【CEATEC JAPAN 2010】
「みんなの放送局」を目指すmmbi二木社長


mmbiの二木氏

 CEATECの出展者セミナーで、株式会社マルチメディア放送(mmbi)の代表取締役社長 二木治成氏は「マルチメディア放送の事業展開について」と題した講演を行った。講演はキーノートスピーチなどが行われる国際会議場ではなく、展示ホールにある小さめの会議室が使われたが、9月に同社が放送免許を勝ち取ったばかりとあって、立ち見が出るほどの盛況ぶりだった。

 まず二木氏はマルチメディア放送の事業スキームとして、インフラを担当する受託放送事業者と番組コンテンツを担当する委託放送事業者が分離する、ハード・ソフト分離制度を採用していることを紹介し、「その上で番組を提供する委託放送事業者をどのような仕組みでやるか、総務省でルールを作ってもらっている。たくさんの人に参加してもらうことで、全体の活性化に繋がる」と語った。

事業スキーム周波数の使い方について
事業概要
リアルタイム型と蓄積型を組み合わせる
放送とモバイルの特徴を持つ

 事業計画として二木氏は、mmbiが委託放送事業者としてインフラを担当するにあたり、マルチメディア放送で通常のテレビ放送のような「リアルタイム型」と端末に番組を蓄える「蓄積型」の2種類を提供していくことを紹介する。また、放送中の番組内容に連動し、検索機能やソーシャル機能など、放送と通信を連携融合させていくという方向性も紹介した。

 蓄積型放送(ファイルキャスティング)とリアルタイム型放送(ストリーミング)の2つについては、蓄積型がマルチメディア放送の特徴になるという考えを示す。たとえば夜間に番組を自動ダウンロードするといった仕組みで、視聴者は好きな番組やリコメンドされた番組をダウンロードして見ることができる。

 リアルタイム型と蓄積型の比率は、ダイナミックに変えていくことができるという。たとえば普段は帯域の3分の1をリアルタイム型、3分の2を蓄積型が使うようにしていても、サッカー中継番組があるときだけリアルタイム型の帯域を3分の2、蓄積型を3分の1にする、といったことが可能で、周波数を有効活用できるという。

 通信と放送の連携機能としては、番組情報やソーシャル機能に加え、課金手段として使ったり、放送を受信できなかったときに通信で補完したりするといった機能も想定しているという。

 ビジネスモデルとしては、基本料金だけで基本コンテンツが視聴でき、それに加えて有料のプレミアムコンテンツを提供する、といったケーブルテレビのような形態を想定しているという。この上で二木氏は、「基本料金が1000円とかでは使ってもらえない。300円くらいなら見てもらえる。このくらいのリーズナブルな価格でサービスを提供できるようにしたい。その一方で良い番組を提供するときは、プレミアムの仕組みを使ってもらえれば運営できるだろう。このように視聴者から料金をいただくだけでなく、たとえばカーナビのアップデートファイルを放送するなど、BtoBtoCのようなビジネスモデルも、いろいろなものが考えられる」とビジネスモデルを語った。


蓄積型とリアルタイム型、そして通信との連携通信との連携サービスの例
リアルタイム型と蓄積型の比率は柔軟に変更できる基本コンテンツとプレミアムコンテンツで構成する

世帯カバー率の想定推移
対応端末の普及計画
設備投資費

 エリア展開については、全国を125局でカバーし、さらに関東地方では現在建設中の東京スカイツリーの運用開始に合わせ、サービスを提供するという予定を説明。二木氏は、「放送局さんと一緒に事業を行うので、たとえばアナログ設備が空いたところを使わせてもらうなど、50年の放送歴史のノウハウを活かして展開できる。またスカイツリーを使うことで、関東の1600万世帯、日本の3分の1の世帯をカバーできる」とし、スタート時には60%の世帯をカバーし、3年後には90%を超えるという目標も示した。

 エリアの展開に関しては二木氏は講演の中でも繰り返し言及し、「このビジネスはゆっくりやっていたらダメになってしまう。ほかにもいろいろなメディアがあるのでとにかく早く立ち上げなければいけない」とその重要性を強調した。スカイツリーについては、9月に免許を取得できたことにより、現在の工事で同時にマルチメディア放送の設備を取り付けられるよう間に合ったと紹介。二木氏は「スカイツリーの地上533mにアンテナが設置される。東京タワーの地上233mに比べると、高層建築による影響は改善できる。スカイツリーに間に合ったことは非常に良いタイミングだった」とも語った。

 受信端末としては、NTTドコモとソフトバンクが表明している数字として、5年後に5000万台の普及を目指していることを紹介し、さらに「(免許取得競争で)KDDIとバトルしたが、ノーサイドでどうか、と声をかけている。地デジやワンセグの伸びを比較すると、ケータイに載せることで普及させられる。マルチメディア放送でも、ケータイにいかに早く載せられるかが重要だと考えている」と語った。

 その一方で二木氏は、たとえばケータイやルーターから無線LANでほかのデバイスに放送を出力するなど、さまざまなデバイス形態がありうるという考えも示した。またチューナー搭載のデバイスも、ケータイにこだわらず、いろいろなところにチューナーを入れていくことで広がりが考えられる、とも述べた。

 放送に使う通信方式としては、mmbiはISDB-Tmm方式を採用する。ISDB-Tmmは、地上波デジタル放送で用いられているISDB-Tをモバイル向けに拡張した技術で、蓄積型放送が組み込まれ、移動中も受信しやすくなっているという。ISDB-Tは日本発の方式だが、二木氏は南米で広く採用されつつあり、二木氏は「日本の方式が世界に広がるチャンス」とも紹介した。

さまざまなデバイスを想定する市場の早期立ち上げに必要なもの
ビル遮蔽によるエリアへの影響についてマルチメディア放送を成功させるための環境作り

「8番目のメディア」
「みんなの放送局」

 そもそもマルチメディア放送とはどのようなものか、ということに対し、二木氏は「8番目のメディア」と定義づける。二木氏によると、地上/衛星と放送/通信、モバイル/固定の3つの要素によって通信と放送のメディアを分類すると、地上-放送-モバイルがまだ埋まっておらず、そこにマルチメディア放送が当てはまるという。二木氏は、この地上、放送、モバイルという3つの要素が活用されることが成功の鍵だと語る。

 一方で衛星-放送-モバイルの「モバHO!」が普及せずにサービスを終了したことにも触れ、「エリアや端末普及、料金に問題があった。マルチメディア放送を成功させるには、そこをクリアにしないといけない」と指摘した。

 二木氏はマルチメディア放送について、「マルチメディア放送はいろいろな人にビジネスモデルを考えてもらうのが良いと考えている」と語り、「みんなの放送局」という考え方を示す。いろいろな人がいろいろな形でサービスに関われるようにオープンな環境を整えること、通信と連携することで視聴者ともつながれること、蓄積型を使った番組レコメンド機能によって視聴者に合わせたコンテンツを提供できることなどを活かし、「みんなの放送局」を目指していくという。

 講演の最後で二木氏は、「たくさんの人にビジネスに加わってもらい、早くスタートさせたいと考えている。難しいビジネスだと言われてきたし、実際にそうだと思う。放送とモバイルの連携というのは、ほかにはない要素なので、そこを活かせるよう、いろいろな形で従来とは異なる形でスタートできれば良いと考えている」と述べた。



(白根 雅彦)

2010/10/6/ 18:50