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「メッシュWi-Fi」がホームIoTの基幹に――クアルコムが描くWi-Fiの近未来

ラフール・パテル氏

 31日、クアルコムのコネクティビティ事業担当Senior Vice President and General Manager ラフール・パテル氏が来日し、報道関係者向けに事業戦略を紹介した。

 携帯電話向けのチップセット「Snapdragon」シリーズなど、モバイル向け製品を幅広く手がけているクアルコム。その技術を核に、IoTを実現するあらゆる分野に展開している。

 パテル氏のプレゼンテーションでは「Wi-Fi」にフォーカスして紹介された。Wi-Fi対応のデバイスは、1年間に35億台も出荷されている。一方、多くのデバイスがひしめきあう電波環境下では、通信速度が低下してしまう課題がある。それを解決するのがクアルコムが推進する「Wi-Fi SON」と、次世代のWi-Fi規格「IEEE802.11ad」「IEEE802.11ax」だという。

IoTの全分野に渡って製品群を提供。Wi-Fiモデムの市場シェアも世界一としている

Wi-Fiメッシュネットワークの「Wi-Fi SON」

 クアルコムは2017年5月にWi-Fiを使った独自のメッシュネットワーク技術「Wi-Fi SON(Self-Organizing Network)」を発表した。これは、Wi-Fiのエリアを広げ、信頼性を高める技術だ。「Wi-Fi SON」ではアクセスポイントと中継器を使い、エリアを拡大する。ここまでは従来のWi-Fi中継器と同じだが、「Wi-Fi SON」には自律制御の仕組みが取り入れられているのが特徴だ。

 ユーザーがデバイスを配置すると、Wi-Fi SON対応ルーターは周囲の電波状況を観測し、最適な経路・周波数帯を使って通信する。その移り変わる電波環境に対応するルート選択は環境に応じてダイナミックに変化する。

 クアルコムは「Wi-Fi SON」の開発プラットフォームをWi-Fiルーターを製造する企業向けに提供。メーカー各社が独自ブランドのWi-Fiメッシュ技術を搭載するルーターとして、市場に投入している。

 米国では2017年半ばから普及し始めたメッシュWi-Fi技術だが、同年1すでにWi-Fiルーターの販売台数のうち4割はメッシュWi-Fi対応デバイス。そしてそのうち9割超が、クアルコムの「Wi-Fi SON」対応製品だという。

 グーグルが米国で販売している「Google Wi-Fi」や、ネットギア、TP-LINK、ASUSなど多くのメーカーのWi-Fiメッシュ技術は、実はクアルコムの「Wi-Fi SON」がベースとなっている。パテル氏からは、日本のバッファローが「Wi-Fi SON」ベースのWi-Fiルーターを今後提供することが明らかにされた。

 米国では、Wi-Fiの到達範囲を拡大できるという利点があったため、メッシュWi-Fiが受け入れられてきたが、日本では違う特徴が注目されるだろう、とパテル氏は指摘する。家の大きさが小さく密集している日本の家庭では、隣家がWi-Fiルーターを設置することで、電波環境が変わってくることがある。その場合でも「Wi-Fi SON」なら、自動的にネットワークを切り替え、安定した通信を実現できる。

 また、クアルコムは一部のベンダー向けに、Wi-Fi、Bluetooth、ZigBeeという3つの通信技術でメッシュネットワークで対応したプラットフォームを試験的に提供している。将来的には、さまざまなホームIoTデバイスが動作するプラットフォームに成長させていくという。

 なお、「Wi-Fi SON」はクアルコムの独自規格だが、同社はWi-Fiアライアンスに対し標準化を働きかけていくとしている。

クアルコムのWi-Fiメッシュプラットフォームに音声技術を統合。スマートスピーカーでも活用されている
サードパーティーからは独自の機能を追加したソリューションも提供されている

次世代のWi-Fi「IEEE802.11ad」「IEEE802.11ax」

 「Wi-Fi SON」と並んでクアルコムが推進しているのが、Wi-Fi標準規格の「IEEE802.11ad」だ。これは、「ミリ波帯」と呼ばれる60GHz帯を利用したWi-Fi技術。到達距離は11acに比べて短くなるもの、超高速通信が可能となる。

 11adを活用することで、例えば、テレビの映像を伝送するHDMIケーブルを無線に置き換えることができる。また、パソコン向けの本格的なVRデバイスも11adにより無線化することができるという。

IEEE802.11adは「究極のコード・カッター」と紹介

 11adは、すでにWi-Fiルーターやパソコンの一部モデルでサポートされている。スマートフォンではASUSの「ZenFone 4 Pro」の海外キャリア向けモデルが対応しているが、現時点では普及が進んでいない状況だ。

 また、2.4GHz・5GHz帯のWi-Fiも新規格「IEEE802.11ax」の策定が進められている。「11ax」では、8x8 MU-MIMOや新たな変調方式の採用によって、多数の端末が存在する環境で、より安定した通信が可能とされている。

 この「11ax」のプラットフォームを、クアルコムは標準化に先駆けて提供。ファーウェイはこれを採用し、法人向けの製品をすでに提供している。また、韓国キャリアのKTは、2月に開催される平昌(ピョンチャン)冬期オリンピックにあわせて実施するデモンストレーションで、11axを活用する予定という。

 こうした動きから、パテル氏は「もし日本の携帯電話キャリアが来月から11axを採用した製品を提供すると発表しても私は驚かないだろう」と語り、本格的な実用化が間近に迫っていることを強調した。