インタビュー
mineoの「ゆずるね。」はどうやって生まれたか――オプテージ福留氏に聞く
2020年1月29日 13:30
オプテージは、MVNOサービス「mineo」の新サービス「ゆずるね。」、月額350円(税抜/以下同)の「パケット放題」を発表した。
2020年春商戦に向けた新サービスの「ゆずるね。」は、通信が混み合うランチタイムに「自分は通信を使わない=その分を他のユーザーに譲る」と宣言し、その通りにすれば特典をもらえるというもの。ユーザーとの共創を掲げるmineoらしく、ユーザー間の心遣いをサービスの形に仕上げた格好だ。
一方の「パケット放題」は、いわば格安SIMとも呼ばれるMVNOであるmineoにとって、料金や通信量といった通信サービスとしての品質向上に繋がるサービスとなる。
ユーザーを“mineoファン”と位置づけ、ユーザーの求めるサービスを追求し「共創を図る」方針を掲げるmineo。運営元であるオプテージのモバイル事業戦略部長である福留康和氏は「ファンと対話しながらサービスを開発した」と語る。本誌では今回、新サービス開発の背景について、福留氏に聞いた。
共創のmineoが打つ次の一手
――約1年前、福留さんの前任者である上田晃穂氏による会見では、共創戦略を徹底すると宣言していました(関連記事)。
福留氏
はい、この間、大手携帯電話会社(MNO)の料金プランの見直しが実施され、新規参入(楽天モバイル)もありました。
鈍化傾向にはありますが、現在の回線数は117万回線に達し、堅調に契約数は推移しており、mineoのブランドは、着実に浸透してきたと見ています。
たとえばMVNO事業者に対するブランドイメージ調査では、ユーザー同士のコミュニティや、ユーザーの声をもとに開発を進めているといった店で、他社平均の2倍~3倍の評価をいただいているのです。
――成長が鈍化ということでしたが、1年前の会見では約113万回線、今回は117万回線とのことで、4万回線の増加に留まったことを指しているわけですね。
福留氏
はい、厳しい状況ではありますが、着実に増えています。そして解約率も、おそらく他社さんと比べ、相当に低いと見ています。
つまり、mineoの「共創」で生まれたフリータンク(全ユーザーでパケット通信量をシェアする機能)やコミュニティサービスの「マイネ王」の提供を通じて示してきたブランド価値へ、共感してくださっているユーザーの方々が一定数いらっしゃると思うのです。
実際に、紹介による加入者は全体の3割に達しています。ブランドへの共感を示す数値だと見ています。
イメージだけではなく、実際に、「mineoの指名買い」と言える形で契約してくださった方々も、2018年は約15%でしたが、2019年は27%にまで伸張しました。これらの実績から、独自価値の追求は不可欠ではないか、と考えているのです。
――業界の動きとしては、2019年10月、改正電気通信事業法が施行されました。これにともない、大手サービスは解約金が1000円、端末割引の上限が2万円までといったこれまでにない規制が採り入れられています。
福留氏
法改正の影響として流動性(ユーザーが携帯電話サービスを乗り換える動き)は高まると見ています。回線数はさらに伸びると。
そうなると、mineoの独自価値である“共創”はさらに深く進めていく必要があります。
――その一方で、MNOだけではなく、MVNO間でも料金を見直す動きもありますが……。
福留氏
はい、携帯電話としてのベースとなる価値である「手頃な料金体系」も大切です。まずmineoを知っていただかないことには、始まらないところもありますから。
いわば両輪ですね。ですので、共創の追求として「ゆずるね。」を新サービスとして提供するだけではなく、お得感を訴求する「パケット放題」も今回ラインアップし、さらにキャンペーンも実施することにしています。
共創戦略の深化とベース価値の追求、それが今回の発表である「ゆずるね。」と「パケット放題」の2つになるわけです。
「ゆずるね。」を機能させるものとは
――ランチタイムに「使わない」と宣言する「ゆずるね。」はどういった経緯から誕生したのでしょうか。
福留氏
実は、社内、そしてユーザーさんからの声、両方から「ゆずるね。」の種になるアイデアが出てきたのです。
ユーザーさんからの声は、コミュニティサイト「マイネ王」で受け付けています。寄せられる声に対して、週に一回、社内で検討会を開催しているのですが、今回は一緒に作っていったという形だと思っています。
――マイネ王からの声も活用されたのですか。ちなみにサイトはオープンなもので、いわば競合他社さんにも見られる状況ですよね。
福留氏
共創戦略の一環として、ファンミーティングも何度か実施しており、これまでもさまざまなご意見をいただいたり、議論をさせていただいていました。
確かにサイト自体はオープンで、今のmineoに対する改善案など、mineoならではの声が多いです。「ゆずるね。」に繋がった声も、いわばアイデアの種でして、ブラッシュアップしたからこそサービスへ行き着いたと思っています。オープンな場だからといって、他社さんにとっては実施しようと思っても難しいかもしれません。
――mineoの独自性がそうした場でも生きていることの証のようですね。一方で、フリータンクの実績があるとはいえ、本当に「ゆずるね。」が機能するか、という点はオプテージ社内でも議論されたと思うのですが、いかがですか。
福留氏
はい、本当に使っていただけるかどうか、大きな課題です。ユーザーの方に務めていただいている「共創アンバサダー」にご意見をいただき、さらには座談会で気になっている点など意見をヒアリングしながら、仕組みを突き詰めていきました。
――「ゆずるね。」を利用して、回数を重ねていくと特典をもらえる仕組みになりましたね。ユーザー自身が、何度譲ったか、自分の実績を他のユーザーとシェアして、競争心を刺激するような仕掛けは今回ないようです。
福留氏
譲り合い、助け合いということで、「特定の個人の実績を」他の方に見せるという部分は確かに今回採り入れていません。
一方で、「人の役に立ちたい」という考え方は、人にとって大きな欲求のひとつだとも思います。通信サービスを離れてみると、たとえばボランティア活動も同じような想いが根底にあるのかもしれません。マズローの欲求五段階説などもありますよね。
以前、サポーターアンバサダー(ユーザーの中でも、マイネ王のQ&Aで回答を寄せて他のユーザーを助ける活動をする人)の方へ、どのようなモチベーションで活動しているのか伺ったことがあります。すると、やはり知識が誰かの役に立つことが動機になっておられて、金銭のような対価を求めてはおられなかったのです。そうした気持ちはやはり根底にあるのではないでしょうか。
500kbpsで使い放題
――通信サービスのインタビューで、そのような話題になるとは思ってもいませんでした。mineoらしさと言えるかもしれませんね。その一方で、ベース価値も今回は強化すると。
福留氏
はい、まずはパケット放題として提供します。業界最安のもので、いわゆるゼロレーティングのような特定のサービスだけといったコンテンツによる制限はなく、全ての通信が対象です。
月額350円というオプションで、通信速度は500kbpsとなります。低速通信の200kbpsですと、SNSのようなテキスト中心のコンテンツであれば、といった形ですが、500kbpsあれば画像や音声、標準画質程度の動画であれば快適にご利用いただけると思っています。
実は2019年の6月、「mineoスイッチ増速ウィーク」という試験サービスを実施しました。そのとき、サービス化を求める声をたくさん頂戴し、正式に導入することになったのです。
やはりMVNOに対しては、手頃な料金を求める方も多いでしょう。私たちも、いかにそうしたサービスを提供できるか考えていきます。今回は、500kbpsで、全てのコンテンツを対象にした使い放題としては最安値になると自負しています。
5Gに向けた取り組みは
――なるほど。一方、2020年と言えば、国内では5Gサービスが始まります。まずは大手携帯3社からの開始となっており、MVNOが5Gを活用できる環境はまだ整備されていませんが、現時点ではどのように見ていますか?
福留氏
基本として、技術の進展は世の常であり、そこへ追随し、確実に対応はしていきます。ただ、提供時期は、卸の料金など(MNO側の整備を)踏まえていくことになります。自社設備の改修も必要かもしれませんので、さまざまな要素を踏まえて提供時期を考えたいですね。
――MNO側では5Gは高速大容量、料金も使い放題を前提にする方向が示唆されています。MVNOの手頃な料金はすなわち低容量のサービスでもあると言えそうですが、5Gを活用するとしてもどうなるのでしょうか。
福留氏
これまでのような従量制のサービスではいられない可能性はあると思っています。
とはいえ、今後も、必要な量を必要な分だけ手頃な価格で利用したい、という考えの方はある程度いらっしゃるでしょう。そこでどんなサービスを提供するのか、考えていく必要があります。
――オプテージとしては、サービスエリアを限定するローカル5Gに向けた取り組みも進めていますよね。
福留氏
はい、ローカル5Gは法人分野で有用なサービスになると思います。
――なるほど。コンシューマー向けのmineoとは別の動きですね。
福留氏
今回発表した「パケット放題」は、一定の通信速度だけど使い放題になるというもので、5G時代に向けたサービスの試金石と見ている部分もあります。5Gならではのメニューを引き続き考えたいですね。
――本日はありがとうございました。