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PayPal、eBay独立後の日本戦略を解説

 米PayPal(ペイパル)は20日、eBayからの分社化手続きを完了し、NASDAQ市場に上場した。これにあわせて、ペイパル東京支店は、今後の展開に関する説明会を開催した。

ペイパル東京支店のエレナ・ワイズ氏

 説明会では、ペイパル東京支店でジャパン・カントリー・マネージャーを務めるエレナ・ワイズ氏より、PayPalの現状と日本市場における戦略が解説された。

 ペイパルは1998年の創業より、デジタル決済プラットフォームを専門的に提供しつづけきた。グローバルでのアクティブユーザーは1億6900万人に達し、2014年度の取扱高は2350億ドル(約28兆円)、収益は80億ドル(約1兆円)と、デジタル決済市場の中でトップシェアとなっている。世界203カ国で展開し、その決済収益の半数以上を米国外で得ている。

 セキュリティを担保した決済手段を、企業が自社のサービスに組み込みやすい形で提供しているのが特徴。グローバル展開では12カ国に設置された計20カ国語に対応したサポートセンターが常時対応し、不正取引の検知システムや、売り手と買い手双方の保護プログラムによって、決済システムの信頼性を確保している。

 今回のeBayからの分社化では、これまで親会社だったeBayと競合していた他社にも、ペイパルの決済システムの導入を促し、プラットフォームとしての地位を確固たるものにする目的があるという。

 ワイズ氏は、日本での展開として、今後日本のビジネスの成長チャンスとなっていく「中小企業」「モバイル」と「インバウンドEC」の3つを挙げ、それぞれの分野におけるペイパル導入の利点を説明した。

 中小企業、とりわけスタートアップ企業では、ペイパルがスタンダードな決済手段として利用されている。信用力の低いスタートアップ企業は、通常のクレジットカード決済の導入が困難だ。ペイパルでは、こうした信用力の低い中小企業でも利用できるクレジットカード決済サービスを提供している。

 この決済サービスは、ペイパルがクレジットカードでの決済を代行する仕組みで、売り手の企業にクレジットカード番号を知られることがない。また、決済時には不正検知システムが導入されているほか、不正決済で被害を受けた場合、売り手向けと買い手双方に補償が提供される仕組みを持ち、ユーザーは安心して利用することができる。

 モバイル決済については、今後急拡大していくことが見込まれる。ペイパルの取扱高でも、2014年度実績のうち2割だったモバイル決済が、2015年度上半期では3割まで拡大している。ペイパルでは、C2C(消費者同士の売買)とB2C(企業と消費者の間での売買)のそれぞれに対応したモバイル決済ソリューションを提供している。

 C2C向けでは、アプリ内にモバイル決済機能を組み込むSDKを提供しており、ランサーズやUber、Airbnbといったアプリが採用している。

 B2Cでは、スマートフォンを利用したオフライン決済「ペイパル チェックイン 支払い」も展開していく。トークンを利用したモバイル決済で、ユーザー側はスマートフォンとアプリさえあれば利用できる。日本ではネスカフェと、ヤマダ電機、ブルックスのリアル店舗で、店舗のPOSシステムに組み込む形の決済サービスを試験的に提供している。

 インバウンドECについては、ペイパルはすでに日本のアニメコンテンツを提供する、主要サイトのほとんどで利用できるという。日本国外向けにアニメ関連商品を販売する「Tokyo Otaku Mode」(トーキョー・オタク・モード)の例では、ユーザーの要望によってペイパルの決済システムを導入したところ、導入から数カ月で購入の半数がペイパル決済となったいという。

 訪日客を応対するホテルでも、ペイパルの導入を進めていく。ワイズ氏は、外国人が安心して利用できる決済手段として、ペイパルの導入を決めた、北海道のルスツリゾートの例を紹介し、とりわけ欧米人に対して高い信頼性を得ていることをアピールした。

 現状日本市場ではEコマース(オンライン通販)中心の展開となっているペイパルだが、このような分野への展開により、リアル世界での決済手段としてペイパルの展開を進めていく。

 今後もアプリやサイトのUIを改善しつづけ、信頼性を担保しながらも手間を省く決済手段を提供することによって、紙幣やプラスチックカードを持たずとも取引できる世界を目指すとした。

石井 徹