気になるケータイの中身

定額音楽配信「LISMO unlimited」開始、アジアに広がるKKBOX


KKBOXのChris Lin氏
LISMO unlimited

 KDDIは6月15日、auのAndroidスマートフォン向けに新たな音楽サービス「LISMO unlimited」を開始した。今回、サービスを裏側で支える台湾のKKBOXの設立者で、CEOを務めるChris Lin氏に話を訊いた。

 「LISMO unlimited」は、月額1480円の定額で洋楽を中心とした新旧100万曲の楽曲が楽しめるストリーミング型の音楽配信サービスだ。輸入盤のアルバム1枚とほぼ同じ金額で楽曲は聴き放題、そして、ストリーミングサービスでありながら、一度聴いた曲は、メモリカードに次々とキャッシュされ、オフラインでも楽しめる。KDDIでは、洋楽に慣れ親しんだ40代のユーザーにもリーチしやすい、初の音楽サービスとして「LISMO unlimited」を積極的に展開しているところだ。

 このサービスを裏側で支えているのがKKBOXである。KKBOXは、フリーミアムのビジネスモデルを採用したクラウド型の定額音楽サービスとして、台湾や香港でサービスが展開されている。モバイルやパソコン、IPテレビなどを通じて、プラットフォームによることなく楽しめる音楽サービスとして親しまれており、その登録者数は800万人に上る。ちなみに、台湾と香港の人口を合計すると約3000万人、音楽サービスとしては支配的な立場にある。Lin氏は「台湾ではネットユーザーの1/3が使っている」と話す。

 台湾や香港では、自社の「KKBOX」ブランドで音楽市場をリードする一方で、日本においては、資本関係のあるKDDIとともに「LISMO unlimited」の名称でサービスが始まった。自社ブランド以外でのKKBOXがサービス展開はするのは初となる。Lin氏は新天地に日本を選び、さらにそのパートナーにKDDIを選んだ理由をこう説明する。

 「日本の音楽市場は、米国に継いで世界第2の音楽市場です。ここ数年で世界最大の音楽市場になるとも言われています。我々はアジア市場に進出する上で、自然に日本の市場に出て行きたいと考えました。KDDIと強力なパートナーシップを組むことで迅速なサービス展開が可能だと判断しました。課金やプロモーション、マーケティングの面でも通信事業者とのパートナーシップは重要で、LISMOブランドを展開するKDDIは理想的なパートナーでした。将来的に渡って他社と組まないというわけではありませんが、近い将来という意味ではKDDIと組んでやっていきたいですね」

 また、クラウド型のサービスを展開する上で、国内市場はパソコンよりもモバイルが支配的な立場にある。KDDIは、スマートフォン向けのコンテンツサービスを積極的に展開している状況で、うってつけの相手だったようだ。なお、「LISMO unlimited」はKKBOXのサービスを日本向けに最適化し、検索方法や表示方法なども日本に合わせたものになっている。



 こうした一方で、国内でもかつてサブスクリプション(定額)型の音楽サービスが華やいだ時代があった。それが「Napster(ナップスター)」のサービスである。

 米Napsterとタワーレコードが設立したナップスタージャパンは、国内初の定額制の音楽配信サービスとして注目を集め、パソコン向けを中心とした音楽サービスが展開された。モバイルでは、NTTドコモが提供する携帯電話受け定額音楽サービス「うた・ホーダイ」の対応サービスが提供されていた。本誌でも紹介しており、ご記憶の方も多いことだろう。「Napster」は、2010年5月末で国内の全てのサービスを清算し、国内市場から撤退している。

 「LISMO unlimited」が発表され、そのサービス内容が明らかにされると、すぐにNapsterの失敗が頭をよぎった。再び、Napsterのような事態になるのではないか? この疑問にLin氏は「僕は、サブスクリプションモデルが成功しないとは思っていないんです。食べ放題のレストランを開店すると考えてください。Napsterが開店したレストランは、場所も時期も悪かったと思う」と話す。

 「レストランをオープンするなら、やっぱり人通りが多いところに開きますよね? NapsterはPCセントリックなサービスで、日本はモバイルセントリックな市場です。彼らは出店する場所を間違えたし、そして、当時はスマートフォンもなかった。スマートフォンがあれば、ユーザーがマルチタッチの直感的な操作で音楽を体験できるし、音楽のアプリケーションでできることが全く違いますから。そういった意味で時期を誤ったと思う」(Lin氏)。

 KDDIでは、同社のアジア戦略の上でもKKBOXを重要なパートナーと位置づけており、アジア展開でも協調路線をとるという。KKBOXのサービスのうち、85%は洋楽、残りの15%は中国語圏の楽曲となる。しかし、こうした楽曲の配分ながら、85%のユーザーが15%の中国語圏の楽曲を聴いている状況だ。中国語圏の音楽市場は、台湾やシンガポール、マレーシアなど華僑のマーケットとともに東南アジアなどに広く拡大しており、今後東南アジア市場への展開を検討しているという。

 




(津田 啓夢)

2011/7/8 20:56