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Googleが技術開発、リーバイスのスマートジャケットがついに日本上陸

キーパーソンが語るコンセプトと舞台裏

 リーバイス(Levi's)のジャケット「Trucker Jacket with Jacquard by Google」(2万7500円、税込)が5日、発売される。米グーグルの先端技術開発部門が手がけた「Project Jacquard」によるテクノロジーを用いた商品で、日本での展開は今回が初めて。

デリンジャー氏(左)と福原氏(右)

 3日、発売に先立ち、リーバイス・ブランドイノベーション部門副社長のポール・デリンジャー氏と、グーグル先端技術研究部門(ATAP、Advanced Technology and Projects)メンバーで、Project Jacquard テクノロジー インテグレーション リードの福原志保氏とのトークセッションが行われた。

 そこで語られた、両社の想いとは。

「Trucker Jacket with Jacquard by Google」

 スマートジャケットの「Trucker Jacket with Jacquard by Google」は、左の袖口周辺に、グーグルが開発した導電性の繊維を採用。なでたり、タップしたりすると、その操作が、袖口に添えられたBluetoothドングル経由でスマートフォンへ伝わる、という仕掛け。ドングルは防水ではないが、ジャケット自体は洗濯できる。

 袖口に触れるだけでスマートフォンのカメラを起動して撮影したり、音楽を再生・停止したりできる。スマートフォンを見ずにその利便性を享受できることから、リーバイスではその商品コンセプトを「CONNNECTED NOT DISTRACTED(つながる。とぎれることなく。)」と説明する。

 触れたときに、スマートフォンがどう反応するか、その操作は、アプリ側で設定する。このアプリ(Jacquard)はグーグルが提供するもので、「Jacquard by Google」と名付けられた技術を用いる他の製品でも活用できる。

 たとえば「下にスワイプ」という操作でカメラ起動、「ダブルタップ」で再生と停止という設定にすれば、袖口を下方向に向けて撫でるとカメラが起動し、2回叩けば音楽の再生・停止ができる、といった具合。

ジャケットで操作してツーショット写真を撮影

 操作の中には、マップへピンを落とす、というものもあり、自分が訪れた場所をよりわかりやすく記録できる。各種操作は好みに応じて、アプリ側でカスタマイズでき、アプリが今後、アップデートされることで進化していくという。

袖口にドングル
背面などジャケットそのものは普通の衣服にしか見えない

 操作以外では、ペアリングするスマートフォンと一定距離、離れるとアラートを出してくれる。

 2017年に登場した先代モデルと比べ、一番大きな変化はGoogleアシスタントへ対応したこと。マイクやスピーカーはドングルにはなく、スマートフォン側だけで対応することになるが、画面を見ず、また声を挙げずに袖口に触れて、Googleアシスタントを起動して天気予報をチェックしたり、時間を確かめたりできるようになった。

Jacquard、その名の由来は

 Jacquard(ジャカード)という名前は、19世紀初頭に発明された自動織機のジャカード織機が由来。パンチカードを用いて、編む模様を変更できるという仕掛けを備えており、その後のコンピューターのデータ入力にまで活用された。

福原氏

 福原氏は「ジャカード織機は、生産性向上に加えて、他のテクノロジーの向上に貢献した。テキスタイル業界とコンピューター業界の両方に関わる存在」とコメント。グーグルが服飾分野とITテクノロジーとの融合を目指すプロジェクトにふさわしい名前であるとする。

 これにデリンジャー氏は「コンセプトがひとつになって、19世紀のジャカード織機に繋がるのは興味深い」と応じる。

グーグルとリーバイスが新技術に取り組む理由

 そもそもなぜグーグルは「Project Jacquard」を始めることになったのか。

 福原氏は、現代が豊富な物に溢れる文化であり、いつでも好きな物を着れる時代と指摘。その上で「ファッションは自己表現でもある。他人と違いを生む手段でもある。これを理解しなければいけないと思う。リーバイスのような企業から学びたいと思った」と語る。

 一方、技術に対応した衣装、いわゆるスマートガーメントには興味がない、とデリンジャー氏。

デリンジャー氏
「リーバイスは、問題解決に取り組んでいる。そもそもリーバイスは、炭鉱のゴールドラッシュで採掘している人に服を売り出した。どうしたらもっと強い生地になるか、ということでリベットを組み込んだ。

 そこで、技術的なイノベーションを作ろうということを意識していたのではなく、人々の生活を向上させたいと考えていた。

 デジタルテクノロジーはあるが、周りにある世界を見ているか。そういうことを解決したいと考えた。スマートガーメントではなく、どうやって繋がり続けるか。スマホから目を離せるようにするか」

 デリンジャー氏の語る内容は、たとえば、世界的にヒットしたスマートフォンゲーム「Pokémon GO」を手がける米ナイアンティックの創業者、ジョン・ハンケ氏が「いかに人々を外へいざなうか」と語ってきたことに近い印象を与える。

“ながらスマホ”の人とぶつかりそうになって

 そんな両社の関係は、たまたま偉い人同士の会話がきっかけで始まったと語るデリンジャー氏は「両社でともに進むと決めてから、どういう背景で、どんな目的を立てて、どんな価値を作るのか。ひとつのチームとして、プロジェクトを進めることにした」と振り返る。

 それに福原氏は「最初にマウンテンビューでミーティングした日のことを、今でも覚えてる。(デリンジャー氏が)『これって大丈夫かな?』ってスゴい顔をした」と笑いながら語る。

 これにデリンジャー氏は「そんな顔をしたなんて覚えてない」と知らぬ存ぜぬを決め込みつつ「(グーグル側の技術を)面白いとは思ったけど、重要とは思わなかった」と率直なコメント。

 ところが「でも帰り道、スマホを見ていた自転車のひとにぶつかりそうになった。あぶないなと」(デリンジャー氏)と感じたことで、スマートフォンに目を奪われる状況を、衣服という分野から変化させていくべく、取り組むことを決めた。

 福原氏は「私にとっては、これ(リーバイスとの取り組み)って普通、自然な構成だと考えた。リーバイスはファッションブランドとして伝統あり、古いもの。特に生地にそういうものを組み込むなら、一緒にやるのが自然なこと」と当然のことと受け止めていたのだという。

持続可能性のある未来に

 デリンジャー氏自身は、サステナビリティ(持続可能性)に熱心に取り組む人物でもある。

 トークセッションの中で、最新テクノロジーと伝統の融合・出会いについてどう思うか問われたデリンジャー氏は「テクノロジーは将来・未来的なもので宇宙船や新幹線をイメージするだろう。リーバイスは実用的で、耐久性のある、友好的なもの、長年あるという印象」と、一般的なイメージを紹介。

デリンジャー氏
「私たちが、(テクノロジーを活用するからといっても)新しいことをすぐ考えなきゃってこだわらなくていい。生活の中で好きなものを融合させることを考える。好きな物をより改善する。

 新しいものを作りださなきゃいけないんじゃない。使い捨てのような近未来はいらない。歴史あるものを向上できたら、使い捨てせずに済む」

「このジャケットは親友みたいなもの」

 スマートフォンを通じて、より広い世界と繋がるこのジャケットが生活に何をもたらすのか。そんな問いにデリンジャー氏は「我々はスマホに頼り切っているが、一部をジャケットにも分担できる」とコメント。

 福原氏は、個人的な考えと前置きした上で、「本当にこれ以上ガジェットを作らなくていい。このジャケットはキラーユースケース。日中、朝から夜まで着ていて、もう親友みたいなもの」と胸を張る。

「テクノロジーを見えなくする」

 リーバイスのジャケットによって日本初上陸となったJacquard by Google。果たして今後はどうなるのか。

 福原氏は、プロジェクトを立ち上げたイワン・プピレフ氏が「テクノロジーを見えなくすること」を目標として掲げていたことに触れる。その具体的な手法がウェアラブルというコンセプトというわけだ。

 最後に福原氏は、リーバイス以外のパートナーを含めて、プラットフォームを進化させて、思い描くテクノロジーを作りたいと意欲を見せる。

 そしてデリンジャー氏は「クリエイティブな方向でどう使われるか、観察する。使えば使うほど、ジャケットが進化していく」とユーザーの利用動向を見据える姿勢を見せていた。