ケータイ用語の基礎知識

第797回:HDRディスプレイ とは

これまではテレビ/パソコンディスプレイのハイエンド機種向け技術

 今回紹介する「HDRディスプレイ」は、ディスプレイの性能を示す言葉です。「HDR」とは、本連載の第529回で解説した“高ダイナミックレンジ”の合成写真と同じ英単語「High Dynamic Range」です。つまりHDRディスプレイとは、その名の通り、これまでより大きなダイナミックレンジで、色を表現できるディスプレイのことです。

 テレビやパソコンなどの大画面ディスプレイのうち、主に最新のハイエンド機種でHDRディスプレイが採用される例で出始めています。HDRディスプレイの性能を生かすコンテンツもUltra HD Blu-rayといったメディアに収録されて、登場しつつあります。

 そうした大画面向けの技術として展開してきたHDRディスプレイですが、スマートフォンにも搭載されることになりました。ソニーモバイルがHDRディスプレイ搭載のスマートフォン「Xperia XZ Premium」を、スペイン/バルセロナの展示会「Mobile World Congress 2017」で発表したのです。

 日本での発売についてはまだ案内されていませんが、今春以降、「Xperia XZ Premium」が発売される予定になっています。

まずは「Amazon Prime Video」から

 携帯電話やテレビを見ていると、これまでの液晶ディスプレイでも充分に色が再現できているように感じてしまいますが、実際にはそうではありません。現在使われている液晶ディスプレイは、映像の明るさの度合い、つまり「輝度」の再現に関しては実は再現できていない部分が多いのです。

 本連載の「第681回:nit とは」で解説した通り、輝度はnit、もしくはcd/m2という単位で表現します。1nitは1cd(カンデラ)/平方m、つまり、1平方mの面積を1cdで照らせる明るさのことです。

 現在のスマートフォンに搭載されているディスプレイの最大輝度はだいたい数百nit~千数百nit規模です。HDR合成写真のように輝度情報の多いデータ自体をスマートフォンが扱うことは多くなっては来たものの、写真や映像といったコンテンツがそもそも百nit単位規模だったので、従来のディスプレイでは問題はありませんでした。

 しかし、カメラ(撮像素子)の性能が向上し、記録メディアが大容量になり、さらには通信も高速になると、よりリアリティのある映像を家庭用のテレビやスマートフォンでも扱えるようになってきました。リアリティをもって映像を再現するには、いくつかの方法があります。これまでは技術的な壁がありこれらは割り切って作られてきたとも言えるわけです。そこで、これまで切り捨てられてきた情報のうち、まずは「輝度」情報を再現しようという動きになってきたようです。

 ちなみに映像に関しては、「解像度」も大きな要素のひとつです。たとえば、1000×2000ピクセルといった解像度だった映像や写真は、今後、4000、8000(4K・8K)と大きくなっていきます。

 ディスプレイは、材料の進化や、半導体の微細化技術などが反映され、高解像度に対応してきています。「Xperia XZ Premium」のディスプレイは、HDR対応であると同時に、スマートフォンでは世界初の4K解像度ディスプレイです。

 映像は、解像度が決まっていると、あとは、輝度と色が再現でき、それが遅延なくデータ通りに切り替えて表示されていきます。人間の眼は「輝度」と「色」どちらに敏感かというと、輝度に対してとても敏感にできているとされています。

 HDR用の映像データでは、輝度を万nit単位というこれまでより非常に広い範囲で記録しておき、再現できるようにしています。このため、従来のダイナミックレンジ(Standard Dynamic Range、SDR)の映像では全く表現できていなかった、反射している光のきらめきや太陽の明るさ、闇の暗さといった部分が表現でき、実際に観てみると、その様子を実感できるでしょう。映像製作側の意識も変わってくるでしょうから、これまでとは異なる次元の表現を使った作品なども出てくるかもしれません。

 Xperia XZ Premiumに限った話ではありませんが、2017年3月現在は、HDRディスプレイを搭載したスマートフォン向けのコンテンツは、開発用・デモ用を別にすれば存在しません。そのため、実機が手元にあったとしてもその性能を生かすことはできません。これは現存する映像データが数百nit程度のディスプレイを前提に作られているためです。ただ、Mobile World Congress 2017での発表によれば、ソニーとAmazonが共同でHDR対応コンテンツを配信する予定です。映像配信サービス「Amazonプライムビデオ」で、モバイル端末向けの4K HDRプライムビデオが楽しめる予定となっています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)