ケータイ用語の基礎知識
第791回:DTS Headphone:X とは
2017年1月31日 12:19
今回紹介する「DTS Headphone:X」は、米国のDTS社が開発したヘッドフォン用のバーチャルサラウンド技術です。左右2チャンネルのヘッドフォンを使って、最大11.1チャネルのサラウンド再生を擬似的に再現します。
2017年1月現在、まだ採用しているスマートフォンは少ないのですが、ASUSの「ZenFone 3 Ultra」がDTS Headphone:Xのデコーダーを搭載し、サポートするとされています。
DTS Headphone:Xに対応したデコーダーや再生ソフト、そして対応データを利用することで、音が前後左右や高所から出ているように感じさせる「高臨場感音響再生」を楽しめます。たとえば、映画や音楽のライブ演奏などを、まるでその場にいるような感覚を味わえるのです。
一般的なサラウンド出力と違い、スピーカーに出力しても音を感じる場所を変えることはできませんが、インイヤーイヤフォンや、ヘッドフォンといった機器で、手軽にサラウンド音声を楽しむことができます「DTS Headphone:X対応」を謳うヘッドフォンも販売されていますが、この技術自体は、どんなイヤフォン、ヘッドフォンにも使える技術です。対応ヘッドフォンは、その効果がでやすいようにチューニングされていますが、仕組み的に普通のヘッドフォンと変わりはありません。
頭部伝達関数を活用
サラウンド技術の「サラウンド」とは英語で「囲む」を意味する“surround”から来ています。音の発生源に囲まれているように感じられる、ということでネーミングされています。
人間が音を感じる器官である「耳」は2つしかありませんが、耳へ音がどのように届いたか、遅れて聞こえてくる音色、音量の変化などで、音がどの方向にある音源から来たかを感じとっています。
音源から耳の入り口までの位置関係と音の関係、つまり「この位置であればこのように耳に届く」という部分を計算式にしたものが「頭部伝達関数」と呼ばれます。
頭部伝達関数を使って、データとして記録されている音源データを、音源に囲まれている状況と同じように音を届けてやれば、音が遠くから来たのか、あるいは近く、左や右、上下左右から音が来たように錯覚します。
DTS Headphone:Xでは、DTS音源データから頭部伝達関数を使ってヘッドフォン内の2つのスピーカーに合ったデコードをスマートフォン内で計算し、音をヘッドフォンに対して出力します。
専用データと専用再生ソフトが必要
DTS Headphone:Xは、最大11.1チャネル、つまり空間にスピーカーを配置するなら11カ所+低音用の補助スピーカー1カ所と同等の音を再生可能です。一般的な楽曲データはステレオ、つまり2カ所のスピーカーしか想定されていませんので、DTS Headphone:Xがその力を発揮するには、その音響効果を考慮して位置情報なども含めた音データが必要になります。また、再生用のソフトも頭部伝達関数を使ったデコードを行う必要があります。
そのような事情もあり、DTS Headphone:Xを利用するには、専用のデコーダーとデコーダーを扱える再生アプリ、それに聴きたい楽曲データがDTS Headphone:Xで使えるサラウンド楽曲データである必要があります。
Androidスマートフォンの場合、再生アプリとして「Music Live」あるいは「Z+」のようなDTS Headphone:Xプレイヤーが配布されています。プレイヤーアプリが、対応楽曲データの購入機能も備えているので、ここから聴きたい楽曲データを購入することで、臨場感のある楽曲再生を楽しむことができます。
また、このアプリの中には、スマートフォン内部のプロセッサーで頭部伝達関数を使ったデコードが行える「デコーダー」も含まれています。専用のデコーダーを持たない多くのAndroidスマートフォンでもサラウンド再生が可能です。
最初からデコーダーを備える「ZenFone 3 Ultra」では、標準の音楽再生機能でデコーダーを利用できますので、音源データが対応していれば、標準的な機能のみで「DTS Headphone:X」によるバーチャルサラウンド音楽再生を楽しめます。