インタビュー

ついに登場「LINEモバイル」、LINE舛田氏とLINEモバイル嘉戸氏に聞く

サービス設計の背景、カウントフリーへの考えは

 9月5日、LINEによるMVNOサービス「LINEモバイル」の詳細がついに発表された(※関連記事)

 スマートフォンのメッセージングアプリとして絶対的地位を築いたLINEが、6割に満たない国内のスマホ普及率をアップさせるという大きな目標を掲げ、MVNOへの参入を表明したのは2016年3月下旬のことだった。それから約5カ月、ついに発表されたそのサービス内容は、予告されていた「LINEフリー」「FacebookやTwitterを含めたコミュニケーションフリー」というメッセージングサービスの通信量無料化に加えて、さまざまな機能を盛り込み、端末ラインアップも充実させるものとなった。

LINEモバイル社長の嘉戸氏(左)とLINEの舛田氏(右)

 今回本誌では、LINE株式会社取締役CSMO(最高戦略・マーケティング責任者)の舛田淳氏、そしてMVNO事業を担当する新会社であるLINEモバイルの代表取締役社長に就任した嘉戸彩乃氏にロングインタビューを行った。

 舛田氏はLINEモバイルのみならず、LINE全般に関わるキーパーソン。そして嘉戸氏は、証券会社でIT・通信分野を担当、企業買収や資金調達関連の事業に携わり、その後、都市部のビル内での共用通信設備を展開する企業を経てLINE入りした人物だ。

証券出身の嘉戸氏が社長になったワケ

――嘉戸さんが今回、LINEモバイルの社長になられたその経緯は?

舛田氏
 嘉戸やLINEモバイルのメンバーは、LINEがプラットフォーム化して以降に入社したスタッフです。嘉戸は、事業会社がどういうものか、何が起こり得るのか理解している人材ですので、私の下にある事業戦略室にある、事業開発チームという部署に入ってもらいました。このチームは、私の指示や会社の課題を受けてさまざまな新規事業を提案していきます。

 たとえばLINE MUSICも、LINEバイトも事業開発チームから立ち上がったサービスです。業界ではサイバーエージェントさんが若手スタッフがリードして事業を創出する制度を採用されているそうですが、LINEも実は同じです。事業を提案してもらい、それが良ければプロジェクト化し、必要であれば法人化する。当然、リードしたメンバーはそのまま責任ある立場になってもらいます。

参入の理由とターゲット層

――LINEがMVNO事業へ参入するということはスマートフォンの普及率を踏まえてということでした。その際、一番背中を押したものは何だったのでしょう?

嘉戸氏
 LINEが抱える課題のひとつに、いわゆる“パケ死”があります。たとえばLINE MUSICが登場したことで通信量が増えます。そういった部分の課題に対して、MVNOになることが良いのではないか、〇GBという形ではなく、カウントフリーという考え方とコンテンツ提供を組み合わせることで、お客さまがコンテンツを長く楽しめるチャンスがあるのではないか。そういう切り口で考えるサービスは今までなく、それをお客さまも望んでいる。それをLINEが解決できると考えたのです。

――ターゲット層はどうお考えですか? LINEの利用状況を踏まえると、特定の層とは言えないかもしれませんが……。

嘉戸氏
 コミュニケーションツールは誰もが使うものですので、確かに“オールリーチ”という面はあるかもしれませんが、料金プランによって利用者層が異なるとは思っています。LINEだけが無料対象のLINEフリーは、家族に持たせたい場合などエントリー層向けでしょう。一方、コミュニケーションフリーは、スマートフォンを使いこなすヘビーユーザー層を含めて、使いやすいプランになっています。

舛田氏
 Facebookは男性の30~40代、ビジネスマンが多く、Twitterは若年層が多いとされています。LINEは10~60代まで満遍なく利用されている。コミュニケーションフリーのなかでも10GBプランはヘビーユーザー層になるでしょう。LINEフリーは2台目、あるいはエントリー層になるかなと。

最初にLINEモバイルを選ぶのは

――既存のスマホユーザーからの乗り換えと、LINEモバイルの目標とも言えるこれから初めてスマートフォンを選ぶ方と、どちらが多くなるのでしょう?

嘉戸氏
 時期によって変わると思っています。おそらくこの12月、来年3月までは、18歳以上の年齢認証関連の機能もあって、既存のMVNOユーザーからの乗り換えがメインではないでしょうか。認知度が上がると「LINEなら」という安心感があって加入いただける可能性があるかなと。

舛田氏
 まず既存のMVNOユーザー、次に大手キャリア(MNO)のユーザー。そしてその次にフィーチャーフォンユーザーからでしょう。フィーチャーフォンユーザーの調査データを見ると、スマートフォンに乗り換えたいと考える目的のひとつに「LINEを使いたい」というものがあります。でも大手キャリアのサービスでは高い。LINE以外のサービスは怖くて使えないという方もいらっしゃるかもしれません。そこで「LINEモバイルのLINEフリーであれば500円です」というモデルなのです。

――ではフィーチャーフォンからLINEモバイルを選ぶユーザーが増え始めるころには店頭販売も必要になると思いますが、それはいつ頃とにらんでいるのでしょうか。

舛田氏
 マーケットの声次第じゃないでしょうか。私どもは自信を持って提供しますけれども、実際に利用者が増えてもスピードが落ちないとか、きちんとした運営をしてくれてるねという評価が大きくなってくれば、おのずと「もっと手軽に手にできるようにしてほしい」という声も聞こえてくると思います。私どもの方で「何カ月先か」と決めるわけではなく、マーケットの声を聞きながら進めて行くことになるでしょう。

サポート体制

――サポート体制についても教えてください。当初は既存MVNOのユーザー、いわばアーリーアダプターという見方であれば、段階的に規模を大きくされるのかなと思うのですが、まずはどういった体制になりますか?

嘉戸氏
 リアル店舗での取り扱いがない状況で、店頭でのサポートは確かに必要が無いでしょうね。徐々に拡大していくことになるでしょう。最初はメール、電話での窓口をご用意しています。LINEの公式アカウントとして10時~19時、有人のチャットも近日、ご提供する予定です。

――BOT(ボット)も活用されますか?

嘉戸氏
 BOTの機能も用意していきますが、どういう問い合わせが来るのかを知りたい。なのでチャットについてはまず有人という形にしています。BOTと有人の違いについては、使い分けがされるのでしょう。有人窓口はコンシェルジュのようにやや難しい話について対応する、といった形です。

舛田氏
 そこはハイブリッドでなければ、お客さまも使いにくいでしょう。有人対応でデータを集め、学習させてBOTでできることを増やしていったとしても、全てBOTに切り替えてしまうと不便になりかねないと思います。

「モバイルとの付き合い方を変えたい」

――カウントフリー以外の機能では、すでに他のMVNOでも導入されているもので、一通り揃えたという印象を受けます。

嘉戸氏
 企画段階で、こういう機能があったほうがいいと考えていたことがそのまま、というのが実態に近いですね。

舛田氏
 これまでのMVNOって、ユーザーからの評価として料金が安いことしか魅力がないんですよね。でも安かろう悪かろうになったら困ります。今回発表した機能面はユーザーに必要なものを揃えた結果で、いわば最低限こうなったと。さらに充実させていきます。

嘉戸氏
 今回の考え方の1つとして「お客様のモバイルとの付き合い方を変えたい」と思っていました。たとえばどれくらい通信量が余っているのか、なくなったら購入しなきゃいけないのか。今回は、公式アカウントの画面ですぐ確認できるようにしました。

――それは専用アプリではなく?

嘉戸氏
 LINEの公式アカウントです。MVNOのためにアプリを入れてくださるかというと、そうではない。LINEで友だちとして繋がれば情報がわかる、すぐ問い合わせできるという形にしたのです。

舛田氏
 公式アカウントの中にコントロールパネルのようなものが埋め込まれ、ワンタップですぐ出てくるんですね。いわゆるマイページ的なものって実は使いづらかったりしますよね。我々はコンテンツプロバイダとしてさまざまなサービスを作り上げてきました。

 LINEモバイルのお客さまはほとんどがLINEをお使いになるでしょうから、“LINE感”を損なわずに、LINEだったらこうだよね、LINEモバイルだったらこうだよね、と感じていただけるよう、LINEモバイルを作ってきました。

 大手携帯キャリアのみなさんが垂直統合的にコンテンツを手がけてきましたが、我々はその逆で、コンテンツプロバイダの立場からどうすれば通信サービスが使いやすくなるのか、アプローチさせていただいたと思います。

通話サービスについて

――通話については、他のMVNOで多く採り入れられている定額サービスがありませんね。

舛田氏
 多くの方にとってはLINE通話(ユーザー同士のIP電話機能)で十分なんだと思います。もちろん(より品質のいい)音声通話プランもあります。

嘉戸氏
 安くできるに越したことがないと思いますが、それは1回数分という定額の形なのかどうか、もう少しユーザーの動向を見て検討していきたいと思います。というのも本当に通話って使われないんですよ。

――大手キャリアでは通話定額を導入した後、相当数が加入したこともありました。通話が使われないのは従量課金という料金体系という部分も影響するのでは?

舛田氏
 多くの方は音声通話が好きではないです。それはコスト面よりも「相手の時間を邪魔してしまうから」です。この感覚が、ある年代からはものすごく強くなっている。テキストでいつでも答えられるようなものがいいんです。仮にLINE通話をする場合も、「今から通話するけどいい?」と送るほど。コストよりもユーザーの行動パターン、ある種の生活スタイルが変わってきているのが一番大きいと思います。

 もっとも多くの方にご利用いただきたいですから、ニーズがあればそれにあわせたソリューションを提供していきます。LINEモバイルはどんどん成長していく、そういう会社であってプロジェクトだと思っていただければいいと思います。

ゼロレーティングについて

――特定のコンテンツの通信量を無料にすることは、通信業界では“ゼロレーティング”と呼ばれます。どの通信が無料対象なのか通信の中身を見なければいけない、という点も踏まえて、ネットワークの中立性や通信の秘密と関連するところですが、日本では、いくつかのMVNOが特定のサービスの通信量を無料にする方針を明らかにしています。LINEモバイルのカウントフリーももちろんそのひとつですよね。ゼロレーティングに関しては、国内で議論がまだ進んでいないとも思えます。

嘉戸氏
 今の状況は確かにまだスタンダードがありません。我々としては、我々自身がスタンダードを作っていくべきだと思います。カウントフリーそのものはユーザーにすごくメリットがあります。どういうカウントフリーの在り方であれば、通信の秘密などをクリアできるのか、整理してサービスすることにしようと考えました。

 通信の秘密という切り口では、誰が何を見ているか、どうやっているか、これまでどなたもきちんとお話されたことがないと思います。今回、我々は、契約いただける場合、個別かつ明確に、同意をいただかなければお申込みを進められない形にしました。カウントフリーにあたってはMVNEの事業者さんに委託していますが、そのとき何を見ているのか、明確にユーザーさんにお伝えするようにしています。

舛田氏
 これまでの問題は、利用規約で包括的に同意を取ってしまう、なし崩し的に後からゼロレーティングが導入されるといったところです。今回はサービスの核がゼロレーティングになりますので、申込フォームで、同意を明確にいただかなければ進めない形にしたのです。

――なるほど、個別にきちんと同意をとることが肝だと。しかしITリテラシーの低い方にそのあたりの説明が分かりやすく伝わるのかどうか気になります。

嘉戸氏
 確かに「IPアドレス」などと言われてもわからないかもしれませんが、隠すわけにはいきませんので、「こういうものを見ています」と示し、カウントフリー以外の目的で利用することは一切ないと表記しています。

 その一方で、たとえば「個人情報は見ていません」と見ていないものも案内しています。カウントフリーはMVNEさんにお願いして実装していますが、同意をいただく際の案内では「MVNE」という表現ではおそらくわからないだろう、ということで「これこれこういうことをしている事業者さんが」と表現しています。

カウントフリーの注意点

LINE LIVEは対象外

――カウントフリーの対象として、動画コンテンツも含まれていますね。ただ、LINE LIVEのようなライブストリーミングは対象外です。視聴する側が混乱することはありませんか?

舛田氏
 基本的にそこまでわかりにくくならないと思います。たとえばLINE LIVEという動画サービスがあるというサービスがあって、それは対象外だ、というのは難しくないだろうと。ただ、動画広告はわかりにくいかもしれませんので、カウントフリーの対象に入れました。

MVNEはNTTコミュニケーションズに、HLR/HSSの利用は

舛田氏
 LINEモバイルのMVNEはNTTコミュニケーションズさんです。MVNEをどちらにするか選ぶ際の理由の1つは、全国民にとって何をしている企業かパッとご理解いただき、信頼性がある、というところが挙げられます。

――NTTグループのブランド力ですか。

嘉戸氏
 もちろんそれだけではなくて、カウントフリーを実現するのは技術的に難しい部分があります。またLINE本体のアプリも、通信部分はどんどん変化しています。それをキャッチアップしてくださる体制かどうかというのもポイントです。

――記事では「DPI」(Deep Packet Inspection)と表記して済ましてしまうこともありますが、そんな一言ではおさまらないですね。

舛田氏
 LINEの通信部分は、どんどん変えていかないと保たないんですね。これって(LINEと協力せずに)外から見ているだけではわからないんです。カウントフリーを提供する、つまりお客さまと約束したサービス内容を実現するには、きちんと連携をして、(もし通信部分に変更が加わるなら)どういうタイミングで実施するか、事前にお知らせをして、それに対応していく。きちんとサイクルを回していかないといけないんです

――なるほど、MVNOの中にはLINEを含め、いくつかのサービスを無料対象にするとしているところがありますが、LINEモバイルでの体制と比べて、明確に違いがでるだろうと。「このサービスでは、これは無料のはずなのにそうじゃないぞ、課金されているんじゃないか」といった事態を招かないようにするというわけですね。

嘉戸氏
 お客様への保証として、そして正しいカウントフリーの在り方とはどういうことになるのか考えた結果です。

――さて先般、競合となるIIJが、HLR/HSSと呼ばれる加入者設備を自社で運用すると発表しました。これまでそうした取り組みはなかっただけに、仮にそうした設備を利用するとしても何が実現できるか不明瞭でしたが、LINEモバイルとしては何か検討されていますか?

嘉戸氏
 活用してどういうメリットがあるのか。本質的な部分を見極めてからやるかどうか、検討していくことになります。

フィルタリングを無料提供

――フィルタリングサービスを無料で提供されるんですね。その背景は?

嘉戸氏
 (居住まいを正し語気をやや強めて)これはもうLINEにとってミッションに近いです。やらなきゃいけないことです。

舛田氏
 LINEだから、です。

――なるほど。しかし契約者と利用者が本当にマッチするのか、きちんとフィルタリングサービスが使ってもらえるのか。そのあたりはいかがでしょうか。

嘉戸氏
 今回、契約者と利用者ははっきり分けています。年齢認証機能を実装していますので、18歳以下ですとID検索できません。お子さまの利用において、LINEはOKだけれども、誰かれかまわず繋がることはないようにしています。

舛田氏
 かつてはLINE自身がフィルタリング対象としてブロックされていたこともありますが、関係各所とお話をして今は適用外です。現在のフィルタリングでは、ゲームやコミュニケーションを楽しむ場合、障害になることはほとんどないと思います。もしフィルタリングサービスが有料であれば利用をためらう親御さんはいらっしゃるかもしれません。でもLINEでID検索できて、その結果、ご自身のお子さんが知らない人たちとLINEすることは、(親は)良いとは思わないはずです。LINEのフィルタリングを使えるようにすることは、年齢認証することとイコールです。正しく申告すれば無料でフィルタリングサービスが付いてくるとお考えいただけるといいですね。

LINEフォンは……

――端末ラインアップについても教えてください。いわば“LINEフォン”のような端末は今回ありません。これからも検討はされないのでしょうか?

嘉戸氏
 中の人としては「(LINEフォンは)要らないんじゃないか」と。率直にいうとそれだけなんです。

舛田氏
 LINEのキャラクターをあしらったスマートフォンケースはご提供していますので、ファンの方々にはもうお使いいただいています。LINEフォンのような形にして「LINEしか使えない」といった環境が良いかというと、それは違うと思うんですね。コミュニケーションフリーでTwitter、Facebook、LINEと揃えたのは、それだけ多くの方に使っていただきたい、多くのニーズにお応えしたいと思っているからなんです。

 またLINEフォンを仮に開発する場合、キャラクターのイラストをあしらうだけではなく、何か(操作にあわせたアクションなどを)起こそうとすると、OSレイヤーまで手を入れることになるでしょう。それは私たちが得意ではない領域になります。すでに多くのSIMロックフリー機種が国内で提供されていますので、そこから選んでいただくのがいい。そこで安価なものもあれば国内メーカーのものもあるということでラインアップさせていただきました。

――今後登場する新機種は、どれくらいのタイミングでLINEモバイルで取り扱われていくことになるのでしょうか。

嘉戸氏
 それはこれから端末メーカーさんとお話して決めていくことになります。

――ではiPhoneはいかがでしょう。日本では高い人気を得ている機種、というのはLINEの皆さんこそ、よくよくご承知だと思いますが、LINEモバイルの目指すスマートフォン普及率向上といった面やエントリー層といった部分を踏まえると、OSの違いはあまり関係がないという見方なのでしょうか。

舛田氏
 グローバルで展開しているLINEとしては、海外のなかでAndroidが強いエリアのほうが多いと認識しています。ただ、日本ではiPhoneのほうが強い。そしてOSは関係がないわけではないでしょう。ブランドも重要です。ではどうするか、というと、ラインアップできればいいなとは思いますが、メーカーさん次第ですね。ラブコールを送りたいかどうか、というと送りたいです。

LINEモバイルとグローバル

――LINEモバイルの事業の推移をどういう指標でチェックされるのでしょうか?

舛田氏
 契約数、そしてスマホ化比率。この2つでしょうか。

――LINE本体がどれくらい使われるかというのは、LINEモバイルが伸びれば自然と付随すると?

舛田氏
 そうですね。実際にスマートフォンユーザーのほとんどにお使いいただいてますし、スマートフォンが増えればアクティブ率も伸びていくでしょう。

――最後に教えてください。LINEはグローバルで提供されるサービスです。一方、通信事業は今のところ、どの国であっても、その国内に限定されるドメスティックなものになっていると思います。グローバル展開するLINEだからこそ、たとえば複数の国で使えます、といった強みを打ち出していかれるのでしょうか。

嘉戸氏
 もし、どこかの国でサービスを立ち上げる場合は、おそらく座組(組織や構成)はもう全然違うものになりますよね。MVNEという機能自体が存在するかどうかという面もあります。

――なるほど、ありがとうございました。