KDDIがARアプリの新ブランド「SATCH」、開発キットも


 KDDIは、AR(Augmented Reality、拡張現実感)のアプリケーションの拡充に向けて、新たなブランド「SATCH(サッチ)」を立ち上げると発表した。

 「SATCH」は、KDDIのARアプリ拡充に向けて新たに創設されたブランド。情報を“察知”する、あるいはサッと携帯電話をかざしてチェックする、といった意味が込められたネーミングという。KDDIでは9月、フランスのTotal Immersion(トータルイマージョン)とAR事業に関して業務提携し、さらに出資すると発表していたが、「SATCH」の立ち上げにあわせて、Total Immersionの画像認識エンジン「D'fusion」を用いたARソフト開発キット「SATCH SDK」を12月15日18時より開発者向けサイトで無償提供する。

Total ImmersionのUzzan氏(左)とKDDIの雨宮氏(右)

 このSDKでモバイル向けARアプリが開発できるとのことで、さらにそのアプリがau one Marketに登録されれば、企業の販促活動、観光PRなどに活用できる、としている。第1弾として、江崎グリコ、サントリー、森永製菓などが同SDKを採用する予定。今後は、ARアプリのポータルサイト、あるいはARアプリの再生機能を備えるARブラウザ「SATCH VIEWER(仮称)」を提供する。

 同社では15日、開発者などに向けたイベント「AR First Step Conference」を開催。展示スペースでは、「SATCH SDK」を使った各社のアプリが展示されていた。ただし、今回のアプリはあくまで現時点でのデモ用バージョンで、正式リリースは来年2月~3月になる予定で、アプリの内容、あるいはアプリと連動したリアルでの新たな施策が展開する可能性がある。

KDDI雨宮氏、SDK提供の狙いを語る

 「AR First Step Conference」で最初に壇上に立ったKDDI新規事業統括本部 新規ビジネス推進本部長の雨宮 俊武氏は一般層におけるARの認知度は低いことから、「日常化」をキーワードに、浸透を図ると説明。そこで新たに立ち上げたのが「SATCH」であり、アプリの登場を促進するため、開発者向けキットを提供したと語る。

 これまでのARアプリ、サービスでは、認識のためのマーカーが必要だったり、技術そのものが有償(ライセンス)だったりした、と雨宮氏は指摘。今回提供される「SATCH」ではマーカーなしで、任意の二次元平面を認識できるほか、3Dや2Dを重ねて表示したり、アニメ表示もできる。Twitterなどのソーシャルサービスとの連携、位置測位との連動なども可能で、オブジェクトの安定性なども優れているという。たとえば認識対象のうち60%ほどが手などで隠れていても認識できる。また数m離れても認識し続けるなど追従性も高いという。

日常化を目指すSATCH SDKの特徴

 さらに同氏は、ARアプリの課題として、企業の販促ごと、あるいはARサービスごとにアプリを1つ1つダウンロードする必要があると指摘。たとえばQRコードやおサイフケータイは、カメラにプリセットされる機能を使ったり、端末をかざすだけだったりするなど、どのようなキャンペーン/サービスでも同じ手順で操作する。ARアプリでも、そうした使い勝手の統一が必要であり、そのために用意されるのが来年2月提供予定という「SATCH VIEWER」だ。ARコンテンツを楽しめる機能のほか、ポータル機能も用意され、さらに手軽にAR風のアクションを作成できる“簡易オーサリング機能”が用意されている。

ARアプリの課題SATCH VIEWERの特徴
SATCH VIEWERの簡易オーサリング機能

 この簡易オーサリング機能は、認識対象の写真や物体を最初に決めて、その次に、「認識したら表示するコンテンツ」を決める。この際、表示するコンテンツは、静止画や動画、3Dオブジェクトなどを指定できる。コンテンツを決めれば、すぐカメラが立ち上がり、認識モードに入る。認識の際には、特徴的な部分(特徴点)を抽出しているとのことで、円形よりもギザギザした模様のほうが認識しやすい。店頭や商品などでの連携が想定されるARだが、簡易オーサリング機能を使うことで、たとえば家庭内で子供と“ARな宝探しごっこ”をするなど、より多くのユーザーの日常で遊べる機能になりそうだ。

 最後に雨宮氏は「考えただけでもワクワクする世界をつくりたい。さらに開発キットの進化を促進させて、セミナーなどを開催する」と意気込みを語った。続いて登壇したたTotal Immersion CEOのBruno Uzzan氏は、13年前の会社設立時に比べ、現在はARがビジネスとして成り立つようになってきたと語る。同社でも2010年に黒字化を達成したとのことで、今後のさらなる市場拡大に期待感を示し、オンラインショッピングでの衣装合わせといったEコマース分野のほか、将来的には医療分野などでの活用も見込めるとして「SATCHを世界で活用されるプラットフォームに育てたい」と述べた。

ARによるリアルタイムの衣装合わせ足を動かすと画面内の衣装の裾も動く
足だけでなく体を動かしても追従する別の衣装にしたところ
SATCH対応年賀状年賀状にカメラを向けると3Dオブジェクトが表示される
グリコのデモアプリ商品を認識すると、タッチ操作のダーツゲームをプレイできる
サントリーのアプリ。商品を認識するとグラスが現われ、花びらが舞う。花びらにタッチすると情報を表示森永のゼリー飲料のアプリ。商品を認識するとボールが現われ、タッチすると音が鳴る
富山県氷見市でのアプリ観光案内にも活用




(関口 聖)

2011/12/15 14:39