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SoftBank World 2019で孫氏が基調講演、「日本はAI後進国、今ならまだギリギリ間に合うかも」

 ソフトバンクは最大の法人向けイベント「SoftBank World 2019」を開催した。初日となった18日には、ソフトバンクグループ代表兼社長の孫正義氏が登壇し、基調講演を行った。

人類は推論で進化してきた

 孫氏は冒頭、「人間の進化はこれで終わりではない、AIによって更に進化する」と訴えた。

 光を見て相対性理論を考えたアインシュタインが、世間の「ものの考え方」を変えたように人類は推論しながら、あんなふうになれたらいいなと、将来の自分たちの姿を想像しながら人間のもつ推論のちからが人類を進化させてきたと孫氏は語る。

 人類の進化は続くのか、私はさらに加速していくと思うと孫氏。インターネット上のデータの量はこの30年で約100万倍に増加した。データの増加は今後30年間で、また100万倍になるだろうと予測されている。

 例として、自動運転車を挙げて説明する孫氏。自動運転車が1日走行すれば、そのデータ量は4TBに達するという試算もあるが、「これまで妥協しながら車を使ってきたが、自動車事故を削減できればよい、急に猫が来るかも、子供が来るかも、反対車線から急にトラックが来るかもしれないそういうことを様々なデータから予見し、推論し事故を防止する」時代が来るという。

 こうした膨大な量のデータを人間が推論し、処理するのは不可能になっていく。そこで、AIが推論していく時代になる。勘や経験による判断をもっと科学的でデータによる推論が行われていく。人間の進化はとどまらず、進化がやってくるという。

 たとえば、天気予報は漁師に聞くよりもコンピューターのほうが正確だ。孫氏が子供の頃、天気予報は全く当たらなかったが、今日現在ではコンピューターを使ったほうが当たるようになったという。

 現状では、人間の予測の方が、AIよりも正確であることはざらにある。しかしこれからはAIのほうがはるかに正確性が高くなる時代がやってくるだろうと孫氏は未来像を描く。

人もAIも適材適所

 孫氏は、AIが得意なことはプリディクション(推論)だとしている。AIになにかものを考えろと言われても、難しく、いまから5分後に起きることを予見するほうが得意だという。いずれは、ものごとを推論することについては、AIのほうが人類よりも遥かに得意になる時代が来ると孫氏。

 孫氏は、AIになんでもかんでもやらせるのは間違っていると思うという。「人間もそうだが適材適所。AIの世界も同じ。私は、AIはプリディクションに使うべきだと思う」とした。

 たとえば、在庫の回転率を増やすためにAIを使う。今日7時、一体どのくらいの注文が来るのか。7時は大雨になるとしたら、注文されるであろう商品数を予見することができる。在庫の回転数はより科学的に当たる。

 中国で最も進んだ中古車販売の会社は、一般的な中古車の在庫期間が60日間のところ、15日で次のオーナーに車を引き渡しているという。在庫が減るということは会社の運転資金を減らせる。これがAIによって2日間くらいになる時代が来ると思うと孫氏は予測する。

日本のAIに対する無関心さに危機感も

 孫氏は最後に、日本でAIを扱う優れた企業がほとんどないことに対して、危機感を示した。

孫氏
 「日本はAIの後進国になってしまった。別に日本を批判したいわけではない、日本が嫌いなわけではなく、日本が好きだから日本も早く目を覚まして、この進化に追いついてほしい」

 としたうえで、日本の企業への投資が少ない理由も明かした。

孫氏
 「日本の会社にちっとも投資しないじゃないか、と言われるがAIのユニコーンがほとんどない、だから投資したくてもそのチャンスがなかなかないのが実態。

 Yahoo!が生まれた25年前、その頃はまだ、FacebookもGoogleもなかったし、Netflixもなかった。Amazonがまだできたばかりくらいだったと思う。それを考えれば最初の5~10年をすぎて生まれた会社が世界的企業になった例はある。

 今はまだ25年前のインターネット革命と同じ時期だと思う。今はまだ間に合うかもしれないが、早く目を覚まさないとやばい。AIの革新が始まると仕事が奪われていくのではないか、と疑われるように、悲観的側面をみる人がいるが、AIは人間を幸せにするためのものだ」

 と孫氏はそう述べて、日本でのAIの発達の遅れに、危機感をあらわにした。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドの企業の代表も登場

 基調講演では、ゲスト講演者として、ソフトバンク・ビジョン・ファンドで出資を受ける約80社の企業のうち、4社の企業の代表がそれぞれの事業についての説明を行った。

OYO Hotels & Homes

 格安ホテルの予約サービスを提供するOYO Hotels & Roomsからは、創業者でCEOのRitesh Agarwal(リテシュ・アガルワル)氏が登壇した。

 会社を設立した6年前、ホテルにも変革が必要だと考えたという。結果として、現在ではヨーロッパ、アジア、アメリカなど80カ国において110万客室が利用可能で、マリオットホテルに次いで世界第2位のホテルブランドとして確立されている。

 AIによるデザインアルゴリズムを使用することで、従来よりも客室の稼働率を向上させ、清掃スタッフを管理するアプリを導入し、誰がどの部屋を清掃するかを明確にし、結果として清掃スタッフの所得も向上したという。

 世界最大のホテルチェーンとして、ホテル業界のリーダーとなり世界中でどこよりも豊かな住居空間を提供したいという。

Grab

 Grabからは、共同創業者でありグループCEOのAnhony Tan(アンソニー・タン)氏が登壇した。

 Grabはシンガポールに本社を置く、配車アプリを提供する企業。同社のアプリは1億5000万以上ダウンロードされた実績があり2012年以降、30億回利用された実績がある。特徴的なのは、単なる配車アプリではなく、キャッシュレス決済やフードデリバリーを提供しているところだ。

 同社のサービスは、AIを使用しての慢性化した交通渋滞、適切な食事を提供して、食品の廃棄の減少、貧困層に対しての経済的支援だという。

 Grabは、同社のサービスへ登録したドライバーに対して、信用枠を与えてローンを提供している。実際に路上生活をしていた男性がGrabのドライバーとして働き、娘を大学に行かせられるようになった例があるという。

Paytm

 Paytmからは、創業者兼CEOのVijay Shekhar Sharma(ビジャイ・シャカル・シャルマ)氏が登壇した。

 同社はキャッシュレス決済サービスを提供している。インドは元々は日本と同じように現金決済が中心の社会だったが、Paytmのサービスは4年間で150倍にまで成長したという。その理由として、シャルマ氏はセキュリティの高さを挙げる。

 PaytmのサービスはAIにより安全を確保されており、アカウントの乗っ取りなどが発生すると、リアルタイムでそれを検知し、取引をブロックするという。

 ローンや低価格な保険商品も販売するほか、昨年には、銀行も開設し、1年でモバイルバンクのトップとなった。

 シャルマ氏は、同社のサービスは伝統的な銀行のあり方を変えるものだと思うと語る。

Plenty

 今日、登壇した中では唯一の北米企業であるPlentyからは、共同創業者でCEOのMatt Barnard(マット・バーナード)氏が登壇した。

 同社が提供するのは、野菜など農作物を屋内で育てるシステム。データとAIを活用することで、従来の農業よりも効率よく、品質の良い農作物を実現している。

 Plentyは一般的な農業に比べて95%の節水を実現、また屋内で育てる上に土を使わないため農薬を使う必要がない。アメリカでは29種類もの農薬を口にしていると言われているが、Plentyで収穫された農作物では、農薬の心配はいっさい必要ない。

 収穫性は従来の350倍だとしている。都市の近郊でも農作物を育てられるため、何百キロも輸送する必要がないこともメリットに挙げられる。

 伝統的な農業よりも遥かに効率よく、品質の高い農作物を育てられるPlentyのサービスは、節水により人間のみならず地球環境にも配慮した農業を可能にしていく。バーナード氏は健康的な生活には、一度食べたら夢中になれるような味の野菜やフルーツが必要だという。夢中になれる味を入手可能な値段で提供することが、人間の健康につながると語った。