ケータイ用語の基礎知識
第771回:ネットワーク中立性 とは
2016年9月6日 12:51
「ネットワーク中立性」とは、インターネットを誰に対しても公平に利用できることを保証しよう、という原則のことです。
議論する人の立場によって内容は変わりがちなのですが、スマートフォンの場合は、たとえばどのサイトやコンテンツにアクセスするとしても、利益・不利益を設けるべきではない、というような考え方で話されることが多いでしょう。
とはいえ、原則自体は、最近のスマートフォンのデータ通信での話題に限らず以前からあります。インターネットなども含めて多くオープンネットワークでの原則として採用され、現在の開かれた公共インフラとしてインターネットの発展に大きな力となってきました。
英語では“net neutrality”とされる「ネットワーク中立性」という言葉が使われるようになってきたのは、2003年に米国の法研究者によって提唱されたのがきっかけです。その後、米グーグルや米ヤフーといったインターネット上のサービス事業者が、通信事業者に対してネットワークの公平性を担保するよう呼びかけました。そして米連邦通信委員会(FCC)などの公的機関がインターネットサービス提供者に対して「ネットワーク中立性」を制約として課すのが正しいかどうか、という議論が盛んになりました。
商売をしていると自分の顧客に対してのみ有利に計らうことで、業者が自分の商売を有利に運びたいという思惑が生まれることがよくあります。そこで、たとえば業者がある商品を買った人には何か無料でつける、というようなこともあります。
スマートフォンの場合、特定のサービスの通信量はカウントしない、そのサービスのみ通信料を免除する、といったメニューを作り始めました。
こういった取り組みがもたらす影響として「コンテンツの利用を特定の事業者に偏るように歪めてしまう」「(大規模なシェアなど)力を持つ事業者への寡占を招き、健全な市場育成を歪める」「プライバシーやセキュリティ上の問題があるのではないか」といった議論が以前から行われてきました。
特に米国では、もともと携帯電話事業者として大きな力を持っているAT&Tが「sponsored data(スポンサードデータ)」、Verizonが「FreeBee(フリービー)」とプランを提供し、大きな議論を呼びました。これは特定のサービスへアクセスする際、そのサービス提供企業が資金を出してユーザーの負担をゼロにする、いわゆる「ゼロ・レーティング」プランです。
たとえばFacebookの“Facebook Zero”のような一時的なキャンペーンとして通信費を無料にする試みは以前からあったのですが、携帯電話事業者の料金プランとして、永続的に特定の事業者への肩入れ(たとえば、FreeBeeであればAOLコンテンツへのアクセスの通信費無料化など)が組み込まれました。もともと市場支配力の強いこれらの事業者による施策によって、市場の歪み、寡占、それにこのサービスを提供するために行う通信データの解析による企業によるプライバシー侵害への懸念が起こりました。これまで「開かれた公共インフラ」として機能していた携帯電話インターネットが崩壊する危険すらあると考えた人たちがいたのです。
この問題には、そもそも「ネットワークの運営者が、ネットワーク上を流れるデータをどの程度までコントロールしてよいのか」という根本的な問題もはらんでいるため、どの国においてもなかなか収斂せず、多くの国で現在もどのようにすべきか議論されています。
ただ、主要な国では、ガイドラインが当局などによってできつつあり、多くの事業者がそれを意識するようになりました。たとえば、米国の場合、2010年に出したネット中立性規則では、モバイルインターネットのほか固定網、ケーブルテレビなども含めて以下のような規制が明文化されました。
規制 | 内容 |
透明性義務 | 固定・携帯事業者とも、ネットワーク管理条件についてはこれを開示しなければならない。 |
ブロッキング禁止 | 固定事業者は、合法的なコンテンツ・アプリ・サービス・機器接続を妨げてはならない。携帯事業者は、自社提供サービスを特別扱いし、他社サービスの利用を妨げてはならない。 |
非差別的な取扱の義務 | トラフィック伝送の際に差別的な扱いをしてはならない。 |
日本では「帯域制御」に焦点
一方、日本国内でのネットワーク中立性に関する議論はどうでしょうか。米国と同様に2005年頃から始まったものの、主に「帯域制御」といった点を中心に議論が進みました。これは、光インターネットやスマートフォンの普及によって、ネットワーク上のトラフィックが非常に多くなり、限られたネットワークアクセス帯域の利用において、コストと利用状況の公平さを保つためにはどのようにすべきか(特に、当時、問題となったP2P通信に起因する過剰なトラフィックをどう扱うか)といった部分に、問題が集中したためです。
実際に、2012年改定の「帯域制御の運用基準に関するガイドライン」では、
- P2Pなど特定アプリケーションに対して通信帯域を制御できる
- 上記制御の際の「通信の秘密」への折り合い方(利用者の同意など)
- ユーザーごとのデータ転送量基準を設定し、超えたユーザーに対しては、制限や契約解除ができる
というような方針が示されています。
一方、LINEやFaecbook、Twitterの通信量を無料にする、カウントしないというプランを発表した「LINEモバイル」では、「ネットワークの中立性に関する当社の考え」として、報道関係者向けの資料を開示してネットワークの中立性ルールは、通信の混雑に対処する観点でのもので、それを超える部分は未確定と認識していることなどを紹介しています。
日本におけるネットワーク中立性に関するルールについては、ネットワークの混雑に対処する観点からの帯域制御(いわゆる「混雑制御」)のみを対象としており、混雑制御を超える部分の中立性ルールについては未確定であると認識しております。
したがって、当社の提供するカウントフリーは現時点で法令上問題ないものと考えますが、当社としては今後の議論の動向を常に注視し、懸念が発生した場合には誠意を持って対応いたします。
これは、LINEモバイルの料金プランが、同社のサービスであるLINEへのアクセスなどに関してはデータ通信料のカウント対象外とする「カウントフリー」としているためですが、将来発生するかも知れないネットワーク中立性の懸念に対しても、その時点で対応すると業者の側から表明があるというのは、消費者としては歓迎すべき状況と言えるでしょう。