ケータイ用語の基礎知識

第770回:ジャイロセンサー とは

 2016年夏に登場し、グローバルで人気を得たスマートフォンゲーム「Pokémon GO(ポケモンゴー)」では、AR機能を使ってゲームをする場合、端末内部に「ジャイロセンサー」が搭載されていることが必須条件になっています。

 ジャイロセンサーは、「角速度センサー」とも呼ばれ、回転や向きの変化を検知するセンサーのことです。かつて本連載の「第623回:MEMSとは」で解説したMEMSデバイスは現在、さまざまな機器に搭載されるようになりましたが、その代表的な存在のひとつがジャイロセンサーです。

 デジタルカメラの手ぶれ防止機能や、モーションセンサーのデータ取得、カーナビゲーションの自律航法情報の取得などのほか、最近では携帯用ゲーム機にも搭載され本体をある時間中にどれだけ傾けたかといった情報を取得し、キャラクターの動きに反映させるといったことにも使われています。

 先述した「Pokémon GO」では、スマートフォンに内蔵されたジャイロセンサーから端末の傾きを検出し、カメラが捉えた背景とポケモンを合成する際、ポケモンが現実世界にいるかのように表現するため活用されています。

電気的に振動させ静電容量で角速度を検出

 ジャイロセンサーの「ジャイロ」とはラテン語で「輪」を意味する“gȳrus”から来ています。1852年、フランスの物理学者フーコーが「非常に長い振り子に、非常に重いおもりをつけて揺らすと地球の自転によって振り子の振動方向が、みかけ上、少しずつ回転するようにずれていく」という実験をしました。これはいわゆる「フーコーの振り子」と呼ばれるものですが、この装置のことをフーコーは「ジャイロスコープ」と呼びました。

 回転する円の中では、その中心から端に移動しようとすると移動しようとする方向から垂直方向に慣性の力がかかります。この力のことを「コリオリ力」「転向力」と言うのですが、フーコーの振り子は、地球の自転によって発生しているコリオリ力を目に見える形にしようとしたわけです。

 フーコーの振り子の場合、地球が1日で360度、1分当たり0.25度回転することをこれで測ろうとしました。物体がどの程度の速度で回転しようとしているのか、という角速度を測るセンサーを「ジャイロセンサー」と呼ぶようになったのです。

 現在のジャイロセンサーも、フーコーの振り子と同様にコリオリ力や回転慣性あるいは、サニャック効果といった物理現象を利用して、ジャイロセンサー搭載機器にかかる角速度を測定しています。

 ちなみにジャイロスコープという言葉は世界で通じますが、かつて英語では“gyro rate sensor”などと呼ぶのが一般的でした。ですが現在では、世界の多くの国でもMEMSデバイスの場合、gyro sensorでも伝わるようです。

 もちろん、現代使われているジャイロセンサーにフーコーの振り子のような巨大な振り子が組み込まれているわけではありません。小型化するために同じようにコリオリ力などの物理現象を検出するための装置が工夫されています。

 現在のジャイロセンサーの仕組みとしては、「回転機械式」「光学式」「振動式」という3つが代表的なものです。

 「回転機械式」は、装置として地球コマのようなコマを用意し、機械的に回転させるというものです。綺麗に回転させたコマの場合、回転を傾けるような力がかかると元の状態に戻ろうとする慣性力が働きます。この力を検出することで、かかった力の元となった角速度を検出するというわけです。かつては飛行機などに搭載される装置にこのタイプが使われていました。

 「光学式」は、反射板や光コイルを使ってレーザー光で筐体の回転を検出するタイプのものです。光の周回速度は不変なのでこれを基準とすると、センサーが搭載されている装置が回転した場合、相対周回速度のズレが観測できることを利用しています。

 最後の「振動式」は、半導体デバイスのジャイロセンサーでよく使われている仕組みです。スマートフォンに搭載されるMEMSデバイスのジャイロセンサーの場合、もっとも一般的な構造なものでは、シリコン基板上に振動子が作られています。この振動子に電気を流して一定の間隔で振動させます。一定の速度で振動している振動子が揺らされた場合、その角速度に応じてコリオリ力が発生します。

 振動子の周りには電極が張り巡らされていて、振動子との間には一定の静電容量が生じています。つまり、揺れによるコリオリ力が発生した場合、一定であった静電容量に変化が生じます。この電気的な差を検出すれば、装置にどのような揺れがかかったのかを検出することできるわけです。

 実際のMEMSデバイスでは、さらにこの振動子と静電容量を計る電極の構造を工夫し、一個のセンサーLSIでヨー軸・ピッチ軸・ロール軸というように、3次元空間で使える情報を取るために、3軸における振動の角速度を計測できるようにするなどより高度化したものが、スマートフォンなどには搭載されています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)