石野純也の「スマホとお金」

「IIJmio」が既存ユーザー向け特典を発表! その内容と新設の背景を紐解く

 MVNOサービスの「IIJmio」を展開するIIJは、契約者向けの優待プログラム「IIJmioご愛顧感謝特典」を発表しました。

 これは、端末割引、家族割引、長期利用特典の3つで構成されるサービス。端末割引は発表直後から開始されたほか、家族割引は秋、長期利用特典は冬にそれぞれ導入される予定です。

 元々「IIJmio」では、「長得」と呼ばれるユーザー向けの特典があり、契約期間が2年以上の場合、データ容量1GBのクーポンを年3枚もらえるなどの特典を受けられました。一方で、2019年の電気通信事業法改正を受け、新規の申し込みは終了していました。

 ここでは、復活する「IIJmio」の契約者向け特典の中身と、その背景を解説します。

「IIJmio」は、既存契約者向けの「IIJmio」ご愛顧感謝特典を開始した。端末割引以外は、秋から冬にかけて導入される予定だ

端末割引は過去モデルを購入したユーザーが対象

 「IIJmio」ご愛顧感謝特典は、大きく3つのサービスからなります。

 1つ目が、端末の買い替えに使える「mio優待券」です。こちらは、「IIJmio」が販売する端末の一部に対して割引を適用するというもの。第一弾として、シャオミの「Redmi Note 13 Pro+」とOPPOの「OPPO Reno11 A」、モトローラの「moto g64 5G」が対象になっています。

6月21日に開始されたスマホ割引のmio優待券

 OPPOのReno11 Aとモトローラのmoto g64 5Gは、それぞれ6月27日と6月28日に発売される製品。シャオミのRedmi Note 13 Pro+も、5月に発売になったばかりの端末です。古くなった製品の在庫処分的な位置づけではなく、新製品を買いやすくするための特典というわけです。

現在対象となっているのは3機種。発売直後のモデルが並ぶ

 ただし、いくら割引されるのかは、ユーザーや端末によって異なるといいます。

 IIJによると、金額は数千円単位とのこと。具体的な金額が開示されていないため、どの程度のインパクトがあるのかが見えづらいのが難点ですが、元々がリーズナブルな端末のため、割引率はそれなりに高くなりそうです。

  mio優待券の対象になるのは、「IIJmio」で同一メーカーの端末を過去に購入したユーザー 。つまり、シャオミかOPPO、モトローラの端末を「IIJmio」経由で購入していた人が対象になるといいます。2台目の端末として購入したり、機種変更したりといったことを想定しているとのことです。

対象者には、マイページにクーポンが付与される。筆者は回線のみで利用しており、端末の購入履歴がなかったため、クーポンは届いていなかった

 端末の割引は新規契約やMNPで回線を移す人に限定されることが一般的。「IIJmio」でも、回線契約との同時購入には割引をつけています。

 上記の端末だと、例えばシャオミのRedmi Note 13 Pro+は、通常価格が5万8800円なのに対し、MNPで申し込んだ場合は3万9800円まで価格が下がります。1万9000円もの差があるのは、回線の利用料でペイするため。そのきっかけとして端末割引を提供しているのは、大手キャリアと同じです。

 一方で、いわゆる機種変更には割引がありませんでした。

 ユーザーによっては、端末を買い替えるタイミングで回線まで乗り換えてしまうため、「IIJmio」にとっては引き留めのための施策が必要だったと言えるでしょう。 mio優待券は、こうした端末由来の解約を抑止するためのサービス と言えます。

大手キャリアと同様、MNPで契約すると割引を受けることができる。逆に、既存のユーザーには割引が手薄だった

家族割引や長期契約優遇の仕組みも導入へ

 2つ目の家族割引は、複数回線の契約で料金をそれぞれの回線から100円ずつ割り引くというもの。

 家族割引という名称ではありますが、 1人で2回線以上契約した場合も、この割引の対象 になります。スマホとタブレットの両方に「IIJmio」の回線を入れていたり、デュアルSIMでドコモ回線とau回線を使い分けていたりする人も料金割引が適用になります。

キャンペーンとして導入していた家族割引を、正式なサービスに昇格させる。割引額は1回線ごとに100円

 家族割引は、これまでキャンペーンとして展開していたサービスを定常化したもの。対象となるのはギガプランです。割引額は定額で100円のため、データ容量が少ないプランほど、割引率が高くなる格好。例えばギガプランの2GBは850円ですが、家族割引適用後はこれが750円まで下がります。割引額はわずかではありますが、複数回線契約を促進できることに加え、家族で契約したユーザーが流出するのを防ぐ効果はありそうです。

家族割引という名称だが、実態は複数回線割引のため、1人で利用することも可能だ

 もう1つの特典が、複数年「IIJmio」を継続契約しているユーザーに向けた長期利用特典です。

 こちらは、冬に提供が開始される予定で、契約から13カ月目以降のユーザーが対象。

 契約期間が2年(13カ月から24カ月)だと年3回、3年(25カ月から36カ月)だと年4回、4年以上(37カ月以上)だと年5回ぶんの1GBが付与されます。また、SIM交換・再発行手数料の2200円も2年以上で年1回まで無料になります。

契約年数に応じて、データ量の追加や手数料の無料化といった特典を受けられる

 年3GB、4GB、5GBの追加は大容量プランのユーザーにはやや物足りないかもしれませんが、ギガプランで2GBなり5GBなりの低容量プランを契約している人にとっては、比較的大きなデータ容量と言えます。「IIJmio」の追加データ量クーポンは1GBあたり220円で、一般的なMMOよりはかなり安価に設定されてはいるものの、長期契約しているだけでこうした特典がもらえるのはうれしいユーザーも多いでしょう。

 また、2年目は1100円、3年目は1650円、4年目以降は3300円の初期費用割引も受けられるため、「IIJmio」で回線を増やしたいユーザーにも恩恵があります。

 こちらの特典は、ギガプランの音声SIM、音声eSIMが対象。データSIMは特典を受けられない点には、注意が必要です。その点では、メイン回線として音声SIMを契約しているユーザーを優遇する中身になっていると言えます。

指定対象事業者からの除外がきっかけ、より自由度の高いサービスを作れる環境が整う

 「IIJmio」が長期利用者優遇の特典を打ち出せた 背景には、電気通信事業の施行規則が改正されたこと があります。2023年12月27日に改正されたガイドラインにより、端末割引の上限が4万4000円に拡大したのは比較的有名な話。それと同時に、「指定対象事業者」の見直しも行われています。

 元々は、シェアでいうと0.7%、約100万契約を超える事業者が対象に入っていたため、MVNOもIIJとオプテージの大手2社は、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルと同じ規制がかけられていました。端末割引は2万2000円まで、長期利用者の優遇も基本的に禁止というルールが、MVNOの一部にも課されていたわけです。

現行のルールでも、継続利用の割引は利用額の1カ月までに制限されている

 長期利用者の優遇に関しては、料金の1カ月分までは認められていたものの、2GBプランを契約しているユーザーだと、年間3GBのデータ量追加だけでギリギリのライン。特典として、かなりショボくなってしまうことは否めませんでした。とは言え、規模で言えばMVNOは最大手でも数百万契約の単位。数千万を超える大手3キャリアと同じ規制が課されるのは厳しすぎる印象もありました。

 こうした声を受け、2023年12月の電気通信事業法施行規則の改正では、指定対象事業者の見直しが行われました。ここに含まれる事業者の基準を引き上げ、シェア4%、約500万契約以上に定められました。

 これにより、大手キャリア傘下のMVNOを除いた独立系MVNOが、すべて規制の対象から外れています。現行のルールでは、「IIJmio」や「mineo」が端末をいくら割り引いてもOK。長期契約者の優遇も、自由にできるようになっています。

指定対象事業者の認定基準に見直しがかかり、「IIJmio」やmineoは規制の対象から外れた格好だ。500万契約という閾値は、当時の楽天モバイルを参考している

 実際、「mineo」も2月に長期利用者向けの特典である「ファン∞とく」制度をリニューアル。

 mineo回線の契約年数と紐づける形でコインを付与し、端末代の値引きや事務手数料、オプションサービスなどを無料にするクーポンと交換できるサービスを導入しています。元々の料金が安いため、高額な端末を無料にするといった大盤振る舞いはしていませんが、長く契約しているユーザーを優遇する方向に舵を切りました。

mineoは、2月にファン∞とくをアップデート。契約年数に応じてコインを付与し、それをクーポンに交換する仕組みを導入している

 「IIJmio」のご愛顧感謝特典も、これに近い仕組みと言えます。大手キャリアより規制が緩くなった結果として、自由度の高いサービスを生み出せるようになったというわけです。

 このようなサービスは、同じことができない大手キャリアとの差別化にもなります。長く契約してくれるユーザーには、一定の特典をつけるのはMVNOの新たなトレンドになりそうです。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya