ニュース

実はスマホやテレビ向けチップで世界シェア1位、「メディアテック」とはどんな企業なのか

 スマートフォン向けの半導体メーカーというと米国の「クアルコム」。パソコンや自動車分野にも進出しており、近年では多方面で目にする機会が多い。しかし、もちろん同社だけがスマートフォン向けチップを作っているわけではない。2022年現在、出荷台数でシェアトップの座にいるのは、台湾の「MediaTek」(メディアテック)だ。

左からイェンチー・リー氏、マイク・チャン氏、ジェリー・ユー氏、栫啓介氏

 同社もまた、スマートフォンやWi-Fiプラットフォーム、パソコンなどさまざまな分野での半導体設計を手掛けるメーカーだ。知名度という意味ではクアルコムに譲るものの、スマートフォン向けにエントリークラスからハイエンドモデルのチップセットを手掛けており、Wi-Fiチップ、スマートTV用チップなど幅広い産業で製品を供給、複数の分野でシェア1位を誇る企業だ。

 そんな同社の現在とこれからの展望を、メディアテックジャパン 社長の栫啓介氏、メディアテック コーポレートバイスプレジデントのマイク・チャン氏、ジェリー・ユー氏、同 スマートフォンビジネス部 副ジェネラルマネージャーのイェンチー・リー氏が報道陣の前で語った。

メディアテックとは

 メディアテックは、台湾の新竹市に本社を置く半導体メーカー。グループ内にBluetoothチップを開発するアイロハやセミコンダクター製造のリッチテックを抱える。グローバルで1万7000人の従業員と50以上のオフィスを抱える一大企業だ。

 メディアテックジャパンの栫氏によれば、2021年の売上は17億6000万米ドル(約2400億円)。対前年比で61%もの増収を果たしたという。ファブレス半導体メーカーとしては、売上ベースで世界第4位につける。

 当初は1997年、光学ドライブの開発に始まり、その後携帯電話関連の会社を買収するなどして徐々にモバイル向け半導体メーカーとしての地位を獲得。2021年の携帯電話やタブレットなどのスマートデバイスなどではシェア1位を誇る。

 市場全体の動向として、2019年には5%ほどだった5Gの浸透率は、2022年には50%ほどに伸びた。時を同じくして、スマートフォン領域におけるメディアテックの収益もおよそ4倍に増加している。ジェリー氏は「エントリーからフラッグシップまでカバーできるソリューションを提供することが成長につながっている」と語った。

 このほか、Wi-Fiやスマートテレビなどでも伸長。収益は1.5倍と増加しており、パワーマネジメントIC(PMIC)分野でも自動車産業が要因となり、2倍ほどの収益増を見せるなどいずれの分野でも堅調な成長を示している。

 さらにジェリー氏は、4Gと5Gを組み合わせたスマートフォン向けの製品ポートフォリオでマーケットで一定のシェアを築いたことに加えて今後は、5G固定無線アクセス関連や将来的な展望として、コネクテッドカー向けのソリューションや「インダストリー4.0」のIoTデバイス、ウェアラブルデバイスなどに向けた製品も拡大していく意向を示した。

26年には7800億ドルになる半導体市場

 「Wi-Fiのシェアでもメディアテックが1位」とジェリー氏。すでに高いWi-Fiプラットフォームのシェアを持つ同社では、2023年の登場が見込まれる新規格「Wi-Fi 7」でも引き続き、リーディングポジションを取る構えだ。同氏は、コンピューターやコネクティビティ、マルチメディアといった分野で短期的にWi-Fi 7が成長すると予見。

 また、Tier 1オペレーターとの協力で、高い処理速度を持つチップをArmベースでの開発も加速。自動車向けやメタバース、IoT、産業向けでも製品を提供していくという。

 このほか、PMICにも注力する。ジェリー氏によると「今後、自動車向け、IoT、産業向けにも開発をしていく予定」。PMICは今後、自動車向けやデータセンターなど、さらに幅広い分野で必要とされると見込まれる。

 メディアテックが主戦場とするモバイル、タブレット、ブロードバンドの市場は800億米ドル(11兆円)規模。2027年には1360億米ドル(約18兆円)にまで拡大すると同社では見込む。

 2009年、半導体の市場規模は2280億ドル(約31兆円)だったが、2026年には7800億ドル(約108兆円)にまで成長することが予測されている。パソコンやモバイル向けの需要がその半数を占めていたが、今後は自動車や産業向けなどより多くの分野でそれぞれ同程度の、バランスが取れた需要が示されるとみられる。

 「メディアテックは確固たる地位を築き、協力な顧客基盤と連携している。幅広い分野で相乗効果のあるビジネスを行っており、将来的には自動車、ハイパフォーマンスコンピューティング、IoT、産業向け製品も拡大していく」としたほか「協力な技術基盤と顧客ポートフォリオにより、中長期的に成長する半導体市場の中で(メディアテックも)将来に向けて成長を期待できる」とジェリー氏は語った。

スマホ向けSoCで世界1位の出荷台数に

 メディアテック製のスマートフォン向けチップセットは、2020年第3四半期から、出荷台数ベースで世界1位。2022年第1四半期には全体で37~38%、Android向けのシェアでは44~47%のシェアを獲得しており、5Gモデルでも25%以上という。

 イェンチー氏は、メディアテック製のチップセットを搭載するスマートフォンが中国で順調に増加傾向にあることを説明。2021年第1四半期には約12%だった同国内におけるシェアは、2022年第2四半期には約34%にまで伸びた。

 エントリー~ミドルレンジの印象があるメディアテックのチップセットだが、近年ではフラッグシップに当たるモデルもリリース。ゲーミングスマートフォンであるASUS製の「ROG Phone 6D」などに採用されるなど、順調な広がりを見せている。

 11月初頭には、最新のフラッグシップモデルである「Dimensity 9200」を発表。「レイトレーシング」に対応するArm製のGPU「Immortalis-G715」を搭載。ミリ波による8CC CAなどで最大7.9Gbpsのスループットを実現可能なほか、Wi-Fi 7にも対応できるなどの特徴がある。

3つのプロダクトで世界ナンバーワンシェア、今後の展望は

 メディアテック製チップは、ChromebookにおいてArmベースのものとして世界シェア1位。加えて、Wi-Fiチップ、スマートTV向けのチップセットとスマートフォン用チップセットと合わせれば4つのプロダクトで世界シェア1位を保持していることになる。

コロナ禍で求められるテレビ会議や長時間のバッテリーライフ、さまざまな接続に対応するChromebook用チップセット

 特に、スマートTV向けチップセットでは、世界で6割以上のシェアを持つという。台数にして2億台のテレビがメディアテック製のチップセットで動いている。「一般的にテレビというと性能は『パネル』で語られがち。しかし、信号処理(=チップの性能)も非常に重要」と語るマイク氏。会場の報道陣には、同社のチップセットによる画質の違いのデモも公開された。

右は報道陣に公開された映像処理技術のデモ

 マイク氏は今後の同社の注力分野として「自動車」と「メタバース」を挙げる。

 メタバースでは、同社の強みでもあるマルチメディア、無線技術、コンピューティングを小型化・省電力技術を使って取り組んでいくとマイク氏は語る。加えて「40年前、専門家が『テレビは壁にかける時代が来る』と話していた。それはすでに実現していて、メタバースも想像した以上に早い段階で到来する」とメタバースの拡がりもすぐに訪れるとの見通しを示す。

 自動車分野では「クルマはタイヤのついた携帯電話になる」とも語り、メディアテックとして重要視する分野であることをアピールする。現在は、車載器を操作してオーディオやエアコンを操作するが、いずれはひとつのディスプレイがそれに取って代わるのが当たり前になり、車内でエンターテイメントを楽しむようになると予測する。

 電動化を含めた次世代エネルギーの利用など「100年に1度」と言われる転換期を迎える自動車には「スーパーチップ」が必要とマイク氏。そうした流れに対応する要素技術を持つとするメディアテックでは今後、同社が持つ技術を武器にして、自動車向けの製品の開発に取り組んでいくとしている。