ケータイ用語の基礎知識

第707回:LDACとは

ハイレゾ対応、Bluetoothで高音質な音楽再生を可能にするコーデック

 LDACは、Bluetoothのオーディオプロファイル(A2DP)で利用される、新しいコーデックです。ハイレゾ音源をはじめとした高音質、高ビットレートな音源を再生できるようにします。これまでのBluetooth機器での音楽再生に比べて非常に高音質での再生を可能にします。

 ソニーが開発した「LDAC」は、2015年5月現在、同社製のハイレゾウォークマン「NW-ZX2」やワイヤレスヘッドフォン「MDR-1ABT」、ワイヤレススピーカーの「SRS-X99」「SRX-X88」、ホームシアター製品のサウンドバー「HT-ST9」「HT-NT3」、サウンドボード「HT-XT3」でサポートされています。また、今夏に登場する予定のスマートフォン「Xpeia Z4」もLDACに対応します。LDAC対応機器同士をペアリングすれば、スマートフォン内のハイレゾ楽曲データを、ハイレゾ相当の高音質で再生できます。

 A2DPで使われる、どのコーデックもそうですが、そのコーデックを使った音源再生には、スマートフォンなどの送信側と、ヘッドフォンやスピーカーなど受信側の両方がLDACに対応している必要があります。非対応の場合、他のコーデックが自動的に選択されます。たとえばXperia Z4の場合、aptX対応のヘッドセットであればaptXで、それもない場合は標準のSBCがコーデックに使われます。

初めからハイレゾを扱うことを考えて作られたコーデック

 BluetoothヘッドフォンやBluetoothスピーカーの多くは、「A2DP」(Advanced Audio Distribution Profile)というオーディオ用のプロファイルを使用して、オーディオ機器と接続します。このA2DPというプロファイルでは「コーデック(codec)」を使って楽曲をデジタルデータに変換して、オーディオ機器からヘッドフォン/スピーカーに送ります。

 A2DPでの標準コーデックは、「SBC」(Sub Band CODEC)と呼ばれるものです。これは音を周波数により、4つ、または8つのバンドに分割、各バンド別に最適化したPCMにエンコードするという方式です。SBCでは、音声データを展開する際にさほど計算量を必要とせず、ヘッドフォンやスピーカーにさほど高性能なコンピュータを内蔵しなくても済み、消費電力も少なくて済む、といったメリットがあります。

 しかしながら、SBCは計算量が少ない代わりに、音質があまり良くなく、遅延も大きいというデメリットもあります。ヘッドフォンなどのオーディオ機器でも、かつてより計算能力の高いコンピュータを搭載できるようになった最近では、SBC以外にも高度な計算を必要とするコーデックにも対応できるようになってきました。

 たとえば、本コーナーでは過去、「第545回:aptX とは」で紹介した「aptX」をご紹介しましたし、「AAC」といったコーデックもそういったBluetoothでの楽曲再生で利用される高音質なコーデックのひとつです。そして、最近ソニーが開発、提供されはじめた新しいコーデックが、今回紹介する「LDAC」というわけです。

 LDACの特長は、96kHz/24bitの“ハイレゾクオリティ”のデータを伝送するのに、「ダウンコンバート」をしなくてよい、という点が挙げられます。先述したSBCは古い規格で、ハイレゾ音源データを伝送する場合でも、いったん44.1kHz、または48kHz/16bitといったCD音源程度の音質にダウンコンバートしてからデータ圧縮を行わなくてはならないという仕組みです。

 一方、LDACでは、96kHz/24bitという解像度を基本として取り扱い、ダイナミックレンジを大きく確保するため、同じハイレゾデータで聞き比べると、低伝送レートモードである330kbpsでの転送モードでも、SBC標準の328kbpsでの伝送と比べて、音がクリアに聞こえるようになっています。ちなみに、192kHz/24bitといったさらに高解像度のハイレゾデータを再生する場合は、LDACでは一度96kHzにダウンサンプリングする仕様となっています。

 ちなみに、LDACでは、330kbps、660kbps、990kbpsの3つのデータ伝送速度に対応しており、最も早い990kbpsでは、無線によるデータの取りこぼしなどがシビアになってしまうものの、通信距離が短かったり、他の無線機器との信号の衝突などがないなど、環境さえよければ、SBC標準の約3倍というデータ伝送量を生かした高音質での音楽再生が可能となっています。SBCでは最高512kbpsの伝送速度までしか規定されていませんので、最高速モードでは時間当たりで倍近いデータを扱うことができます。

 データを伝送する際のパケタイズもBluetoothの特性を初めから考えて行われるため効率がよく、328kbpsのSBCに近い速度となる330kbpsモードを使用していても、LDACのほうが実際のデータ転送効率は高く、その分音がクリアに聞こえるようになっています。

 LDACはソニーが開発したもので現状ではソニー製品にしか対応製品がありませんが、コーデック自体はライセンス化も対応するとのことで、将来的には他社製品での対応もあり得る、とされています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)