ニュース

KDDI、東大などと起業家育成に向けた寄付講座を開設

 KDDIは、東京大学や松尾研究所などとともに、起業家の育成に向けた「アントレプレナーシップ教育デザイン寄付講座」を設立した。同講座は東京大学工学部の工学系研究科内で開設され、初回の講座は10月7日に実施される。

 講座の開設に伴って合同記者会見が開かれており、本記事ではその様子もお届けする。

概要

 今回の寄付講座は、KDDIをはじめとした寄付企業や起業家などによる講義と、サントリーなど複数の企業の社員を交えたフィールドワークの複合型となっている。実施期間は2021年度~2023年度までの3年間。

 フィールドワークでは、寄付企業や事業会社の社員がメンターとして学生チームに加わり、共同で新規事業案を検討する。受講者は、IPOやM&Aも見据えた実践的なアントレプレナーシップ(起業家精神)を習得できる。

 なお、講座の一部はオンライン配信され、東京大学以外の大学生や社会人も受講可能。

2021年度秋学期講座の概要
項目内容
日程2021年10月7日~2022年2月10日(秋学期:A1A2セメスター)
毎週木曜日6限(18時45分~20時30分)予定
対象者講義:オンラインで全国の大学生・社会人に公開、人数制限なし
フィールドワーク:東京大学に在学中の大学院生(約30名)
実施場所など講義:ZoomウェビナーやYouTube Liveなどによる配信を予定
フィールドワーク:東京大学本郷キャンパス
受講費用無料

 寄付企業は、KDDI、松尾研究所、経営共創基盤(IGPI)、東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)の4社。各社はそれぞれが持つ知見を提供し、起業家の育成やスタートアップエコシステムの創造に寄与していく。

主な役割
社名(大学名)役割
東京大学東京大学におけるシームレスなアントレプレナーシップ教育のグランドデザインに関する研究、学内におけるアントレプレナーシップ関連の講義群との連携
KDDI技術シーズと社会ニーズを掛け合わせた新規事業開発に関する知見の提供
KDDI∞Laboネットワークを活用した、事業会社とのフィールドワーク機会の提供
IGPI経営者に求められる事業・財務・経営の視点からの事業立ち上げ、資金調達や収益化・事業経済性の考え方に関する知見の提供
UTECものづくり、環境・エネルギー系のビジネスモデルや、グローバルで成功しているスタートアップに関する知見の提供
松尾研究所スタートアップの事業構想~会社設立~立ち上げ初期における実態に関する知見の提供

合同記者会見の様子

東京大学 染谷教授

 合同記者会見の冒頭では、東京大学 工学系研究科長・工学部長の染谷隆夫氏が登壇した。同氏はまず、KDDI、松尾研究所、IGPI、UTECの4社に対する感謝の言葉を述べた。

 スタートアップに関する東京大学の状況については、「この10年で様変わりし、(東京大学における)優秀な学生の多くが起業を目指す時代になった。(東京大学は)これまで430以上のスタートアップを生み出し、トップ5社の時価総額は合わせて1.5兆円に達している。また、東大発スタートアップのうち約100社は本郷キャンパスの周辺を拠点としていて、キャンパス周辺の雰囲気自体も変化している」(染谷氏)。

 ただし、課題としては、東京大学が強みを持っているはずのディープテックの企業が少ないこと、国際市場を目指す起業家が少ないことなどが挙げられるという。そこで、工学系研究科では1兆円スタートアップの創出という目標を掲げ、人材の育成に力を尽くしていく。

染谷氏

東京大学 坂田教授

 続いて登壇した東京大学 工学系研究科教授・総長特別参与の坂田一郎氏は、講座代表として講座の概要を説明した。

坂田氏

 東京大学では、起業を考える仲間と一緒に学ぶサマーキャンプなどのプログラムを通じて、事業の立ち上げなどを目指す学生をサポートしている。

 今回の寄付講座の担当教員に関しても、これまで起業家教育に携わり、起業家の育成に力を発揮してきたメンバーを集めたという。また、寄付企業から4人の専門家が、非常勤講師として講座の活動に加わる。

 スケールの大きな起業家の育成を目指す今回の講座では、活動の柱が4つ設定されている。多くの専門家の力を借りながら実践的な講義を展開し、その上でものづくりやディープテックの起業モデルを構築していく。

 また、東京大学が展開する多様なアントレプレナーシップ教育プログラムに関して、講座としての体系化も目指す。

 講座のカリキュラムの中には「グローバルセミナー」と呼ばれるセミナーも含まれ、北欧のベンチャーキャピタルの専門家が登壇する予定だという。そして、フィールドワークでは最終ピッチの機会も用意されており、企業の役員に向けて新規事業の提案を行う。

IGPI 村岡CEO

 続いて登壇したIGPI 代表取締役CEOの村岡隆史氏は、「新たな生態系の創造に向けて」と題してプレゼンテーションを行った。

村岡氏

 村岡氏は2003年の産業再生機構の設立に参画しており、今回の講座開設に関して「その時(産業再生機構の設立)のことを思い出して、とてもワクワクしている」と語った。

 IGPIは、さまざまなスタートアップとの関わりを通じて、会社のマネージメントに関わるノウハウを蓄積してきた。そうしたノウハウを、今回の講座で提供していく。

 村岡氏は「今回の講座の目的は、東京大学の中に閉じた生態系を作ることではない。日本全体で、スタートアップの生態系のレベルをもう一段階上げていきたい」と力を込める。

 「スタートアップの生態系」のレベルアップを目標に掲げる村岡氏は、「大企業とスタートアップの連携を促進していくためには、大企業側の組織変革も必要」と語る。

 また、事業立ち上げの時点で、日本市場だけでなくアジアやグローバル市場を視野に入れることも重要だとして、「日本のスタートアップの生態系を、世界レベルに引き上げられると信じている」とコメントした。

KDDI 高橋社長

 会見の最後に、KDDI 代表取締役社長の高橋誠氏が登壇した。

高橋氏

 高橋氏は、スタートアップのM&A/IPOの割合を日米間で比較したデータなどを持ち出し、「日本初のスタートアップが世界で戦うには、大企業による大型投資などのグロース支援が不可欠」とした。

 KDDIは、2015年に創業したスタートアップのソラコムを2017年に子会社化し、2020年にはさらなるグローバル化を目指して「スウィングバイIPO」に関する計画を発表している。

 高橋氏は、「大企業のアセットを投入し、内側からスタートアップを大きくしていく『インパクトグロース』を推進したい」と語った。