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5Gの周波数獲得をめぐり“4キャリア”が総務省でプレゼン
2018年10月3日 18:11
総務省は、周波数帯を割り当てる予定の第5世代移動通信システム(5G、ファイブジー)に関連し、各キャリアがサービス内容や周波数帯の希望内容をプレゼンテーションする公開ヒアリングを開催した。
5Gの公開ヒアリングには、全国で5Gのサービス展開を希望している、NTTドコモ、KDDIおよび沖縄セルラー、ソフトバンク、楽天モバイルネットワークの“4キャリア”のトップが集まり、総務省の関係者と有識者に対しプレゼンテーションを行った。各キャリアは有識者からの質問にも答えた。公開ヒアリングのため、事前に申し込んだ人は傍聴を行え、キャリア関係者、業界関係者が多数集まった。
なお楽天モバイルネットワークのプレゼンは、多くが新しい内容であったことから、別のニュース記事も掲載している。
ドコモ、KDDI、ソフトバンクはこれまでにも5G関連の取り組みや協業などをさまざまな形で発表しており、本誌でも多数の記事を掲載している。本稿では、総務省からの事前の調査に回答する形で4キャリアが明らかにした、希望する周波数帯と帯域幅、評価基準への要望といった、新しい内容に絞ってまとめている。
5G向け周波数のスケジュール
今回の公開ヒアリングで対象にしている5G向けの周波数帯は、3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯の3つ。3.7GHz帯と4.5GHz帯は、2つをあわせて「Sub6帯」とも表現されている。
これら5G向け周波数は、2018年度末をめどに割当を決める予定。
2019年のラグビー・ワールドカップを念頭に試験サービスやデモを実施し、2020年夏のオリンピック開催時には商用サービスを提供している、というのが総務省が想定するおおまかなスケジュールになる。
なお総務省から案内されているように、公開ヒアリングの内容はあくまで事業者のニーズの調査であり、実際の周波数免許の申請・審査には関係しないとされている。
NTTドコモ
ドコモは2019年9月に5Gのプレサービスを実施し、2020年春に商用サービスを開始する予定。
プレサービスとは、料金をとらない無料のサービスを指すが、端末の販売も行われず、端末を貸し出す形になる見込み。その規模は「何万台とかで、限られる」としており、5G向けチップセットの供給がまだ追いつかないとしている。
サービス展開の考え方については、「都市部から地方まで、必要とされる場所」とし、「都市部から順番に、ということでない。需要があるところから構築していく」とし、翻って、従来の人口カバー率を中心とした、人と人との通信のみを考えた評価指標では正しく評価できないとして、新たな評価指標の策定を求めた。
周波数割当については「最大コンポーネントキャリア幅」と訴え、具体的には3.7GHz帯と4.5GHz帯では100MHz幅を、28GHz帯では400MHz幅を希望した。このほか屋内限定帯域の割当も提案している。
料金については、ネットワークとサービスが融合するのが5Gとする一方、ビット単価は反比例して現在よりも下がっていくとしている。
KDDI
KDDIは2019年に一部エリアから高精細映像の配信、スタジアムソリューション、ドローン警備などの5Gサービスを開始する。4Gとのハイブリッドながら、本格展開は2020年で、これには大容量モバイルサービスも含まれる。2021年以降はネットワークスライシングなど「5Gコア」を導入し「フル活用したもの」にする。
周波数割当については3.7GHz帯と4.5GHz帯では100MHz幅以上を、28GHz帯では400MHz幅以上を希望した。また、ガードバンド不要となるようネットワーク同期を前提とした割当を希望するとしている。
評価指標については「地方にネットワークを構築することを評価されるような基準がいいのではないか」とした。
料金については、ビット単価の低減を案内し、IoTなどではさらに安くなるとする一方、ビジネスモデルの共創を図っていく方針。
ソフトバンク
ソフトバンクは2019年度から5Gサービスを開始するとし、2019年夏にスタジアムやVRを使った視聴体験イベントを開始する。2020年のオリンピック開催時期には、遠隔地からスマホやVRで競技を視聴できる超高速大容量サービスを、全国を目標として提供する方針。既存の1.7GHz帯の活用も見込む。
周波数割当については3.7GHz帯と4.5GHz帯では100MHz幅を、28GHz帯では連続した400MHz幅を希望した。
評価指標については、5Gの開設計画ではモノの通信も考慮するなど、地理的な考慮も必要としたほか、トラフィックの増加を念頭に、周波数逼迫度としてのトラフィックの実績を評価基準に追加すべきとしている。
楽天
楽天モバイルネットワークは2019年10月に4Gの商用サービスを開始する予定。当初から5Gを念頭にしたネットワークを構築、「ネットワーク全体が5Gレディ」などとしており、2020年春にも5Gの商用サービスを提供したいとする方針も明らかにした。
周波数割当については3.7GHz帯と4.5GHz帯では100MHz幅を、28GHz帯では4キャリア中最大となる800MHz幅を希望、64QAMと4MIMOで10Gbpsサービスの提供を想定する。
MVNOへの対応
MVNOへの取り組みでは、ドコモ、KDDI、楽天は、3.7GHz帯と4.5GHz帯では従来同様の対応ができる、あるいは要望があれば対応していくという方針。
ただ28GHz帯については、基本的に狭いエリアや、ソリューションとセットで閉域網として構築されていくことも見込まれることから、ドコモは提供機会に懐疑的な味方も示した。
ソフトバンクは、「5GではMVNOの構造がまったく変わる」と指摘、スマートフォン向けなどでは今までどおりとするものの、そのほかは「研究させてもらってから」と慎重な姿勢をみせている。
料金
5Gサービスの料金体系については、IoTを含めて多様なサービスに広がることから、各社とも一概には言えないという意見。ただ、スマートフォンで利用するなど従来型のサービスや、過渡期として4Gと組み合わせて利用する段階では、現在と大きく変わらない見込みとしている。
一方、各社ともビット単価は落ちるとしており、仮に現在と価格が変わらなくても、より大容量のサービスを利用できるようになる見込み。
通信速度
5Gサービスの通信速度の一例は、ドコモは、Sub6帯で100MHz幅の場合、キャリアアグリゲーション込みで下り2.4Gbps、上り117Mbpsなどとしている。28GHz帯で400MHz幅では、下り3.2Gbps、上り256Mbpsなど。
KDDIは「ベンダーにもよるが、ドコモとそれほど変わらない」とし、ソフトバンクは「100MHz幅(Sub6帯)なら下り1.4Gbpsなど」とした。楽天は28GHz帯で800MHz幅なら下り10Gbps、Sub6帯(100MHz幅)は下り2~2.5Gbpsとしている。
開始時期とサービス内容
グローバルでは2020年が5Gの開始と認識される一方、一部ではこれを前倒しして、先進性をアピールする機会とする動きが加速している。
ドコモは「(米国などを念頭に)海外のFWA(Fixed Wireless Access、固定無線アクセス)をキャッチアップする必要はない。ユースケースを作りながら1年~2年かけてやってきているのは日本と韓国ぐらいではないか。価値のあるローンチに意味があり、引きずられる必要はない」と指摘する。
またソフトバンクは、5Gをフルスペックで活用するための標準化(Release 16)はもう少し先になるとし、「安全運転をみると、2024年ぐらいではないか」と、5Gがサービス内容で本格化する時期を予測している。
社会基盤に組み込まれていく5G
各社のプレゼンテーションを受け、有識者からは一様に、ユースケースとして提示された未来への期待が聞かれた。3Gや4Gでは、用途が分からない時期にその速度や必要性を検討していたが、通信業界としての反省もあり、5Gでは非常に幅広い分野で活用できるというユースケースとともにアピールがなされている。
こうした取り組みにより、5Gのような次代の通信網では、人間以外のモノとモノの通信でも非常に重要になり、衰退産業や通信事業が未開拓の分野、あるいは地方創生といったテーマにおいても、技術革新を及ぼせることが予想されている。
このことは同時に、キャリアのネットワークを評価する際、従来のネットワーク=人口カバー率という評価指標が合わなくなっていることも浮き彫りにしており、各社は口を揃えて、5Gの開設計画における新たな評価指標の導入を求めた。今後、総務省が周波数割当を行う際の評価として、どのような基準を用いるのかも注目される。