世界のケータイ事情

カウチ・ポテト with スマートフォン

 今ではほとんど耳にしなくなったが、「カウチ・ポテト」という言葉がある。アメリカ発祥の表現で、ソファ(カウチ)に寝転がってだらだらとテレビを見ている人をジャガイモに例えて揶揄したものらしい。日本ではポテトという単語をポテトチップスと解釈して、ポテトチップスを食べながら寝転がってテレビを見る行為という意味合いに変化した。この言葉自体は1960年代には存在したようだが、もし今この時点で「カウチ・ポテト」の意味を改めて吟味すれば、恐らくその手にはポテトチップスとともにスマートフォンが握られていることだろう。

 で、何をしているかというと「ソーシャルテレビ」だ。定義は色々あるようだが、大雑把に言うと、テレビを見ながら同時にTwitterやFacebookなどのソーシャルサービスでその番組に関する情報や感想を共有することである。

 ソーシャルテレビは、食べログやYelpといったいわゆるクチコミサイトと似た働きがある。アメリカのテレビ局もこうしたクチコミを巧く活用し、視聴率を獲得しようとする動きを見せている。例えば、2012年ロンドンオリンピックの放映権を獲得したNBCは、テレビ放送と同期する形で選手の紹介、投票、クイズなどが楽しめるモバイルアプリをリリースし、視聴者をテレビに引き寄せようとした。

 徐々に存在感を現し始めているソーシャルテレビであるが、アメリカでは既に専門の調査会社も存在し、マーケティングに活用すべく色々な分析もなされている。公表されている調査結果もあるので、その一部を以下に紹介したい。なお、調査したのはBluefin Labsという会社だが、早速にTwitterが買収してしまった。何とも動きの早いことである。

 今年2月に開催されたNFL(アメリカン・フットボールのプロリーグ)の優勝決定戦であるスーパーボウルは、テレビ視聴率46%超、全米1億人以上が中継を見たという一大イベントだったが、アメリカ国内で発信されたTwitterとFacebookのコメント数も3060万に達した。これは、それまでの最高だった2012年アメリカ大統領選開票日の記録(2830万)を超え、Bluefin Labsが調査を開始して以来最も話題に上った単日のイベントとなっている。

 そのスーパーボウルで一番コメントが多かったのは、優勝が決まった瞬間でも34分間の停電の最中でもなく、ビヨンセのハーフタイムショーだった。この結果は、ビヨンセのカリスマ性によるものなのか。あるいは、どちらのチームのファンでもない中立的な視聴者が多かったのか。はたまた、コメントするよりも内容に見入ってしまうほど白熱した試合展開だったということなのか。それについては新たな分析を待つ必要があるだろう。

 また、中継の合間に流れるスポット広告で最も反響があったのは、クライスラー社のトラックDodge Ramの広告だった。著名なラジオパーソナリティが農家を賞賛して述べたスピーチ「So God Made a Farmer」を用いて、なかなかに印象的な出来だと思うのだが、なぜかネガティブな内容のコメントの割合が多かったそうだ。「ネガティブ評価も話題のうち」と言えなくもないが、30秒あたり350万ドルとも言われる広告費用を払う企業にしてみれば好ましいことではないだろう。

 ところで、今年のスーパーボウルは試合中に34分にわたって停電するという珍事が発生した。当然試合は中断し、テレビは待機する選手の様子やリプレイなどを流して間を持たせたが、その間に機転を効かせた面白いネット広告がいくつも流れ、中にはスポット広告を上回る人気を博したものもあったという(参考:島田範正のIT徒然「スーパーボウルで最も話題になった広告のコストは”タダ”だった!」)。

 これに対して、ロンドンオリンピックは、17日間の開催期間でアメリカ国内において8260万のコメントを集めた。

 大会期間中に最も話題の中心にいた選手は競泳のマイケル・フェルプスだった。アメリカ代表で金メダルも獲得しているので、結果はさもあらんという感じである。2位には、世界的に有名なウサイン・ボルトを抑え、男子高飛び込みのイギリス代表選手トム・デーリーがランクインした。

 面白いのはこれを男女別で見た場合である。女性が話題にした選手トップ3はトム・デーリー、ネイサン・エイドリアン、ライアン・ロクテといずれも水泳競技の選手たち。片や、男性に人気があったのは、カーメロ・アンソニー、ケビン・デュラント、レブロン・ジェームズとバスケットボール選手が占めた。特段根拠はないが、何となく納得してしまう結果である。

 もちろん、Bluefin Labsの調査で報告されているソーシャルテレビ上のコメントは一部の利用者の意見で、Dodge Ramの広告が素晴らしいと思う人は実はもっとたくさんいるのかもしれない。でも、ひとつひとつのコメントにはとても正直な本音が出ていて、見ているだけでも結構楽しめる気がする。ポテトチップス片手にブログを斜め読みしながら、ふとそう思った。