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メルカリが研究開発組織を設立、シャープや落合陽一氏、村井教授らと協力
IoT、ブロックチェーン、機械学習などがテーマ
2017年12月22日 13:00
メルカリは、幅広い分野の研究開発を進める組織「mercari R4D」(メルカリ アールフォーディー)を設立した。シャープや大学組織と連携し、IoTやブロックチェーン、無線給電、AIによる画像認識などをテーマに研究を進めて実用化、いわゆる社会実装を目指す。
R4Dという名称は、開発(Development)、設計(Design)、実装(Deployment)、破壊(Disruption)という4つのワードが由来。メルカリでは、既存の研究開発組織が基礎研究や応用研究の試験・調査に留まっていると指摘し、「R4D」を通じて得た成果をサービス化していく。
代表にはメルカリで研究領域の調査を担ってきた木村俊也氏が就任。シニアフェローとして、アーティストのスプツニ子!氏や、小笠原治教授(京都造形芸術大学クロステックデザイン研究室)が務める。シャープの研究開発事業本部、東京大学の川原圭博准教授、筑波大学の落合陽一准教授、慶應義塾大学の村井純教授、京都造形芸術大学のクロステック研究室、東北大学の大関真之准教授が共同研究パートナーとなる。
パートナー | 研究内容 |
シャープ研究開発事業本部 | 8Kを活用した多拠点コミュニケーション |
東京大学 川原圭博准教授 | 無線給電によるコンセントレス・オフィス |
筑波大学 落合陽一准教授 | 類似画像検索のためのDeep Hashing Network 出品された商品画像からの物体の3D形状を推定 商品画像から背景を自動特定 |
慶應義塾大学 村井純教授 | ブロックチェーンを用いたトラストフレームワーク |
京都造形芸術大学 クロステック研究室 | IoTエコシステム |
東北大学 大関真之准教授 | 量子アニーリング技術のアート分野への応用 |
落合陽一准教授との画像認識関連の技術は、フリマアプリの新機能としての活用が期待できる。その一方で、たとえばシャープとの共同開発は「8K映像を使ったコミュニケーション」であり、現在のメルカリの事業とは全く関係がないように見える。そうした研究を進めるその背景には、後述するようにメルカリでは技術に重きを置いた事業方針を掲げていること、そして現行サービスの事業の枠組みにとらわれず、新たな領域への進出を模索していることがある。
シャープとの共同研究と、東京大学の川原圭博准教授と進める「無線給電によるコンセントレス・オフィス」という研究を組み合わせれば、場所にこだわらずどこでも仕事できるソリューションの提供といったイメージもあり得る。こうした新たな事業分野への進出を図るための研究もあれば、既存事業に役立つ研究も進める、というのが今回の「R4D」の取り組みになる。
山田氏「メルカリはテックカンパニー目指す」
2013年2月に設立されたメルカリは、現在、国内3拠点(東京、仙台、福岡)のほか、米国サンフランシスコ、ポートランド、ロンドンに拠点を構え、国内は600人、グローバルで700人(半分以上がカスタマーサポート)という陣容にまでになった。
1億ダウンロードを達成したフリマアプリ「メルカリ」を中心に米国、英国でサービスを展開しており、その成長の要因として、創業者の山田進太郎氏は創業・経営陣がエンジニア経験を持ちユーザーインターフェイスやユーザー体験に熱心であること、テレビCMやSNSなどでのマーケティングに積極的だったことを挙げる。
AIの活用例として、写真を撮るとタイトルやカテゴリー、ブランド、価格を自動的に提案してくれる機能を提供。これで出品率や出品完了率が明確に向上した。さらに偽ブランドの検出もサポート。米国版では、PDFで出品用の伝票を自動的に出力できるよう商品情報から重量の自動推定できるようにして、ユーザーの手間を省き、配送コストの削減に繋げている。
こうした取り組みを踏まえ、山田氏は「技術で差別化するフェーズになってきた」と分析する。そこで技術のロードマップを作って戦略的な研究開発投資を進めたり、出品機能など1つ1つを分離してマイクロサービス化して3年で1000人規模のエンジニアリング組織へ拡大する方針。そして今回発表するR4Dもそうした施策のひとつで「日本を代表するテックカンパニーを目指す」(山田氏)という。
チーフプロダクトオフィサー(CPO)の濱田優貴氏は、これからのメルカリ像を模索する一環として、技術をもって世の中にどう役立つかと説明。社内でも研究開発を進めているものの、基礎体力がまだ弱い中での社外との共同研究にはメリットがあると語る。
メルカリR4Dでは研究の途上であっても、積極的に社会でその成果を公表していく方針。濱田氏は、研究開発の後に事業化という流れが一般的な中「たとえば調理するロボットが将来、レストランで活用されればと考える場合、ロボットのコストが1億かかり事業にできないという考えになりやすい。しかし我々は採算を度外視していったん世の中に出してみたい。研究段階であってもまず外に出してみて反応を見たい」と述べている。
シニアフェローとして参画するスプツニ子!氏は「たとえばデザインは、装飾や、ユーザーインターフェイスなどの問題を解決するという手段と思われるかもしれないが、それだけではない。デザインには、遠い未来を想像して提案する、未来を提示する役割もある」と語る。
「メルカリはいいポジションだと思う」と語る山田氏は、現在の技術トレンドであるIoTや、ブロックチェーン、AR/VRといった分野をきちんと追いかけることが、同社の競争力向上に繋がるとの認識を示す。一見すると関係がないように見えることでも追っていってもいいのではないか、と語っていた。