第584回:HEMS とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「HEMS」は、センサー技術やIT技術を活用して、家庭で省エネを実現する為の仕組みを指す言葉です。「スマートハウス」や「エコハウス」などと呼ばれている住宅を実現するための技術の1つでもあります。その名称は「家庭のエネルギー管理システム」を意味する英語“Home Energy Management System”からきています。

エネルギーの利用状況を的確に把握

 家庭で使われるエネルギーのなかで、最も多い割合で使われているのが電力です。しかし家庭内では、部屋ごとにさまざまな機器が使われていますし、また、実際にエネルギーの流れが目に見えるわけではありません。どこでどれだけ電力を使っているのか、リアルタイムに確認することがこれまでは難しく、効率よく省エネするにはどうすればいいのか、その方法を理解して実行するには、実際にはなかなか難しいことです。

 「HEMS」は、エアコンや冷蔵庫といった家庭での主な“エネルギー消費機器”を、ネットワークでつなぎ、その使用状況を生活者がモニターできるようにします。いわゆる「電力の見える化」です。それに加えて、電力消費を自動的に制御して節電を図ります。

 2011年7月には、HEMSおよびスマート家電普及の環境整備に関する検討を行う「HEMSアライアンス」が、KDDI、シャープ、ダイキン、東京電力など10社により設立されました。このアライアンスでは、「HEMSアプリケーションからスマート家電群への制御のあり方に関する課題をはじめ、HEMSアプリケーションの開発・流通、スマート家電の保守などに必要な仕組み作りなど、各社共通の課題に関して検討を進めるとともに、『安全』をキーワードとしたHEMS市場確立に向けた課題解決に取り組んでいく」としています。

 7月からはKDDIと住友商事が「エコビトとらいある」という実証実験をスタートしており、家庭内に電力料センサーを設置して、パソコンやスマートフォンで節電効果を確認しつつ、ユーザーに節電を促す、という取り組みを実施しています。また2011年に開催された展示会「CEATEC JAPAN 2011」では、NTTドコモが家庭内の電力消費量をチェックできる電源タップ「スマートタップ」などを展示していました。

 ちなみに法人の事業所、ビルでも同様の省エネシステムに注目が集まっています。こちらはビル・エネルギー管理システム(Building and Energy Management System)、通称“BEMS”と呼ばれています。

 HEMS、BEMSともに導入を促進するため、国による補助金制度が導入されています。

スマート家電とスマートフォン

 現在、各家電メーカーは、HEMS対応機器として、情報家電に関する取り組みを進めています。最近は、そこにスマートフォンを組み合わせて、さまざまな生活家電との連携機能を実現することが増えてきています。

 HEMSの、いつどこで何に電力が使われたのか「見える化」するディスプレイ、それに家庭内のエネルギー使用量を最適化したり、機器をコントロールする「制御」するコントローラーとして、これらをスマートフォンに担わせようというわけです。今後、スマートフォンの存在がHEMSには欠かせない機器となりそうです。

 2012年10月に開催されたIT・エレクトロニクス総合展示会「CEATEC JAPAN 2012」でも様々なデモンストレーションが行われ、注目を集めていました。たとえば、本誌に掲載されたニュースでは、「パナソニック、“スマート家電”への取り組みをアピール」などで、その様子が取り上げられています。この記事では、スマートフォンの専用アプリによる統一的なインターフェイスで同社の複数の家電製品を操作・設定できることや、クラウドを用いたデータ管理、アプリの活用方法などについてのデモが行われたことが紹介されています。

 たとえば、冷蔵庫にスマートフォンをかざすことで、節電率を「見える化」します。冷蔵庫の自動記録するドアの開閉回数の日別推移を確認したり、冷蔵庫自体が備える照度センサーで自動検出した食材容量の目安表示し、これらの情報をもとにした日ごとの節電レベルをグラフ化して表示してくれます。また、逆に制御のほうでは、洗濯機では、洗い物の内容に応じた洗濯時間、洗い方、洗剤量などをスマートフォン上で設定し、洗濯機にかざしてその設定を反映し、洗い加減を最適化するデモが紹介されています。

「CEATEC JAPAN 2012」のトヨタホームのブースで紹介されたスマホ向けHEMSアプリ

 同じくCEATEC関連では「トヨタ、プリウスPHVのスマートフォン連携機能を紹介」という記事でも、HEMS関連機器が紹介されていました。こちらは、トヨタホームのコーナーで、スマートフォンを使って、室温を確認して床暖房の電源を入れたり、電機給湯器「エコキュート」を稼動させたりするデモが行われたと報じています。これもスマートフォンに専用のアプリをインストールし、そこからこれらの機器の使っている電力をモニターしたり、制御したりいったHEMSの一例といえるでしょう。




(大和 哲)

2012/10/16 12:20