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5Gはゲームを変えられるか?「TGSフォーラム 2019」基調講演レポート
5G×ゲームのドコモ、ファーウェイのアプリストアのブースも
2019年9月13日 06:00
9月12日から15日まで幕張メッセで開催されるゲーム展示会「東京ゲームショウ2019」(以下、TGS)にて、講演プログラム「TGSフォーラム2019」が開催された。12日には、「5Gインパクト~5Gによって“ゲームチェンジ”は起こるか?」と題した基調講演が開かれた。
登壇者は、NTTドコモ 執行役員 5Gイノベーション推進室長の中村武宏氏、ガンホー・オンライン・エンターテイメント 代表取締役社長の森下一喜氏、シャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業部長の小林繁氏、スクウェア・エニックス 執行役員兼ジェネラル・マネージャー 情報システム部の佐藤英昭氏、NetEase Vice PresidentのEthan Wang氏。モデレーターを日経 xTECH副編集長の山田剛良氏が務めた。
NTTドコモは、ラグビーワールドカップ2019に合わせて、9月20日より5Gのプレサービスを開始することを発表済み。中村氏によると、5Gのサービス創出を狙ったオープンパートナープログラムには、6月末時点で2800社以上が参加しており、うち24%がゲーム業界を含むコンテンツ関係だという。
5Gは国際標準仕様として、ダウンリンク20Gbps、アップリンク10Gbps、遅延は片道0.5ms、1平方キロ当たりに100万デバイス、という値が設定されている。これに関して中村氏は、「誤解を与えているかもしれない」と述べた上で、サービス範囲は一部のエリアからスタートして数年かけて広げていくこと、性能は端末性能的に数Gbpsから始まること、遅延もネットワーク構成により数ms~数十msになることなどを示した。
講演は5Gの特徴である高速性や低遅延などのテーマに沿い、各講演者ごとの視点で語られた。その中でも注目したいのが低遅延についてで、佐藤氏から出た「5Gになっても、ラウンドトリップタイムはあまり変わらないのでは」という見方だ。0.5msという低遅延は端末から基地局までの話であって、その先のネットワークの遅延は依然として残る。
これに対して中村氏は、「弊社のネットワーク内にクラウドを置くことを想定している。国内に数か所、できれば県単位に置ければ、ラウンドトリップで数msは十分達成できると思う」と答えた。
そうすると気になるのは費用の問題。森下氏が「通信遅延に関わる障害は今も少なからず起きている。5Gでより快適な環境が提供できれば、ゲームでもいろいろなことができるのではと期待している。あとは価格が聞ければいいなと思っている」と述べると、佐藤氏も「ネットワークスライシングやエッジコンピューティングの設備を借りるのが、いくらくらいなのかが問題」と語った。
中村氏は、「双方でもっと話をすれば、求められる性能に合わせたネットワーク構築ができると思う。数Gbpsや1msまでいかなくてもいいゲームができるのではないか、という話をしたい。高性能化にはお金の問題もあるが、どこまでだったらいくらでできる、とは言える。お互いにコストを安くし、いいものを作れるはず」と語った。
5Gでは一時的・局地的に低遅延や大容量のネットワークを提供するようなことも考慮されており、音楽フェスやゲームイベントなどイベントの特性に対応してネットワークを構築することもできる。中村氏は「5Gがあらゆるユースケースに対応できるとは限らない。対応できるビジネスモデルが要る」とも述べており、5Gの技術をどうビジネスモデルに落とし込むかという部分も、様々な業界からの声を聞いて考えていきたいという状況のようだ。
小林氏は端末メーカーとしての視点で5Gについて語っている。5Gにおける端末側の課題としては、発熱の問題を挙げた。発熱というくくりで言えば、ゲームプレイ時の発熱も大きな問題の1つ。「瞬間の処理速度はどんどん上がるが、それがどれだけ持続するかを競う時代」という。
さらに5Gならではの難しさもあるという。「スマートフォンの発熱は、概ねディスプレイと処理と通信の3つ。5Gでは通信周りの熱が上がってバランスが変わるので、端末設計に大胆な技術革新が必要だ。持ちやすさや放熱はすごくアナログな開発部分。今まではカタログの数値を競うものだったが、今後はそうではないところで勝負が決まると思う」と述べた。
「5Gがゲーム開発にどう影響するのか」という問いかけには、Wang氏はクラウドゲーミングに何度も言及した。「今はゲームを出す時、2つのバージョンを出している。高いパフォーマンスが必要なものと、画像はよくないが低性能な端末で楽しめるもの。5G時代には、クラウドで1つのバージョンだけを提供することになる。今は東南アジアなど低い性能の端末が多い地域でも、5Gになればクラウドで遊べて、どこでも誰でも平等な環境になる」と語った。
長年オンラインゲームを手掛けてきた森下氏は、「今はやむなく非同期でごまかしている対戦ゲームも、同期型でよりリアリティを出せる」と5Gに期待を寄せつつも、「通信が速くなっても、ゲームが面白くなるわけではない。速くなることは絶対にいいことだが、その中でどういうサービスを作れるか。ただクラウドでハイスペックなゲームが遊べるだけでは意味がない。見せ方、eスポーツも含めて、何ができるかを考えなければならない」とも述べた。
通信が5Gになって夢が広がる……というアピールの講演かと思いきや、「それでゲームが面白くなるわけではない」と冷静に見ていたり、「たとえ5Gが始まっても、4G端末が残っている限りは、4Gをターゲットにしたゲームを作らざるを得ない」というジレンマが出てくるのは、ゲームビジネスならではの反応だ。
しかし、最初は5Gを懐疑的に見ていた佐藤氏から「今日話していて、5Gのパフォーマンスを前向きにとらえていかねばならないと思った」というコメントが出たり、森下氏が「5Gの通信環境が整って、AIやARなどを組み合わせたらどういうことができるかチャレンジしていきたい」と述べたりと、考えが前に向くのもゲーム業界らしい。5Gならではのゲームが世に出るのもそう遠くはないと期待させられる講演になった。
TGS会場には5G体験コーナーも登場
TGSのメイン会場でもモバイル関連企業が出展しているので、その中からドコモとファーウェイのブースをご紹介したい。
ドコモのブースはかなり大きなスペースを取って、大きなステージと数十台の対戦ゲーム用スペースが設けられている。ブースのあちこちに5Gの文字が躍り、ブースの端には5Gのアンテナらしきものも立っている。
担当者に話を聞いてみると、アンテナは本物で5Gの電波も出ており、試験用の設備で5G通信が利用できる環境を整えている。アンテナに透明の囲いがあるのは、来場者の安全のため近づきすぎないようにするためだそう。ただブース内の通信が全て5Gというわけではなく、5Gでこんなことができるというイメージを伝えるためのブース展開となっている。
実際に5Gを使っているのは、カプコンの対戦格闘ゲーム「ストリートファイターV」のARデモと、同作の対戦コーナーにある4台のみ。ARデモでは、プロゲーマーの「ウメハラ」選手と「ときど」選手の対戦を記録して3D化し、AR動画に仕立てたもの。デモ端末のカメラでテーブルの上にあるゲームのロゴを映すと、テーブルの上にキャラクターが現れて戦っているように見えるというもの。対戦の様子を好きな角度から眺められるので、実際のゲームでは見えない角度も楽しめる。
今回は録画データだが、5Gでリアルタイムに対戦を観戦したり、さらに進んでVRヘッドセットを使い、仮想のスタジアムに居るような感覚でゲームの対戦を眺めたりといったイメージを表現している。
ステージ裏手にある「ストリートファイターV」の対戦コーナーは、5Gルーターを4台のゲーム機に接続し、インターネット経由でプレイできる。実証実験も兼ねているそうで、同社としても初めての試みだそうだ。こちらはTGSの一般日となる14、15日にも体験できる予定。
なお、今回使われているデモ端末やルーターの性能、および5Gの速度などは一切非公開となっている。
ファーウェイのブースでは、同社独自のスマートフォン向けアプリストア「AppGallery」を紹介している。日本では同社スマートフォン製品の「P20」および「P20 lite」から、SIMフリーモデルに限りプリインストールされている。
今回の出展は、一般ユーザーではなく日本のデベロッパーに向けてアピールするのが目的だという。中国ではGoogle Playでのアプリ展開が難しくなっているが、「AppGallery」なら同社のサポートを受けながら、中国を始め世界中にアプリを提供できる。中国政府の意向と米国政府による閉め出しにより、中国でのゲーム配信は困難な情勢にあるが、だからこそ同社にしかできないことがあるという攻めの姿勢だ。
サポートは同社端末に向けたプログラムの最適化や、TGSのようなイベントにおける試遊台の出展など、開発からプロモーションまで幅広い。端末メーカーかつプラットフォーマーという立ち位置ならではの施策で、日本のデベロッパーとの協業を目指したいとしている。会場では担当者とその場で直接話をすることも可能だ。
会場にはゲームの試遊台も置かれており、端末は全て最新の「P30」。デベロッパー向けとはいえ、「AppGallery」と「P30」の両方を体験できる場所としては、一般ユーザーにも意味があると言える。また一般公開日にはゲーム大会を開き、優勝者には同社のスマートウォッチをプレゼントする予定だそうだ。