャンペーンという形で月々の基本使用料を半額にするなど、全方位に対抗する施策を打ち出している。なかでもNTTドコモのXiがNTTドコモ以外への通話料が高く、移行に二の足を踏んでいるユーザーが多い状況を鑑みると、auの通話ワイド24は4G LTEへ移行する後押しになりそうだ。

LTEから3Gへ切り替わる“ハンドオーバー”を最適化CSフォールバックおよび電池消費についてもアピール

 最終的に、どの程度、その効果が発揮されるのかは、実際のサービスインを待たないと、何とも評価できないが、auの4G LTEサービスについては、国内事業者が提供するLTEサービスの中で、技術的にも料金的にも非常に期待値の高いサービスと言えそうだ。

もうひとつのLTEで対抗するソフトバンク

 さて、3社目はソフトバンクだ。ある意味、この1カ月、日本のみならず、海外でももっとも話題になった通信事業者と言えるかもしれない。

 ソフトバンクのLTEサービスについては、ちょっと混乱しそうなので、少し整理しておくと、まず、NTTドコモやauと同じFDD-LTE方式によるLTEサービスは「SoftBank 4G LTE」というサービス名で提供され、2.1GHz帯を利用し、すでにiPhone 5が対応機種として販売されている。これに対し、旧ウィルコムのXGPを継承したAXGP方式によるサービスが「SoftBank 4G」で、2.5GHz帯を利用する。このAXGP方式は中国などで提供されている「TD-LTE」(TDD-LTEとも表記される)方式の100%互換であるため、SoftBank 4Gは「もうひとつのLTE」という表現もできる。

ソフトバンクの冬モデルは、AXGP(TD-LTE)のSoftBank 4G対応だ

 ちなみに、FDD-LTEとTD-LTEについて、少し補足しておくと、FDD-LTEの「FDD」は周波数分割多重(Frequency Division Duplex)のことで、送信と受信(上りと下り)で別々の周波数帯域を利用する。これに対し、TD-LTEの「TD」は「時分割複信」(Time Division Duplex)のことで、ひとつの周波数帯で時分割によって送信と受信を実現する。W-CDMAやCDMA2000 1xなどの一般的な携帯電話がFDD方式であるのに対し、PHSやWiMAXはTDD方式となっている。AXGPがTD-LTE完全互換なのは、旧ウィルコムのPHSを高度化したXGPの流れを受け継いだ技術であることも関係しているわけだ。

 FDD-LTEとTD-LTEは素人目に見ても異なる技術で、今後、どちらが有利なのかが気になるところだが、端末や基地局では両対応の製品が登場しており、将来的にユーザーが利用するレベルでは、その差が意識されなくなるとも言われている。すでに、今冬の各社のモデルに搭載されている米クアルコム製チップセット「SnapDragon S4」は、FDD-LTE/TDD-LTEの両方に対応しており、W-CDMA/CDMA2000 1x/GSM/TD-SCMDA対応なども含め、ひとつのチップで大半の通信方式に対応している。基地局などでも両対応のものが開発されており、搭載するソフトウェアなどにより、どちらのネットワークにも対応できるものが登場している。

 こうした状況において、今回、ソフトバンクは2012年冬春モデルとして、AXGP方式によるSoftBank 4Gに対応したスマートフォンの全6機種を発表した。ソフトバンクではすでに「ULTRA Wi-Fi 4G」のネーミングで、AXGP方式に対応したモバイルWi-Fiルーターを発売していたが、今回からはスマートフォンでもそのパフォーマンスを活かそうというわけだ。AXGPのパフォーマンスについては、なかなか他機種と並べて評価できるチャンスがないが、元々、ウィルコムのPHS基地局を活かす形でマイクロセルのネットワークが構築されており、都市部でのパフォーマンスはかなり高いと言われている。今回の発表会ではおそらく会場内に基地局が設置されていたのだろうが、すでに試すことができたSTREAM 201HWではベンチマークであっさりと20Mbps超の結果をたたき出していた。もちろん、実際のフィールドでもその結果が得られる保証はないが、ポテンシャルとしては十分なレベルにあると考えて差し支えないだろう。

 エリアについては、2012年度末で政令指定都市の人口カバー率100%を予定している。ただし、これは前述の「人口カバー率」なので、政令指定都市の全域をカバーしているわけではなく、どちらかと言えば、都市部中心のエリア展開になっている。

 料金については、今回、はじめてSoftBank 4G対応スマートフォン向けのものが明らかにされたが、基本的には他社と横並び、もしくはiPhone 5発売時から提供されているSoftBank 4G LTEとほぼ同等のプランとなっている。ただ、iPhone 5の記事のときにも説明したように、ソフトバンクとしては、地域によって、現状の3Gネットワークのトラフィックがかなり逼迫した状況であるため、少しでも早く新しい機種に買い換えてもらわなければならない状況にある。つまり、既存の3G対応端末や3G対応スマートフォンのユーザーに、iPhone 5やSoftBank 4G対応スマートフォンに乗り換えてもらい、新機種が対応するプラチナバンドやAXGPのネットワークにトラフィックを逃がすようにしないと、既存の2.1GHz帯の3Gネットワークの一部を停止して、LTEネットワークに切り替えるという策を取ることができない。だからこそ、iPhone 5発売時、もっともトラフィックの多いiPhone向けに下取りプログラムを提供することで、既存の3Gネットワークへの負荷を減らそうとしているわけだ。

 こうした厳しい状況に置かれていることもあり、今回はFDD-LTE方式によるSoftBank 4G LTE対応のスマートフォンは1機種も発表されず、当面はAXGP方式によるSoftBank 4G対応スマートフォンのみがラインアップされることになった。ちなみに、発表会のプレゼンテーションでは他社のLTEネットワークとの比較なども提示されたが、いずれのスマートフォンもLTEネットワークのみでつながるわけではなく、3G(W-CDMA/CDMA2000 1x)と併用する形になるため、LTEのみの基地局数比較やLTEのみでの接続比較などは、ややユーザーの利用環境とマッチしない印象を受けた。

10月1日、ソフトバンクによるイー・アクセス子会社化を発表した、ソフトバンクの孫氏(左)とイー・アクセスの千本氏(右)

 そして、ソフトバンクのLTEについて、もうひとつ補足しておく必要があるのがイー・モバイル(イー・アクセス)の買収だ。冒頭でも触れたように、イー・モバイルはすでに今年3月からLTE方式によるサービスを1.7GHz帯でスタートさせており、今回の買収により、この周波数帯においてもソフトバンクのiPhone 5ユーザーがイー・モバイルのネットワークを利用できるようになることがアナウンスされた。実際の連携にはもう少し時間を要するようだが、ソフトバンクの2.1GHz、イー・モバイルの1.7GHzのLTEネットワークがシームレスに利用できるようになれば、ユーザーとしてはかなり心強いだろう。

 ただ、ここで言うところの「ユーザー」はあくまでもソフトバンクのユーザーであって、イー・モバイルのユーザーにとっては少し不安も残るところだ。なぜなら、もっともトラフィックが多いと言われるiPhoneユーザーがイー・モバイルのLTEネットワークになだれ込んでくるわけで、すべてのネットワークを共用するようになってくれば、これまでの環境が一気に混雑してしまうかもしれないからだ。この点については、今後のソフトバンクとイー・モバイルのハンドリングにかかっているが、イー・モバイルはイー・アクセスがADSLサービスを提供している時代からネットワークのトラフィックなどを効率良く監視してきたと言われており、それらのノウハウがうまく活かされれば、両社の統合は「1+1」が「3」にも「4」にもなることが期待できそうだ。

 ところで、少し脱線するが、イー・モバイルの買収劇についても触れておきたい。今回の買収劇の発表内容を見る限り、iPhone 5のLTE対応周波数がイー・モバイルの持つ1.7GHz帯に合致していたこと、イー・モバイルの顧客を取り込めることなどがソフトバンク側のメリットとして挙げられているが、イー・モバイル側から見ると、サービス開始当初に比べ、LTEネットワークの時代に入り、投資コストがどんどんかさむうえ、契約数の規模的にスケールメリットを得にくいなどのジレンマもあったようだ。特に、TCAでの契約者数集計の公開ペースを四半期ベースに切り替えた昨年末あたりから買収の噂が出ていたと言われており、経営陣側もある程度のところで、手を引きたいと考えていたのではないかと思われるフシもある。ソフトバンクによる買収を発表する会見において、「今後、孫さんの下でやっていくのか?」という記者の質問に対し、千本倖生代表取締役会長は明確な回答を避けていたが、おそらくエリック・ガン代表取締役社長と共に、両社の統合が完了後、ある程度の時期が来た段階で、経営から手を引くのではないかと推察される。

 その後、ソフトバンクは米Sprintの買収も発表し、業界を再び驚かせることになるが、この件については、イー・モバイルのときと違い、日本のユーザーにとって、明確かつ直接的なメリットがないため、ネット上では「その前にウチをつながるようにしてくれ」「先に国内を何とかするべきでは?」といった厳しい反応も散見される。ソフトバンクはひとつの企業体であるため、どこの会社を買収しようと、売却しようと、成功しようと、失敗しようと、ユーザーには関係ないと言われてしまうかもしれないが、ソフトバンクは孫社長のTwitterなどを通じたコミュニケーションによって、支持されてきた部分もあるのだから、何らかの形で日本のユーザーにも目に見える形のメリットを提示できないだろうか。

本格的なLTE時代はスタートしたばかり

 さて、主要3事業者の発表を受け、今回はLTEサービスに的を絞って説明をしてみた。イー・モバイルのEMOBILE LTE、Wireless City PlanningのTD-LTE100%互換のAXGPを合わせれば、5事業者が揃って、LTEサービスで競争する時代を迎えたことになる。

 しかし、ここでも説明してきたように、各社とも現時点に至るまでの流れやアプローチがかなり異なるという印象だ。NTTドコモは元々、計画的に進めてきたが、後発事業者の状況を見て、少しずつ前倒しにしてきたのに対し、auは800MHz再編の影響で出遅れたものの、それを逆手に取って、かなり用意周到に充実したLTEネットワークを構築してきたという印象だ。ソフトバンクはLTEサービスを拡大したいものの、既存の3Gサービスが逼迫していて、なかなか身動きが取れない状況で、今回はもうひとつのLTEサービスであるAXGPを活用することで、他社に対抗しようという構えだ。そして、イー・モバイルについては、昨年あたりの無理な3Gサービスの拡販の影響が出ていたが、今回の買収により、ユーザーがどのように動いていくのかが非常に気になる状況と言えそうだ。

 もちろん、これらはいずれのひとつの状況分析でしかなく、実際のフィールドではどのようにつながるかはまだ見えてこない部分もある。特に、「電波は水物」と言われることもあり、時々刻々と状況は変化するため、事業者がどのように対策を打ってくるかが実際の利用環境の快適さを左右することになる。だからこそ、各社ともLTEサービスへの乗り換え施策を積極的に打ち出し、既存のネットワークから移行を促しているわけだ。

 また、ネットワークだけですべてが語れるわけではなく、当然のことながら、端末やサービスの魅力も気になるところだ。すでに一部の端末は販売が開始されているが、次回はこれらの点についてもトレンドをチェックしてみたい。




(法林岳之)

2012/10/22 14:53