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「Woven City」や「eSIM」にも注力、NTT Comの2020年度事業計画

 NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は22日、同社の2020年度事業戦略発表会を開催した。

 発表の場には、NTTコミュニケーションズ 代表取締役社長の庄司哲也氏が登壇。発表は、今般の新型コロナウイルスの影響によりオンラインでの開催となった。冒頭、庄司氏は「指定公共機関として、つなぐことに使命感を持ち期待を裏切らないように応える」と緊急事態宣言下でも同社のサービスは維持されていくことを示した。

NTT コミュニケーションズ 庄司哲也氏

固定回線市場は縮小へ

 庄司氏は、同社が置かれている事業環境について大きな変革の中にあることを説明。現在の公衆電話網に用いられているPSTNは、設備の老朽化などを理由に2025年度を目処にIP網を活用したシステムへの移行を予定している。

 これと同時に、現在の話者間の距離に応じた料金体制も見直され、全国一律料金になるという。同社の収益を支えてきた事業だけに影響は大きなものとなる。

 加えて、国内の個人向け固定回線(ISP)市場の縮小も影を落とす。若年層を中心に自宅の固定回線をモバイルネットワークに移行するケースが増えており、こちらも厳しい状況が見込まれている。

 同社では、2024年度の固定電話と固定回線を合わせた収益は、2012年度対比で約6割減少すると分析している。これらの状況を踏まえ、PSTN廃止を待たずに新たなビジネスモデルの構築が急務であると庄司氏は語る。

2020年度は3つの取組みを重視

 前述の事業環境の変化を踏まえ、2020年度のNTTコミュニケーションズは、「Smart Fata Platformの拡充」「ソリューション提供能力の強化」「新規事業の創出」を主な取り組みとしていく。

それぞれの事業は異なる部署の手によって進められていく

Smart Data Platformの拡充

 2019年度からグローバルでサービスを提供するNTTリミテッドなどとの連携で提供するデータプラットフォーム「Smart Data Platform」は、昨年秋のリリース以来好評という。

 ここ数年でクラウド環境が大きく進化し、大企業の8割がマルチクラウドユーザーとなっている。これに伴い、ネットワークやデータセンターもある場所からデータまでを結ぶのではなく、クラウドとクラウドをつなぐという役割が重要になってきた。

 また、テレワーク需要やサイバーセキュリティリスクの増加により、ネットワークを全く信頼できないものとする「ゼロトラスト」の考え方に基づいたネットワーク構築のニーズが高まっている。

 このような時代の潮流に対応して、ネットワーク、データセンター、クラウド、その上で動作するサービスを再編成しプラットフォームを構築するのがSDPとしている。

 20年度からは、新たに「ネットワークデータセンター」としての機能強化を行う。首都圏のバックアップとして需要の高い関西圏のデータセンターにおいて、主要IX、クラウド事業者、ユーザーの間を自由に相互接続できるようにしていくという。ここにクラウド事業者を誘致することで高速低遅延かつセキュアなクラウド利用を実現できる。

 なお、19年には首都圏のデータセンターにおいてIX事業者との接続に成功しており、クラウド事業者との相互接続性についても拡充した。

 さらにネットワークについても接続性の強化を行う。FIC(Flexible InterConnect)によりユーザーは接続先や接続方法をポータルで指定するだけで簡単に通信環境を構築できる。

 「セキュアなクラウド」という需要は根強く、インターネット上のみでサービスを展開するクラウド事業者に比べ、自社のネットワーク設備を持つNTTコミュニケーションズは時間やコスト面で大きな優位性を持つ。ユーザーが使いたいクラウドサービスの事業者を同社のFICに接続することで、事業者は最小限の設備投資で事業展開でき、ユーザーもセキュアな環境で使いたいサービスを使うことができるとしている。

 また、ユーザーに提供するアクセスネットワークについてもeSIMを始め、SDW、ローカル5Gと選択肢を拡充していく考え。セキュリティについては、SDPのセキュアさを活かし、従来では加工せざるを得なかったプライバシーに関するデータも安全に共有し利活用できるとした。

オリンピックのサイバーセキュリティを担当する同社はそのノウハウを他企業にも広めていく考え

 言葉を使うあらゆる状況に対応する「COTOHA Everywhere」。新ラインアップはAIが要約してくれる「COTOHA summerize」。資料の読み込みなどの手間を機械が代行する。

 コールセンター業務の負荷軽減と同時に対応品質も均一化する「CX Platform」。

 社員証をデジタル化する「Smart Me」(仮称)。紛失時も遠隔で無効化、ゲスト対応も可能になる予定という。

提供するソリューションの拡充

 SDPに蓄積したデータを通じて、業界や社会の課題を解決していくと庄司氏。具体例としては、トヨタ自動車とのスマートシティ分野での業務資本提携がある。日本各地で進めている実績を踏まえて「Woven City」での取り組みを進めていく。

 このほか、日本の製造業の国際競争力強化としてスマートファクトリーを推し進める。特に同社では、原料や資材などの「調達」をデジタライズする。同社では、各社が独自でリソースを割り振るコアコンピタンスな部分と業界内でノウハウを共有する共創協調の切り分けが活性化につながると説明。

 調達の分野においては、発注・受注のいずれにおいても人が作業の中心を占めており調達先の固定や経験や勘に頼った決定がなされていると説明。同社では、現在国内メーカーと共同で加工部品の受発注業務を行う「デジタルマッチングプラットフォーム」を開発している。発注側が登録した部品データをAIが解析し、最適な調達先を提示するという。

 さらに、教育分野としてスマートエデュケーションの取り組みも進める。個々人の細やかなケアは現実には難しい。そこで効率的な学習環境として「まなびポケット」を通じてデジタル教材コンテンツの配信管理や教員とのコミュニケーション手段を提供する。生徒の学習履歴がデータ化され一元的に管理でき、効率的なクラス運営を実現する。現在は、まなびポケットとレノボ製の端末をセットにした「GIGAスクールパック」をリリースしている。

新たな事業創出

 さらに、従来に囚われない新たな新規事業の創出としては、パートナーやユーザーを生み出していく考え。同社の「NTT Communications OPEN INNOVATION PROGRAM」では19年、200を超えるアイデアが集まり、いくつかは事業化に向けて進んでいるという。20年も新たなテーマのもとアイデアを募集する。

 このほか、「C4 BASE」として、社会課題を解決するコミュニティを引き続き開催する。企業や業界の枠組みを超えてそれぞれの強みを活かすことで、有効なアイデアを生み出していくと庄司氏。

コロナ後も継続できる改革

 庄司氏は「コロナ対策という直近の課題もあるが、それ以降も継続できる新たな働き方のチャレンジの気持ちは忘れていない。労働者の肉体的、精神的ハードルを下げること、テレワークの浸透、今求められている行動変容の適用を支えられる『DX Enabler』でありたいと考える」と語った。