ケータイ用語の基礎知識

第595回:Tizen とは

 「Tizen」とは、Linuxベースのモバイル向けOSおよびソフトウェアプラットフォームです。「タイゼン」と読みます。非営利団体のLinux Foundationによるプロジェクトで、Tizen Associationが推進しています。

 クロスデバイス、クロスアーキテクチャー、つまりさまざまな機器での利用を目指しているオープンソースのプラットフォームで、スマートフォン、タブレット、テレビ、ネットブック、車載端末などでの利用が想定されています。2013年1月現在、Tizenを搭載したスマートフォンやタブレットは、製品としては登場していませんが、近い将来登場するのではと期待されています。

 「Tizen」は、もともとLinuxベースのモバイル向けソフトウェアプラットフォーム「MeeGo」(ミーゴ)、そして同じくLinuxをベースにした携帯電話向けソフトウェアプラットフォーム「LiMo」(リモ)を統合した、新しいプラットフォームということになります。

 「MeeGo」は、ノキアとインテルが推進していたプラットフォームで、ノキアの携帯電話「N9」に搭載されましたが、「N9」が唯一の端末となりました。かつては他の携帯電話や、モバイルパソコン、ネットブックなどに搭載されることも想定されていました。一方、「LiMo」は、NEC製やパナソニック製など日本のフィーチャーフォンでも用いられているほか、海外ではモトローラの「MOTO U9」などで採用されていました。

 さて、「Tizen」の開発を進めるTizen Assosiationには、インテルとサムスンを中心に、携帯電話事業者であるフランスのOrange、米国のSprint、英国のボーダフォン、日本のNTTドコモ、スペインのテレフォニカ、そしてメーカーであるNEC、パナソニック、ファーウェイが参画しています。

 「Tizen」のメリットとしては、Linuxベースのオープンソースということから、独自の機能やサービスを追加しやすい点が挙げられます。これは同じくオープンソースのAndroidも同様ですが、Androidはグーグルの意向が強く反映されるプラットフォームでもあります。iPhoneなどアップルのiOSでは、アプリやWebサービスは提供できるものの、独自サービスを提供できる余地はほとんどありません。こうした点は「Tizen」との違いと言えます。

無料で配布されているTizen SDK(ソフトウェア開発キット)にはエミュレーターが含まれており、Tizenを体験できる
Tizenのホーム画面

WebベースのOS

 「Tizen」は2012年5月にバージョン1.0が、2012年9月にバージョン2.0のα版が公開され、無料でソフトウェア開発キット(SDK)も提供されており、その概要を確認できます。

 もっとも大きな特徴は、アプリケーション開発がHTML5ベースで行われることでしょう。このため、さまざまなプラットフォームに対してアプリを移植しやすいと言え、逆に他のプラットフォームから「Tizen」への移植も簡単にできる、とされています。Webアプリケーションエンジニアであれば、潜在的に「Tizen」で開発ができる能力があるとも言えます。また、HTML5であれば一度アプリケーションを作成すれば、異なるハードウェアアーキテクチャーの垣根を超えられます。たとえばインテルの技術の上で動作する「Tizen」とARMの技術の上で動作する「Tizen」の両方に対応が可能です。

 「LiMo」のように、C/C++を使用したネイティブアプリの開発も可能です。ただし、この場合は、異なるハードウェアアーキテクチャーの端末では、アプリケーションは動作しません。

 SDKは、サーバーアプリやJavaアプリ、Androidアプリの開発などでよく使われている開発環境の「Eclipse」(イクリプス)がべースとなっており、一般的なアプリケーション開発者にとっても参入の敷居は低いと言えます。

 なお、Tizenのアーキテクチャーや技術的な問題に関する意思決定は、テクニカルステアリンググループと呼ばれるワーキンググループが行っています。テクニカルステアリンググループでは、インテルとサムスンの2社が委員長を務めています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)