【WIRELESS JAPAN 2009】
「地球上で最も使われるソフト」を目指すSymbian
Symbian Foundation Japanの小西氏 |
無線通信関連の総合イベント「WIRELESS JAPAN 2009」の技術系セッション「携帯電話プラットフォーム戦略」で、Symbian Foundation Japan(シンビアンファウンデーションジャパン)のコミュニティ・マネージャーの小西一弘氏は「シンビアン ファウンデーションの紹介」と題した講演を行った。
まず小西氏は、Symbian社とSymbian OSの歴史を紹介する。Symbian OSは元々、英国のサイオン(PSION)が同社のPDA向けに開発したOSからスタート。1998年にサイオンはOS部門を分離し、エリクソン、モトローラ、ノキア、サイオンの4社がこのOSを携帯電話で利用するための新会社、Symbianを設立した。
Symbian OS採用機種は、2000年にはエリクソンから「R380」が、2001年にはノキアからNokia 9210やNokia 7650が登場する。日本においては、2003年にSymbian OSを採用したFOMA端末が出荷される。Symbian OS搭載の3G端末は、このときのFOMA端末が初めてということになる。
Symbian OSは、海外ではスマートフォンに搭載されることが多いが、日本においては一般的なFOMA端末で採用されている。2004年にはNTTドコモがFOMA端末のプラットフォームの1つとして、Symbian OSベースのMOAP(S)を採用することが決定。富士通やシャープ、ソニー・エリクソンのFOMA端末がMOAP(S)を採用している。昨年、携帯電話事業から撤退した三菱電機もMOAP(S)を採用していた。
そして2008年6月24日、Symbian創立10周年を迎えた日に、ノキアがSymbianを買収し、Symbian OSをオープンソースとして展開するため、非営利団体のSymbian Foundationを設立することを発表した。準備期間を経て、Symbian Foundationは2009年2月5日に発足した。
Symbian Foundationについて | Symbian OS搭載機の出荷台数推移 |
世界で見ると、2006年にはSymbian OS搭載機は通算1億台出荷を達成し、日本国内では2007年にSymbian OS搭載機の出荷が3000万台を突破している。その後も出荷台数は伸び続けていたが、小西氏はグラフを示しつつ、「そのまま行くかと思ったが、2008年の第1四半期にスコーンと落ちた。何かパラダイムシフトが起きているのではないかと思い、いろいろ考えた」と語り、その要因を推察する。
まず小西氏は、ケータイがこれまでどのように成長・進化してきたかを振り返る。「ケータイが通話メインのものからインターネットデバイスとなり、手近なネットアクセス手段となった。最近では回線もHSPAとなり、ADSLと遜色のないネット利用ができるようになった。ネットワークの高速化とともにケータイの利用範囲が広がり、それにふさわしいコンテンツも登場した」と語り、ケータイがネットワーク端末として急速に進化してきたことを指摘する。
さらに小西氏はiPhoneの影響もあったとし、ユーザーインターフェイスやAppStore、パソコンとの連携性など、iPhoneの優れていた点を挙げる。
携帯電話の成長の主要因子 | iPhoneのもたらしたインパクト |
このような流れから小西氏は、「スマートフォンは、今後PC化してくるのではないか。過去、アプリケーションのないPCがどんどん淘汰されてPC/ATだけが残ったように、スマートフォンのグローバル化も進んでいくのではないか」と予測する。さらに開発者も、AjaxやFlashといった、プラットフォームに依存しない開発をするようになり、プラットフォームもオープンソース化が進んでいると傾向を分析した。
さらに小西氏は世界のケータイ販売台数のグラフを引用し、「景気後退が顕著な時期だが、スマートフォンは販売台数が増え、その割合は増えている。この市場の変化やこれまでの傾向にあわせ、Symbian Foundationは設立された」と述べた。
傾向 | スマートフォンの出荷台数 |
Symbian Foundationの構想 |
Symbian Foundationの目標として小西氏は、「Symbian OSは地球上もっとも使われるソフトウェアとなるべく頑張ってきたが、Foundationもその理念を引き継ぐ」とし、生産性の高い価値あるソフトウェアコミュニティ構築を目的とすることを説明する。
Symbian Foundationの構成メンバーとしては、まず世界各国から9社のキャリア、端末ベンダー、部品ベンダーがボードメンバーとして参加し、現時点で100社以上がメンバーシップを申し込んでいると紹介する。ちなみにSymbian Foundation自体は開発を行わず、開発はSymbian Foundationのメンバーが開発を行う。
初期ボードメンバーの9社 | Foundationの組織図や計画 |
新しいSymbian OS、Symbian Foundation PlatformはノキアのS60をベースに、ソニー・エリクソンのUIQやドコモのMOAP(S)から必要な部分を取り込んで開発される。まだ公開されているのは一部だが、2010年度末までにはほぼすべてのパッケージをEPL(Eclipse Public License)でオープンソースとして公開する予定となっている。
Symbian Foundation Platformの特徴 |
公開されるSymbian Foundation Platformは、S60などをベースとするため、小西氏は「ほぼ10年にわたって市場で実績のあるものをロイヤリティフリーで利用できる」と優位点をアピールする。また、高機能なケータイに必要なさまざまなソフトウェアコンポーネントやツールも、Symbian Foundationのものが利用できるという。
Symbian Foundation Platformは年に2回、正式バージョンをリリースしていく予定となっていて、今年中に公開される最初のバージョンでは、ウィジェットやカスタマイズ可能な待受画面兼ホーム画面などが実装されているという。画面の解像度や入力方式も柔軟に対応可能で、キーパッドやタッチ、タッチ+フルキーボードなどの端末にも利用できる。
Symbian Foundation Platformのリリース計画 | ブラウザはプラグインに対応するという |
ホーム画面はほぼS60ベース | ウィジェットなどにも対応する |
互換性を保つための考え方 |
開発に携わる関係者や採用メーカーが多くなり、頻繁にバージョンアップすれば互換性の問題も出てくる。この点については、Symbian Foundation Platformでは、SDPR(Symbian Device Platform Release)という共通部分を持ち、APIの互換性を厳密に管理するという。各端末ベンダーは、この共通部分を守った上で、差別化のためのソフトウェアを付け足す形になる。
Symbian Foundationのような開発者コミュニティが成功する条件として、小西氏は「オープンな参加条件で、非営利であること。誰かに管理されてはいけない。あとはエコシステムの支援。これらをやらないと、Symbian Foundationは崩壊するのではないかと考えている」と持論を語った。
最後に小西氏は、「いまはパラダイムシフトのまっただ中で、ワイヤレスでインターネットにつながるデバイスが始まるタイミング。ぜひこのタイミングを逃さないように、このチャンスをものにしてもらいたい」と語り、Symbian Foundationへの参加を促した。
コミュニティの成功要因 | 講演最後に示されたスライド |
(白根 雅彦)
2009/7/24/ 21:51