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PayPal日本担当者が語る、PayPalの日本戦略とは

「ライバルは現金」、対面販売の取り組みを強化

 PayPalは、「顔パス支払い」の愛称で展開している「ペイパル チェックイン支払い」など、対面販売の現場での施策を拡大させている。これは米国を含めたPayPalの世界的な戦略として進められているもので、販売店の売り方、ユーザーの支払い方という双方に変革をもたらす取り組みになっている。

ペイパルの「顔パス支払い」

カード決済以外にも特徴の多いPayPal

 PayPal 東京支店 コミュニケーションズ部長の杉江知彦氏によれば、「PayPalの目指す未来は、財布をなくしたい、というもの。デジタル、クラウドにして、必要なときに呼び出す。サムスン電子から発売されるスマートウォッチ「Gear 2」にPayPalアプリが入ることになっているが、これでおサイフケータイならぬ“おサイフ時計”になる」などとビジョンや具体例を示し、ネットワークにつながる多くの端末がおサイフの機能を持てるようになるとする。「もちろん、クレジットカードもお金も無くならないだろうが、それでもお財布の形は変わるだろう。カードは1~2枚で済むようになる」(杉江氏)。

PayPal 東京支店 コミュニケーションズ部長の杉江知彦氏

 PayPalの日本展開は比較的最近だが、シリコンバレーの技術系企業としてすでに15年以上の活動実績があり、中小企業や個人がクレジットカード決済システムを簡単に導入できなかった時代から、それらを支援するシステムとして欧米を中心に提供されてきた。予めPayPalの口座に入金しておけば、PayPalのユーザー同士で簡単に送金できるほか、クレジットカードでその都度決済できるシステムも用意されている。米国ではWebサイト上で個人から寄付を募る仕組みとしても多く利用されているほか、オンラインショッピングではクレジットカード決済とならぶ決済手段として広く利用されている。

 PayPalが単純なクレジットカード決済の代行と大きく異なるのは、PayPalの会員情報としてユーザーの住所も管理している点。例えばショッピングサイトで決済にPayPalを選択すれば、すでに登録しているPayPalの住所が利用されるため、改めてショッピングサイト側に住所を入力する必要はない。ショッピングサイト側に住所などを入力する会員登録も不要になるため、ユーザーにとってはより気軽に買い物をしたり、衝動買いしたりしやすくなる。

 また、PayPalで利用したクレジットカードなどの情報は店舗側に渡らないため、ハッキング被害などによる個人情報の漏洩で多くのケースを占める「店舗側からの漏洩」というリスクを軽減できるとする。

 決済の面では、直販サイト、楽天のようなショッピングモールに対する「第三の選択肢」とも位置づけており、個々のサイトは独立しているものの、PayPalという決済手段で「ゆるやかに繋がっている」という。

 こうした独自の口座基盤とクレジットカード決済、会員の住所も持つという特徴を備えるPayPalだが、不正利用から販売店を保護する仕組みのほか、ワンクリックの決済などさまざまな手段も提供しており、コンサルティングなどを含めて、より販売店に近い領域で活動を行っている。

PayPalの目指す未来
ペイパルが第3の選択肢として、Eコマースの活性化を図る

PayPalと連携「POSデータをマーケティングに活用できる」

 対面販売向けの施策は“オフライン支払い”などとして強化している分野で、日本でも「PayPal Here」と組み合わせた「ペイパル チェックイン支払い」を「顔パス支払い」の愛称で提供し始めたところだ。「顔パス支払い」という愛称は日本独自のもので、杉江氏によると、「つけ払い」などのような日本の商習慣や、得意客といったイメージを意識した部分もあるという。

 ユーザーはアプリ上で店舗にチェックインするだけで済み、店舗側はアプリ上に表示されたユーザーの顔写真を確認し、決済額を入力。決済に同意するボタンは支払うユーザーがタッチして操作する。店舗側が利用するアプリは、予めメニューと価格を登録すれば簡易POSレジとして機能する。実際に決済が行われると、バックグラウンドでは、ユーザーのPayPalアカウントから店舗のPayPalアカウントに送金される仕組みになっている。

 「顔パス支払い」では、ユーザーはチェックインする際に、アプリ上で訪れている店をリストから選ぶ必要がある。しかし、今後はBluetoothを利用したビーコンを活用し、予め許可しておいた店舗であれば、訪れるだけで自動的にチェックインするような仕組みも検討されている。ビーコンとの連携が実現されると、ユーザーはスマートフォンを持ってお店を訪れ、注文時に決済の確認としてお店の端末に1回タッチするだけで、支払いが完了することになる。

 「顔パス支払い」を導入する店舗側のメリットは、これまで把握できなかった「誰が買ったか」という情報を管理できる点にある。オンラインショッピングでは、ユーザーの購買履歴に基づいたレコメンドが一般的になっているが、多くのリアルな店舗では難しい課題だった。

 「PayPalで見えている未来は、POSデータをマーケティングに活用できること。POSは計算機の延長だが、PayPalと組み合わせればマーケティングツールになる。久しぶりの来店だとか、お気に入りのメニューだとか、これまでなら個々の店員に頼っていたようなことを、データで提供できる。もちろんどこまでするかの運用は、あくまでお店によるが」と杉江氏は語り、主に販売実績として使っていたPOSデータを、より活用できるようになるとする。

「顔パス支払い」として展開する「ペイパル チェックイン支払い」のアプリ。リストから訪れている店舗を選択するが、将来的にはビーコンによる自動チェックインを検討している
チェックイン操作の様子
スライドするとチェックインが完了
「PayPal Here」を導入した店舗側のiPad。クレジットカードのリーダーライターは無くても動作する
店舗にチェックインしたユーザーが顔写真で確認できる
最後の決済確認のボタンは支払うユーザーが操作する
支払うユーザーに確認ボタンを操作してもらう様子。決済は注文ごとに行う
東京・原宿の「ネスカフェ原宿」では顔パス支払いが導入されている。現在は1日に数件の利用があるという

オフでの買い物をオンで補完

 また、「オンとオフの融合が、PayPalを使うことで可能になる」とし、対面販売とオンラインでの販売を連携できるのも、インターネット上に会員基盤を持つPayPalの特徴とする。例えばヤマダ電機で試験提供されている「顔パス支払い」では、テレビを買ったユーザーに対し、オンラインショッピング側でテレビ台をおすすめしたりといったことが可能になっているという。

 また、将来的に、店頭での支払いに関する部分では、セルフレジのようにユーザー自信が操作して決済まで行う仕組みについて「小売のセンターなどでは間違いなくこの方向」とも予測。店員は、店舗を訪れた顧客を支援することにより多くの時間を割けるようになるとしている。

 将来をにらんだ取り組みでは、米国を中心とした事例も紹介された。ショッピングモールが多い米国では、一定の割合で空きテナントがあるとのことで、こうしたスペースを、デジタルサイネージなどを組み合わせて活用。ショーウィンドウを使ってアピールする一方で、注文はその場の端末やスマートフォンで行う仕組みになっており、購買行動の確認も可能で、さまざまな活用が行われているという。

オフライン決済の革新を目指すPayPal

 「(PayPalは)なぜオフラインに行くか」と自問する杉江氏は、「パイが圧倒的に違う」という理由を挙げる。「リアルな店舗も、実際はほぼオンライン化されている」と実情を指摘し、中小企業にとっては、特別なハードウェアを導入しなくても済むPayPal連携の仕組みは、決済に革新をもたらすとする。

 スマートフォンを利用した決済には「Square」「楽天スマートペイ」「Coiney」などがあり、また電子マネーや決済という意味では「おサイフケータイ」の仕組みが長年提供されている。杉江氏は、PayPalの今後の戦略において、「おサイフケータイ」のような仕組みや前例があることで、米国などと比べて非常に説明しやすい環境になっているという。一方で、導入時に専用のリーダーライターが不要な点など、導入や運用コストが圧倒的に低いことがメリットであるとする。

 また、「Square」などの競合とされるスマホ決済の仕組みに対し、「実は、PayPal Hereは(Squareなどとの)競合とは考えていない」とし、住所を含めた独自の会員基盤を持つことや、クレジットカード決済を必ずしも今後の戦略の中心に据えていないことなどが、各社と異なるとした。杉江氏は、「ありえないかもしれないが、例えばSquareの決済方法にVisa、MasterCardと並んでPayPalがあってもいい」としており、PayPal全体として、独自の決済サービスであるという位置づけのようだ。

 このほかPayPalは、PayPalの口座で、銀行口座と取引できる仕組みの導入を検討している。2015年中の提供を目指しており、これによりPayPalでの決済時に銀行口座から引き落とすことが可能になるとのことで、利用の拡大に弾みを付けたい考え。個人のPayPalユーザー同士が送金しあう仕組みについても現在は見合わせているが、こちらも今後提供を検討している。

太田 亮三