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KDDI、豊岡市でLTE-Mを活用した水田管理の実証事業

 KDDIと兵庫県豊岡市は、「豊岡市スマート農業プロジェクト」を立ち上げ、その第1弾として5月31日にLTE-Mを活用して水田管理を行う実証事業を開始した。

LTE-M対応の水位センサー

 同市では、1965年から特別天然記念物のコウノトリの人工飼育に取り組み、2005年には初の放鳥に成功。現在は100羽を超えるコウノトリの生息が確認されているが、それを可能とする自然環境を守るため、無農薬による「コウノトリ育む農法」の定着を図ってきた。

 今回の取り組みは、ICTを活用して農業の生産効率を高めることを目指す「豊岡市スマート農業プロジェクト」の一環として、KDDIが豊岡市からの年間650万円で委託を受けて実施される。

 KDDI 理事 関西総支社長の宇佐見典正氏は、同社が2016年9月に同市と包括協定を結んで、観光や物販といったテーマに取り組んできたことを紹介。今回は農業という課題に取り組むことになるが、同社が掲げるライフデザイン戦略の一環として、新しい価値を感じていただけるように努力したいとする。

 豊岡市長の中貝宗治氏によれば、安心安全に加え、生き物が生息できるように、できるだけ長く水をはる必要があり、さらに草が生えにくいように水の深さを管理することが重要になる。水田10アールあたりの作業時間では、この水管理に11.9時間を要するため、この部分をいかに効率化するかが課題になっているという。

豊岡市長の中貝宗治氏(左)とKDDI 理事 関西総支社長の宇佐見典正氏(右)
コウノトリ育む農法で作られた米
水田の上空を飛ぶコウノトリ

 そこで、LTE-M対応の通信モジュールと水位・水温・地温の3センサーを搭載した全長170cmのポール(ニシム電子工業製のMIHARAS)を組み合わせ、クラウドサーバー経由で水位を確認できるようにした。4農家13.5haの田んぼに60本のポールが立てられ、稲刈りまで田んぼを見守ることになる。

 1時間に1回起動してデータ通信を行う仕様となっており、単2電池×3本で6カ月程度動作する。水位が設定範囲(5~10cm)から外れた場合には農家のスマートフォンにメールで通知する仕組みになっており、見回り回数を減らせるようになる。

スマートフォンやタブレットからモニタリングできる

 中貝氏は、見回りの手間が省ければ、この農法による作地面積を拡大することも可能となり、農家にとっては高品質の米の生産にシフトし、所得向上も期待できると語る。さらに、こうした新しいテクノロジーを活用した“スマート農法”を提示することで、「農業=格好いい」というイメージで若い世代の農業に対する関心を高めることにも繋げたいという。

 現時点では、水位センサーをメインが活用され、水温や地温はモニタリングしているだけになっているが、こうしたデータも蓄積し、解析していくことで、さらに効率的な生産に繋げられる可能性もある。

 中貝氏は、今後はドローンと高解像度カメラを組み合わせて活用したり、名人の作業を逐一チェックすることで目に見えないノウハウをデータ化して伝承できるようにしたりするといったアイデアもあると語り、その一歩となる今回の取り組みに期待を寄せていた。

今回の取り組みの詳細を説明するKDDI ソリューション事業本部 ビジネスIoT推進本部 地方創生支援室長の阿部博則氏