【mobidec 2009】
KDDI竹之内氏、auの“オープン戦略”を紹介


KDDIの竹之内氏

 25日、都内で携帯コンテンツプロバイダ向けイベント「mobidec 2009」が開催された。特別講演として、KDDIコンテンツ・メディア本部 コンテンツビジネス部長の竹之内 剛氏が登壇し、「auのコンテンツ・メディア戦略」と題する講演を行った。

 講演では、auのコンテンツ利用動向や地域別の傾向、LISMOやau Smart Sportsでの取り組みが語られたほか、オープンプラットフォームでの展開についても紹介された。

 

au向けコンテンツの今

 純増シェアでは他社よりも苦戦している傾向が見られた最近のauについて、竹之内氏は「データ通信はドコモにやられているが、ケータイから利用する通信についてはまだまだ好調に推移している。定額制についても加入率が7割と、非常に高い。音楽配信に注力した結果、リテラシーの高いユーザーを獲得できている」と分析する。現在、auユーザーの8割は、パケット通信定額サービスを契約できるCDMA 1X WINを利用する。残りはCDMA 1Xユーザーで、WINへの移行が進めば、その分定額制の契約率も上昇すると見込まれている。

 1人あたりのコンテンツ利用額は、2008年夏の時点で500円前後だったが、今夏時点で560円強に上昇。データARPUも徐々に上昇しており、2009年度第2四半期時点で2270円(前年同期比60円増)となっている。

auユーザーの7割、WINユーザーの78%が定額制に加入ユーザー1人あたりのコンテンツ利用額
データARPUの推移ジャンル別の利用額推移

 コンテンツの利用額(売上高)をジャンルごとに比較すると、1位は着うたフル・ビデオクリップで、続いてゲーム(パチンコ・パチスロ含む)が続く。両ジャンルは“2強”と言えるほど他ジャンルに差を付けているが、過去2年は微増、あるいは横ばいと表現できるほど、あまり大きな伸びはない。その一方で、大きく伸びているのが「ナビ実用系」「コミュニケーション(GREEのアイテム課金など)」「電子書籍」の3つという。

 

東北のユーザーはケータイコンテンツをよく使う

地域別コンテンツ利用特性

 他社にはない、ユニークなデータとして、「地域別コンテンツ利用特性」も披露された。これは、コンテンツの利用額で順位をつけたもので、着うたフルをよく利用するのは「岩手、秋田、福島、高知、宮城」の順、ゲームをよく利用するのは「岩手、福島、青森、秋田、高知」の順、電子書籍は「岩手、秋田、栃木、福島、宮城」という順で、人口の多い東名阪ではなく、東北地方を中心としたエリアでの利用額が高いことが明らかになった。

 これは2009年4月時点でのデータだが、竹之内氏は「冬場になると自宅で過ごすことが多いのかもしれないが、コンテンツの利用傾向としては東北でよく利用されている。さらに今後分析を進め、何か新たなことがわかればセミナーなどで披露したいが、今後のビジネスの方向性として、地域色が出始めている」と語り、さらなる分析が待たれるものの、地域に根差したコンテンツの可能性を指摘した。

 

LISMO Bookで文芸作品

 当初、音楽配信サービスとしてスタートした「LISMO」だが、その後映像配信サービスもLISMOブランドで統一され、今冬モデルからは電子書籍も加わった。

 新たにLISMO Bookとして提供されることになった電子書籍市場について、同氏は「20代~30代女性の利用が非常に多い。ただし、今まではBL(ボーイズラブ)系などが中心だったが、現在auでは文芸、小説に注力している」と語る。

 今夏には「夏の感動100冊」と題して、文芸作品の携帯電話向けコンテンツを紹介する取り組みを行ったほか、現在も「10代のユーザーがケータイ小説のように文字を紡いでいくことが流行したが、文芸作品に接すれば、今の10代でもきちんと読む。その層を育て、さらに作家まで育てる」(竹之内氏)という目的で文芸賞に協賛しており、携帯向け文学作品配信を本格化する方針だ。

電子書籍もLISMOブランドで電子書籍の利用動向
夏のキャンペーンでアクセス数増加

150万のユーザーにリーチ

 au Smart Sportsについて竹之内氏は、「新分野として取り組んでおり、新しいライフスタイルを提案する。Fitnessは女性に人気で、Golfは役員から『スポーツならゴルフだろ』と言われて仕方なく始めた(笑)が、GDO(ゴルフダイジェストオンライン)と組んで、うまく立ち上げようとしている。アディダスなどさまざまな企業とコラボしているが、auだけでユーザーへリーチするのは非常に厳しい」と説明する。

 さまざまな趣味・趣向を持つユーザーに対して、au単体でのコンテンツ/サービス提供には限界があるとの説明だが、これに対する方策として、ジャンルごとにユーザーを分けて、個別に展開するという手法が採られた。その1つとして、スポーツやヘルスケアに興味を持つユーザーへのアプローチとして導入されたのが「au Smart Sports」であり、同サービス“auのサービス”という性質だけではなく、“auユーザーへコンテンツを提供する土台”としての機能も持たせており、コンテンツ配信プラットフォームになっているという。

au Smart Sportsもまたコンテンツプラットフォーム20代~40代女性の利用が多い

 竹之内氏は「au Smart Sportsのユーザーは150万人。関心をもって集まっている。そこまで育てたので、今後はコンテンツプロバイダに利用して欲しい。Run&WalkはAPIを開示しており、ワークアウト情報を利用したコンテンツを提供できる。希少なマーケティングデータとしても使えるだろう」と述べる。具体例としては、運動に応じて表示が変わるFlash待受や、歩行/走行距離に応じて成長するゲームなどが考えられるとして、au側で募ったユーザーに対するコンテンツの展開を呼びかけた。

 新たなコンテンツの軸としては、ファッション分野が検討されており、既に「EZ MYスタイリング」というサービスでスタートしている。服飾ブランドからは注目されているということで、聴衆に対しても、「新たなアイデアがあれば」と語っていた。

オープンプラットフォームでの展開

 同氏は、携帯電話の端末販売が伸び悩む中、従来のやり方ではコンテンツ市場の拡大も見込めないと指摘する。機種変更は、「EZケータイアレンジ」などカスタマイズ系コンテンツを購入する機会へと繋がり、端末販売が促進されれば、コンテンツ売上に繋がるところもあったが、端末の利用期間が長期化する中では、カスタマイズ系コンテンツへの影響が大きい、と竹之内氏は推測する。

 そうした市場環境の変化の中、竹之内氏は「ユーザーとのタッチポイントの拡大・強化」「オープン領域へのビジネス拡大」「パートナーシップの一層の推進」という3つの視点で、今後の施策を展開する方針を示した。

3つの視点で展開ショップでの活動や、地方向けコンテンツに注力

 タッチポイントとは、ユーザーと接する機会のことで、1つはauショップでの取り組み。これまであまりコンテンツを使っていないユーザー層に対して、オススメコンテンツを紹介するなどの施策が行われるとのことだが、同氏は「ショップでのコンテンツ推奨は、端末価格の値引きに利用されている側面があった。これは本意ではなく至急改善を図っている。ターゲット層にあわせたコンテンツを提供したいと考えており、こういったスキームが成立すれば、コンテンツの利用が促進されるのではないか」と述べた。

 また、もう1つが地方との連携で、具体例としてメニューをカスタマイズできる「ナカチェン」という仕組みを使った「ファイターズケータイ」「埼玉ケータイパック」が紹介された。

企業間アライアンスでも“オープン”な方針
オープンプラットフォームに対する施策

 そしてオープン領域への展開について、竹之内氏は「これまで垂直統合の中で培ってきたものを各レイヤーに分けて提供したい」と述べる。レイヤーとは、回収代行などを含む課金プラットフォームや著作権管理などの配信プラットフォームをまとめた「キャリアプラットフォーム」、EZwebや有線、放送サービスなどの「アクセスライン」、LISMOやGPSといった「アプリケーション」、そして携帯電話やパソコン、テレビなど「デバイス」の4つだ。

 アプリケーションやデバイスはオープンに開放し、プラットフォームも他社が利用できるようにする。これらを“垂直統合で培った資産”として、パートナー企業との連携を通じて、さまざまなサービスをシームレスに利用できるようにするという。これらは、一般ユーザーを含めて誰でも利用できるという意味での“オープン化”ではなく、KDDIと協力する企業の間での“オープン化”という形だ。

 一方、ユーザーにとってオープンに使えるモバイルサービスが実現するのか。竹之内氏が示したプレゼン資料には「日本国内においても既存の携帯電話に加えて、オープンプラットフォームを取り入れ、市場活性化を図りたい。ただし、オープンプラットフォームを持ち込んだだけでは、国内ユーザーは受け入れない」と記されている。

 モバイル業界における“プラットフォーム”が何を意味するのか、その時々によって変化し、今回の竹之内氏の講演内でも具体的な名称などは明らかにされなかったが、同氏は「国内ニーズには、オペレーターパックを提供し、事業者向けカスタマイズを行う。セキュリティリスクについてもキャリアがアプリを選ぶといった分け方で対応できる。目的のアプリを見つけにくいのであれば、リコメンド機能を充実させる。アプリ購入でクレジットカードなどを入力することに不安があれば、キャリアの回収代行機能を提供する」と語り、AndroidやWindows Mobileなど、携帯電話向けソフトウェアと見られるオープンプラットフォームへの施策を紹介した。

 同氏は、GPS情報のAPI開示範囲を拡大し、連続測位や圏外でも測位できるようになっていることを明らかにし、「プラットフォームはどんどん拡大したい。コンテンツプロバイダの皆さんもご活用ください。ただ、今のところレガシーなプラットフォームを中心に提案される方が多い。新しいビジネスへの認知度は低く、要望を受けて進化させたい。ぜひ協力ください」と語り、従来型とは一線を画すコンテンツやサービスを期待する姿勢を見せた。

パートナーシップも拡充GPSは、以前より利用できるAPIが広がっている

 



(関口 聖)

2009/11/25/ 16:53