「過去を踏まえた議論を」、KDDIが振り返る通信自由化


 KDDIは27日、1985年の通信自由化から今日までの通信業界の流れを報道関係者向けに紹介する説明会を実施した。プレゼンテーションを行った同社渉外・広報本部 渉外部 部長の古賀靖広氏は、「通信自由化から25年となる来年、NTT再編が議論されるとのことだが、今回はNTTの組織云々ではなく、これからの議論の前提として過去25年を振り返ってみたい」と述べ、説明をスタートした。

通信分野、競争の歴史

 国内最大手の通信企業であるNTTグループは、1985年、前身の日本電信電話公社(電電公社)が民営化することで設立された。その歴史的経緯から、現在も日本国内の電話網の多くはNTTが保有する設備だ。一方、現在のKDDIに繋がる旧KDDや旧日本テレコム(現ソフトバンクテレコム)などは、1987年頃から長距離通話サービスに参入した。

 東京―大阪間の通話料(平日昼間)は、約20年前の1988年、3分間で400円だったが、新規参入した企業(通称NCC)による通話料は、3分300円だった。その結果、NTTと他の事業者間で通話料の競争が発生し、2001年頃には3分80円にまで値下がりした。

 一方、NTT東西が提供する加入電話(固定電話)の基本料は1985年時点で月額2000円だった。NCCが参入したのは長距離通話で基本料分野では競争していない。そのためか、1995年時点ではNTT東西の基本料は2140円に値上がりした。NTT以外の企業が自宅まで電話線を提供するサービス(直收電話サービス)は、ドライカッパー(未使用の加入者回線)への接続料が見直されたことで、2003年以降にスタート。これにより、NTT東西の加入電話は月額1700円、KDDIのメタルプラスは月額1500円となっている。

固定電話の通話料推移基本料の推移

 加入電話の基本料が値下がりしたものの、既にニーズはインターネットへと切り替わっていた。20世紀まではダイヤルアップ中心で、従量課金だったが、ヤフーやイー・アクセス、アッカなどがADSL事業で市場を牽引し、料金は低廉化した。多くのADSL事業者がサービスを展開できたのは、NTT東西のメタル回線を借り受けられたことが要因の1つという。一方、FTTH(光ケーブル)については、電話線ではなく光回線をゼロから敷設していくことから、NTTや他社が設備競争できるようになっている。ただし、全国隅々まで光ケーブルを設営し、設備を充実させていくには「数十兆もの投資が必要であり、設備投資して回収していくというのは、現実的ではない」(古賀氏)というのがKDDIの見解であり、実際に体力に勝るNTT東西のシェアが、回線網で見ると79%を占める。このNTT回線を借り受けて他社がサービス展開することもあるため、サービス面で見ると、NTTのシェアは74%と若干下がるが、このまま設備競争が続けば、NTTのシェア拡大が続く、というのがKDDIの考えだ。

 一方、固定回線のインターネット利用が普及するのと同時期に発展したのが携帯電話市場だが、こちらはNTTドコモ、au、ソフトバンクモバイルなどがそれぞれ設備投資し、さらにサービスも提供して競争している。これについて古賀氏は「携帯電話の基地局は全国で数万局」として、固定回線の普及に比べると、設備投資額はその後の事業展開により回収できる規模と説明。そういった要因もあり、携帯電話市場については、健全な競争が行われていると分析した。

古賀氏、「これまでの経緯を踏まえた議論を」

KDDI古賀氏

 通信自由化以降、四半世紀に及ぶ流れをざっと紹介した古賀氏は、「NGNについては。NTTが独占のために設備投資しているのではないか。それを総務省も認めているのではないか。NTTコミュニケーションが担っていた県間通信などもNTT東西が手掛けられるようになった。そもそもNTT再編で目指していたことはなにか」と述べ、競争できる環境作りが重要とする。

 コスト面で全国展開することが難しいのであれば、都市部だけに集中してFTTHを提供するという施策も考えられるが、古賀氏は「採算性が薄いところについて、どこまでやるか、どういう仕組みになるのかによるが、できるだけ広い範囲でやるのが当然。ただ、現状は需要が集中するエリアで展開せざるをえず、それでも年間500億円の赤字を出し、かなり厳しい戦いをしている」と述べた。

 同氏は、「独占で放置されていると料金は高止まりする。2010年には、国内でブロードバンドが行き渡るが、これからの通信分野をどうするか決めていく時期になる。今回は、NTTの組織や“今後こうすべき”と論じる気はないが、このままNTT独占が進むのは、ユーザーのためにならないのではないか」と語り、過去の事例から競争環境の有無の影響をくみ取り、今後の通信分野の政策に活かすべきとの考えを示した。

ネット接続環境の構造とシェアNGNにおける問題を図示

 



(関口 聖)

2009/8/27 16:55