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現実と仮想空間が融合する「デジタルツイン渋谷」、KDDIなど23年の実用化に向け実証
2022年10月28日 00:00
現実と仮想空間を融合
デジタルツイン渋谷は、航空写真などで再現した渋谷の街の写真などから、リアルな渋谷をバーチャル空間に再現。アバターを使って自由に動き回れ、実在の店舗を訪れることができる。
実証の第1弾では、アパレル店舗と商品や飲食店をバーチャル空間に再現。現実世界のスタッフがバーチャル空間から訪問する利用客への応対や飲食店における来店客同士のコミュニケーションといった内容が実施される。
店内は、LiDARなどを活用しスマートフォンのカメラで撮影することで再現できる。一般的に、3Dモデリングには数千万円単位の費用がかかることもあるが、今回の実証で用いられた手法では初期費用100万円で済む。制作時間も大幅に短縮できるなど効率化が図られている。
こうした利点から、商品の入れ替わりが早い店頭においても出勤してから店内を撮影し、アップロードすると30分で仮想空間に反映されるといった手軽さもアピールする。
スマホで手軽に体験
メディア向けに公開されたデモでは、アパレルショップを再現。アバターとして来店した利用客に対して、店舗のスタッフもスマートフォンを持ちながら、それに応じる。画面上の操作から見たい商品を指さして指示することもできるほか、音声での会話にも対応する。
実際の画面を見てみると、渋谷のセンター街が比較的きれいなグラフィックで再現されており現実の世界と見比べても違和感は少ない。VRゴーグルなどではなくスマートフォンを採用したのは、デバイスの普及度合いやショップスタッフについては、対応者が限定されないことから。
試着のイメージはスタッフから写真で送られるが、ゆくゆくには動画で確認できるようになる見込み。
位置情報には周囲のモノを認識して反映する「VPS」(Visual Positioning System)を採用。屋内でも正確に自分の位置を認識できる。北米のVPS関連のスタートアップ企業スターフィー(Sturfee)の技術が用いられているという。
他地域での展開、いずれはひとつのワールドに
現実世界と仮想空間がリンクする今回の取り組みは「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」の本来目指していたところと、KDDI 事業創造本部 副本部長 中馬和彦氏は語る。
同プロジェクトは2019年に立ち上がり、渋谷スクランブル交差点にARでバルーンを飛ばしたり、1964年のハチ公像周辺をARで再現したりといった、現実世界と仮想空間の融合をテーマとしたコンテンツを手掛けてきた。しかし、2020年に新型コロナウイルスの世界的流行により、外出が難しくなると同様の取り組みは難しくなった。
そこで、VR空間内に「バーチャル渋谷」をオープン。自宅でも渋谷のハロウィーンを楽しめるなど、新しい形のエンターテイメントをあらわした。バーチャル渋谷はこれまで100万人以上を動員するなど盛り上がりを見せている。
一方で「リアル連携再始動」と銘打たれた今回のデジタルツイン渋谷は、リアルな街を再現することに重点を置いている。バーチャル渋谷は仮想空間の利点を活かし、実際にない場所も作るといった発展の方向に向かっており、前述のVPSを使った現実世界との連携は難しい側面もあることから2つに分けての展開となった。
今回は渋谷での取り組みとして実証が進められているが、その後はそのほかの地域での展開も検討していると中馬氏は明かす。デジタルツインではバーチャル渋谷のような街全体というほどの空間ではなく、局所的に必要なユースケースを切り出していくといった展望が示された。
中馬氏はさらに「2020年はメタバース元年だった。デジタルツインが加わり次のステージに入った」としつつ「将来的にはバーチャル渋谷とデジタルツイン渋谷を融合した本当の意味のメタバース渋谷として、ひとつのワールドの中でリアル体験をして空を飛びながらコンサートをするというようなメタバースっぽい体験を実現したい」と今後への想いを語った。