石野純也の「スマホとお金」

「ドコモのNTTレゾナント吸収」でどうなる? 競合比較で考える「OCN モバイル ONE」料金プランの今とこれから

 NTTドコモは、完全子会社のNTTレゾナントを7月に吸収合併すると発表しました。これによって、コンシューマー事業の機動力を上げていく狙いがあります。NTTレゾナントは、元々、gooをはじめとしたポータルサイトの運営やネット通販を手がけていた企業として有名で、検索ソリューションなどの技術にも優れています。

 NTTグループ再編に伴い、すでにNTTレゾナントはドコモの傘下に入っていました。そのタイミングで、同様にドコモの子会社になったNTTコミュニケーションズから「OCN モバイル ONE」など、コンシューマー向けのOCNサービスが移管され、サービスの提供元になっています。そのNTTレゾナントを吸収合併するドコモは、自身でOCN モバイル ONEの運営をしていくことになります。

ドコモは、7月に子会社のNTTレゾナントを吸収合併することを発表した

 NTTコミュニケーションズからNTTレゾナントに移り、ドコモに集約されるOCN モバイル ONEですが、ドコモによると、現時点では、MVNOとしてそのままの形でサービスを継続するといいます。

 とは言え、運営元が変わる以上、よりドコモの料金プランとは住み分けが図られていくことになるでしょう。いわば、サブブランド化への布石とも考えられます。そこで、今回は、OCN モバイル ONEの料金をあらためてひも解くとともに、サブブランドとしての実力を他社と比較してみました。

21年の料金改定で低容量に特化、エコノミーMVNO対応で500MBコースも

 OCN モバイル ONEの料金プランは、NTTコミュニケーションズ時代だった21年4月にリニューアルされ、大幅に値下げされました。

 それと同時に、旧料金プランにあった「20GB/月コース」や「30GB/月コース」といった中容量帯のコースは、新規申し込みを終了しています。MVNOの主戦場である小容量のラインナップを強化しつつ、中容量帯以上の料金プランに関しては親会社であるドコモとの差別化を図った格好です。

 当初は「1GB/月コース」「3GB/月コース」「6GB/月コース」「10GB/月コース」の4本立ての料金プランになっていたOCN モバイル ONEですが、その後、21年10月にドコモの「エコノミーMVNO」に参画するのに伴い、新たなコースを追加しています。それが、「500MB/月コース」です。このコースには500MBのデータ容量だけでなく、毎月10分までの無料通話が含まれているのが特徴。フィーチャーフォンから移行するユーザーの受け皿になっていたと言えるでしょう。

OCN モバイル ONEの料金プランは、現在、5つのコースが用意されている。500MBから10GBまでで、どちらかと言えば小容量帯が厚い

 5つのコースは現在も提供中。料金は500MBが550円、1GBが770円、3GBが990円、6GBが1320円、10GBが1760円です。また、 1GB以上のコースに関しては「OCN光モバイル割」も提供されており、各コースから220円の割引を受けられます 。音声対応以外にも、データ通信専用SIMカードやSMS対応SIMカードが用意されているのもMVNO的。データ通信専用SIMカードは、3GBが858円と、音声よりも少しだけ値段が安くなっています。

データ通信専用のSIMカードは、音声通話対応のものより料金がやや安い

 ドコモがMVNOに提供する、「オートプレフィックス」機能をいち早く採用したのもOCN モバイル ONEでした。オートプレフィックスとは、交換機側で自動的にプレフィックスの番号を付与し、中継電話事業者を経由することで通話料を抑えるスキームのこと。NTTコミュニケーションズが中継電話事業をしているため、それを利用しています。上記の500MBコースに10分の無料通話をつけられたのも、こうした仕組みを利用したからです。通話料は、30秒11円です。

通話料は、30秒11円。オートプレフィックスを使って、この金額を実現している

 ドコモ本体で低容量のユーザーをターゲットにしているのは、段階制プランの「ギガライト」ですが、OCN モバイル ONEはそれと比べても、安価な料金でスマホなどの通信を利用することが可能。料金プラン自体は残っていますが、中・大容量ならドコモの「ギガホ」か「ahamo」、低容量ならOCN モバイル ONEといった形で緩やかに住み分けが図られています。

他社サブブランドとは異なる料金体系、ドコモにとっては収益性が課題か

 MVNOとして展開しているOCN モバイル ONEですが、競合の状況を見渡すと、 徐々に差が出てきている のも事実です。

 例えば、OCN モバイル ONEとトップシェア争いをしているIIJmioは、4月に「ギガプラン」の一部を改定。料金据え置きで、4GBプランを5GBプランに、8GBプランを10GBプランに増量しました。5GBプランは990円でOCN モバイル ONEの3GBコースと同価格、10GBプランは1500円でOCNの10GBコースよりも安く提供できています。

IIJmioは、4月にデータ容量を増量。OCN モバイル ONEのプランとは開きが出てきた

 もちろん、すべてのMVNOがIIJmio並みの料金を展開できているわけではありませんが、OCN モバイル ONEはエコノミーMVNOとしてドコモショップで販売されていることを踏まえると、やはり、その位置づけは準サブブランドと言ってもよさそうです。KDDIのUQ mobileや、ソフトバンクのワイモバイルに直接対抗するブランドがドコモにないことも、その証左です。

 一方、自身で設備を持つMNOのサブブランドとして見ると、低容量プランを攻めすぎている印象もあります。500MBコースや1GBコースなどはUQ mobileやワイモバイルにない低容量のコース。また、3GBコースも他社のサブブランドと比べると料金が安く設定されています。ユーザーとして安いのはうれしい一方で、収益を上げづらいのはNTTレゾナントを吸収合併するドコモにとっての課題と言えるかもしれません。

 実際、UQ mobileは6月1日からの新料金プランで、「くりこしプラン +5G」の3GBプランを4GBに増量し、「ミニミニプラン」に名称や機能を刷新します。ミニミニプランは、割引前の価格が値上げになっており、料金は2365円。ここに、auひかりやauでんきをセットで契約すると1100円の「自宅セット割」が適用されます。支払いをau PAYカードにすると187円の割引になり、トータルでの料金は1078円まで下がります。

UQ mobileの新料金プラン。4GBのミニミニプランは料金が2365円で、OCN モバイル ONEの3GBコースより一段高い、セット割で1078円まで下がる

  割引前ならOCN モバイル ONEより高く、割引をつけてほぼ同額まで下がる一方で、KDDIは固定回線や電気サービスでの収益を得られる格好 。小容量プランはくりこしプラン +5Gのときより、割引の比重が上がり、条件面も複雑になってしまったUQ mobileの新料金プランですが、MNO本体で提供している以上、MVNO並みに無条件で安くするのは難しいのかもしれません。

 同様に、 ワイモバイルももっともデータ容量の少ない「シンプルS」は、3GBで2178円 。家族で2回線以上契約すると1188円の割引を受けられる「家族割引サービス」もあり、これを適用すると、2回線目以降の料金は990円まで下がります。その1つ上の「シンプルM」は、15GBで3278円。2回線目以降は家族割引サービスで2090円に下がります。こちらも、OCN モバイル ONEと比べると、料金はやや高めですが、中容量帯までしっかりカバーできています。

ワイモバイルのシンプルは、3GBで2178円。2回線目からは、家族割引サービスで990円まで下がる。また、サブブランドはどちらも中容量帯が充実している。こうした点も、OCN モバイル ONEとの違いと言えるだろう

対サブブランドでMVNOならではの弱点も、ドコモのテコ入れにも期待

 MVNOとして運営しているため、料金以外の課題もあります。特に、サブブランドと比べたときの弱みになるのが、回線の品質です。MVNOはMNOから回線を借りているため、その(相互接続点)がボトルネックになり、お昼休みなどの混雑時にはどうしても大元のMNOより速度が低下してしまいます。ドコモの子会社ということもあり、OCN モバイル ONEはMVNOの中でもトップクラスに安定していますが、それでもドコモとまったく同じというわけにはいきません。

OCN モバイル ONEのサイトに記載されているMVNOのしくみ。帯域をMbps単位で借りているがゆえに、ユーザーのトラフィックが集中すると速度が低下しやすいのが難点だ

 こうした点は、ドコモが直接運営するようになれば解消できる可能性もあります。システム上はMVNOという形態を取ってはいるものの、回線の提供元が当のドコモだからです。いったん子会社のNTTコミュニケーションズ回線を貸したあと、ドコモが再度借りる形になるため、POI自体は存在しますが、もともとは自らの回線。帯域が“借り放題”になれば、 実質的にMNOとほぼ変わらない形 になります。

 ただ、それでもMVNOの仕組みをそのまま引き継ぐと、細かな点でユーザーの不便が残る可能性はあります。

 例えば、ブランド変更はその1つ。現状だと、auとUQ mobileやソフトバンクとワイモバイルなどの場合、料金プラン変更と同様、事務手数料はかかりませんが、ドコモとOCN モバイル ONEは別会社であるがゆえに、料金が発生しています。

ドコモからのMNPでも、事務手数料がかかる

 事務手数料だけなら一時的な支払いで済みますが、ほかにもOCN モバイル ONEでは国際ローミングのデータ通信ができなかったり、iPhoneの利用にAPN構成プロファイルが必要で、若干ですがハードルが高かったりと、MVNOならではの細かな差が存在します。ドコモのサブブランドとして見ると、やはりどこか物足りないことは確かです。その意味で、 OCN モバイル ONEはMVNOとサブブランドの中間的な立ち位置のブランド と言えるかもしれません。

国際ローミングは音声通話とSMSのみ。こうした点は、MNOではないデメリットだ

 とは言え、ドコモがMVNOとしての運営を永遠に継続していくかどうかは未知数です。そもそも、回線の提供元であるドコモが自らの回線を借りてサービスをするのは語義矛盾。契約者数もMVNOとしてシェア2位のOCN モバイル ONEですが、サブブランドとして見ればまだまだ小規模です。現状維持でよければ吸収合併までする必要性はないため、将来的に、料金プラン変更なり、システム統合なりのテコ入れをしても不思議ではありません。

 5月に開催されたNTTの決算説明会で、 ドコモの代表取締役社長の井伊基之氏が語っていた「エコノミー“プラン”を強化する」というコメントが、そのヒントになりそう です。

石野 純也

慶應義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で執筆、コメントなどを行なう。 ケータイ業界が主な取材テーマ。 Twitter:@june_ya