レビュー

「iPhone SE」ファーストインプレッション

「iPhone SE」ファーストインプレッション

「iPhone 5s」のボディに「iPhone 6s」のスペックを詰め込んだモデル

iPhone SE

 アップルのiPhone/iPadというと、ここ数年は毎年9月ごろに新モデルが発表・発売されているが、今回は半年ずれた3月というタイミングで「iPhone SE」と「9.7インチiPad Pro」が発表され、3月31日に発売された。いずれも「既存モデルのサイズ違い」という位置づけだ。

 iPhone SEは4インチディスプレイを搭載している。2013年発売の「iPhone 5s」とほぼ同じデザインだが、中身はiPhone 6s/6s Plusに近い最新世代のものになっている。価格はこれらの最新モデルよりちょっと安めに設定されているのも特徴だ。

 発売日の3月31日に、iPhone SE(64GBモデル/スペースグレイ/SIMフリー版)を購入できたので、従来機種とどこが違うのかといったポイントを中心にレビューをお届けする。

デザインはiPhone 5sとほぼ同じ

iPhone SE(左)とiPhone 5s(右)。写真だとわかりにくいが、iPhone SEの方が筐体色が薄く、アップルのロゴが黒に近い

 iPhone SEはiPhone 5sとほぼ同じデザインとなっている。違いはiPhoneロゴの下の「SE」マークと、微妙な色味ぐらいなもの。ただし、ボディカラーのローズゴールドはiPhone 5sにはなかった色だ。形状はほぼ同じなので、iPhone 5/5s用のジャケットやケースなどは、iPhone SEでほぼ流用できると思う。ボタンやコネクタ類も従来のiPhoneと変更はない。

 従来同様に金属製のボディだが、背面の上下だけ強化ガラスのような非金属になっている。おそらくアンテナ類を内蔵している部分だろう。この非金属部分は前面/背面ともに同じ色で、スペースグレイのみ黒、シルバー/ゴールド/ローズゴールドは白だ。

正面
背面
左側面はお馴染みのスライドスイッチと音量キー
iPhone 6系と異なり、右側面はSIMカードスロットのみ
iPhone 5sまでと同様、電源キーは上端
下端に各種端子。このあたりのデザインもiPhone 5sと同じ

 本体のサイズは123.8×58.6×7.6mmで重さは113g。サイズはiPhone 5sと同じで、重さは1gだけ増えているが、違いは体感できない。

厚みはiPhone SE(左)よりiPhone 6s(右)の方が薄い

 iPhone 6系と比べると、側面は丸みがない垂直な平面で、手に馴染みにくい部分もあるが、iPhone 6sより横幅は8.5mm(約13%)狭く、重さは30g(約21%)も軽量なので、片手で操作するときもしっかりと握りやすい。ちなみに厚みは7.6mmで、iPhone 6/6sよりやや厚い。

 4インチのディスプレイは、イマドキのスマートフォンにしてはかなりコンパクトなサイズで、片手で使うときに親指が画面の隅々まで届く。とくに画面上方のUIにも親指が届きやすいのは、片手利用時に非常にありがたいポイントだ。

左からiPhone SE、iPhone 6s、iPhone 6s Plus

 筆者はiPhone 5s→iPhone 6→iPhone 6sとメイン機種を移行してきたが、今この大きさのiPhoneを手にすると、「何この小ささと軽さ、画期的!」とか思ってしまう。2年前に戻っただけなのだが。

キーボードの個々のボタンは、幅こそ違うが、高さがほぼ統一されている

 ディスプレイの解像度は1136×640ドットで、iPhone 5/5sと同じだ。iPhone 6/6sの1334×750ドットよりやや劣るが、ドットピッチは同じだ。キーボードやボタンなどの基本的なUIは、実寸がほぼ同じサイズになり、iPhone 6/6sなどの大画面/高解像度のiPhoneは表示できる情報量が増える、という違いになっている。

iPhone 6系の解像度に非対応のアプリだと、キーボードごと拡大される

 しかしiPhone 6系の解像度に対応しない一部のアプリでは、単純に拡大表示され、キーボードなどのUIが無駄に大きくなって若干使いづらくなることもある。

 ホーム画面のアイコンはiPhone 5s同様、4個×5列だ。iPhone 6系は4個×6列なので、iPhone 6系のバックアップから復帰するときは注意が必要となる。

iPhone SEのホーム画面
iPhone 6sのホーム画面

通信機能以外はiPhone 6s/6s Plusに近い、3D Touchはナシ

 iPhone SEはこれまでのiPhoneよりやや廉価な価格付けとなっているが、搭載するプロセッサーはiPhone 6s/6s Plusと同じA9チップだ。App Storeで販売されているベンチマークアプリ「Geekbench 3」によると、プロセッサーのクロックもシステムメモリー容量も同等で、ベンチマーク時にも誤差程度の違いしかない。

 A8チップ以前と比べるとけっこうな高速化で、例えば「文字入力時、キーボードが表示されるまでの微妙なタイムラグ」が大幅に短縮されている。Geekbench 3によると、A8チップ以前のシステムメモリ容量は1GBで、A9チップ世代だと2GB(12.9インチiPad Proのみ4GB)になっているので、タスク切り替え時の動作がスムーズになりやすいようだ。

Geekbench 3によるiPhone SEのスペック情報
Geekbench 3によるiPhone 6sのスペック情報
iPhone 6s(左)のカメラ部はかなり出っ張っているが、iPhone SE(右)は真っ平ら

 カメラもiPhone 6sに近い性能で、12メガピクセル、F値2.2で、Live PhotosやFocus Pixelsによる高速AF、ビデオ撮影は4Kやスローモーション撮影に対応している。さすがにiPhone 6s Plusのような光学手ぶれ補正は付いていないが、iPhone 6系のようなカメラ部の出っ張りがないデザインは、iPhone 6/6sにはないiPhone SEの魅力だ。

 iPhone 6s/6s Plusで採用された「3D Touch」には、iPhone SEは対応しない。しかしこれは筆者の個人的な感想だが、iPhone 6sを半年間使っていて、3D Touchが活躍することはほとんどなかった。3D Touchはサードパーティ製アプリでもあまり活用されておらず、あったら便利な機能かも知れないが、現状では「なくても困らない」機能にとどまっているためだ。

 NFCも搭載しているが、Apple Payが使えない日本では活用方法は限られる。

ホームボタン周辺の色はカラーバリエーションごとに違う

 ホームボタンの指紋認証センサー「Touch ID」は第1世代のもので、iPhone 6s/6s Plusに搭載された第2世代のものに比べると、認識速度は劣る。しかしiPhone 6s/6s Plusの認識速度が速すぎるだけで、他社製品と比べても、iPhone SEの認識速度が特に遅いわけではない。

 まだ使い始めたばかりなので実感はできていないが、カタログスペックによると、一部の用途でiPhone 6/6sよりもバッテリーの持ちが向上している。具体的にはインターネット利用やビデオ再生など、画面を点灯させる用途において、2割程度、長時間利用できるようになっている。

 iPhone SEのバッテリーの持ちが良いのは、画面サイズによるものと推測される。4.7インチのiPhone 6/6sに比べると、iPhone SEの画面面積は72%なので、バックライトの消費電力もその分、抑えられているのだろう。

相変わらず対応バンドは多く、TD-LTE対応だけどCAは非対応

 日本で販売されるiPhone SEは、モデル「A1723」という対応帯域・対応通信機能がほぼ全部入りのグローバルモデルである。

 TD-LTEを含む19種類のLTEバンドに対応している。日本だと例によって1.5GHz帯(バンド11と21)には対応していないが、それ以外のバンドには対応している。スペック上のLTEの最大速度は150Mbpsで、「4G LTE」対応となっている。

iPhone SEはVoLTEにも対応する

 iPhone 5sに比べると、日本で使われているTD-LTE(バンド41)が使えるようになったので、auやソフトバンクのネットワークではその恩恵を受けられる。また、VoLTEにも対応している。

 しかしiPhone SEは、iPhone 6s/6s Plusで対応したキャリアアグリゲーション(CA)には対応しない。この点は日本のキャリア各社にも確認した。iPhone 6s/6s Plusはスペック上の最大速度が300Mbpsで「4G LTE-Advanced」対応なので、iPhone SEはこれらと比べると性能が落とされている形だ。

 簡易的に今回、仕事場(東京の渋谷駅近く)で通信速度を計測したところ、まずドコモ回線ではiPhone SEだと下り30Mbps前後、iPhone 6sだと下り40Mbps前後、iPhone 6だと下り30Mbps前後が出ていた。iPhone 6sだけがやや速いが、そこまで大きな差はない印象だ。

 au回線では、iPhone SEだと下り55Mbps前後、iPhone 6sだと下り60Mbps前後、iPhone 6だと下り25Mbps前後となった。TD-LTEを掴んだと予想されるiPhone SEとiPhone 6sではかなり高速な結果。iPhone 6はTD-LTEの電波を掴むのに失敗したという可能性がある。

 簡易的なテストであり、場所や時間帯、どの帯域を掴むかによって速度が左右されるので、「こんなこともある」程度の参考にして欲しい。

 ちなみに北米のアップルストアで売っているiPhone SEは、「A1662」というアメリカ向けモデルで、TD-LTEやバンド28に対応していない。日本の技術適合認証を取得していない可能性もある。価格が少しだけ安いからといって、アメリカ土産でiPhone SE買うのはオススメできない。

iPhoneシリーズの中では安価。MVNOにも悪くない選択肢

 Androidの“格安スマホ”などと比べるとやや高いが、iPhone SEはiPhoneシリーズ中では比較的安価な価格になっている。アップルストアにおける64GBモデルの価格(税別)で比較すると、iPhone SEは6万4800円、iPhone 6sは9万8800円、iPhone 6s Plusは11万800円だ。こう並べるとiPhone SEが安いと感じてしまうが、11万を超えているiPhone 6s Plusが高いというハナシでもある。

iPhone 5系やiPhone 4系、iPhone SEは側面が垂直なので、水平な面には立たせることができる。あまり意味は無い

 LTE-Advancedや3D Touchなど、一部機能でiPhone 6s/6s Plusと差が付けられているが、処理速度に関係するプロセッサーなどは最新で、電池の持ちはむしろ良いということを考えると、iPhone SEはお買い得なモデルだと思う。

 iPhone 6s/6s Plusと違い、iPhone SEには128GBモデルが用意されていないが、動画を大量に保存するとかでなければ64GBモデルで十分だ。ただし、16GBモデルになると、写真やゲームアプリなどでもストレージを圧迫しやすく、OSアップデートの際に空き容量を確保できず困る場合があるので、あまりオススメはしない。

 MVNOと組み合わせて運用するのも悪くない。一部のMVNOはiPhoneを積極的にサポートしているので、そうしたMVNOを選べば、使う上での安心感も大きい。対応バンドが多く、ドコモ網でもau網でも使えるというのも魅力だ。SIMフリーのAndroidスマホよりも高価だが、iOSはアップデートが長期にわたって提供される傾向があるので、MVNOで月額の料金を抑えながら長く使うのにも向いている。

片手で使うのに最適なサイズ感のiPhone SE

 iPhone SEの登場により、iPhoneシリーズは4インチ、4.7インチ(iPhone 6系)、5.5インチ(iPhone 6 Plus系)の3種類がラインナップされることになった。前述の通り小さくない価格差があるが、筆者としては、iPhoneを選ぶときは価格よりもサイズで選ぶことをオススメしたい。

iPhone SE。親指の位置が下の方でも画面上部に指が届く

 スマホを片手で使いたいならば、今回のiPhone SEが最有力候補だ。シャツやパンツのポケットに入れて持ち運ぶとき、iPhone SEのサイズなら邪魔になりにくいというのもメリットだ。

 スマホを主に両手で使うなら、iPhone SEのメリットは小さいので、iPhone 6s/6s Plusがオススメだ。両手でQWERTYキーボードを使うならば、iPhone 6s Plusくらい大きい方が使いやすい。もちろん画面に表示される情報量が多いのも魅力だ。

iPhone 6s Plus。親指の位置をかなり上に動かしても、片手操作で画面上部は無理

 ただしiPhone 6s Plusクラスになると、衣類のポケットにもやや大きめなので、どちらかというとカバンに入れて持ち運ぶ人向けとなる。

 iPhone 6sは片手でもなんとか使える大きさでありながら、両手でも使いやすく、画面もそこそこ大きい。バランスが良いサイズだが、中途半端なサイズとも言える。

 どのサイズが良いかは、使う人の手の大きさや使うときのクセなどによるところが大きい。新しいiPhoneを選ぶときは、「大きい=正義」や「新しい=最良」などとは決めつけず、店頭などで実機を触り、自分に適したiPhoneを選んで欲しい。

iPhone 6s。親指の位置をやや上に動かせば、画面上部に指が届くが、片手操作のしやすさはiPhone SEほどではない

 現在iPhone 6系を使っていて、やっぱりiPhone SE(iPhone 5s)のサイズ感が良いなぁと感じている人は、買い換えタイミングとしてはやや早いものの、iPhone SEにすることを検討しても良いかも知れない。

 今年の秋に新たな4インチのiPhoneが発表されるとは限らず、秋まで待っても、4インチの選択肢がiPhone SEだけという可能性は高い。一方で、勝手な予想ではあるが、秋に新モデルが発表されれば、iPhone 6系の中古買取価格は下落する可能性も高い。いま使っているiPhoneの査定・買取価格が十分に高ければ、下取りに出してiPhone SEを買ってしまうのも悪くない選択肢だ。

白根 雅彦