法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
雑誌の読み放題「dマガジン」人気の秘密を聞く
キャリアフリー・月額400円で100万契約を突破
(2015/2/6 16:13)
NTTドコモをはじめ、各社がスマートフォン向けにさまざまなコンテンツサービスを提供しているが、サービス開始から約半年という短期間で100万契約を突破し、注目を集めているのがNTTドコモの「dマガジン」だ。月額400円という手頃な料金で、100誌を超える雑誌の読み放題を実現している。について、担当者の話をまじえながら、チェックしてみよう。
新しい雑誌の読み方を実現した「dマガジン」
読者のみなさんは普段、どの程度、雑誌を読んでいるだろうか。書店やコンビニエンスストアに出向くと、毎月、毎週のように雑誌の最新号が並び、年に何度かは新たに創刊された雑誌を見かけることもある。ただ、その一方で出版業界は長く不況だと言われ続けており、古くから親しんできた雑誌が休刊してしまうなど、残念なニュースを耳にすることも増えてきている。
そんな中、月額400円という手頃な料金で、100誌を超える雑誌の読み放題を実現したNTTドコモの「dマガジン」が注目を集めている。元々、数百円の雑誌が月に何冊でも好きなだけ読めるサービスで、NTTドコモが提供しているものの、NTTドコモ以外の携帯電話会社と契約するユーザーも申し込むことができ、スマートフォンやタブレットで読むことができる「マルチデバイス・キャリアフリー」のサービスとなっている。
dマガジンは2014年6月20日に正式にサービスがスタートしたが、NTTドコモの2014年夏モデルといっしょに発表されたこともあり、当初はそれほど大きな話題になったという印象がなかった。しかし、サービス開始から約半年で100万契約を突破するなど、同社のサービスの中でも異例とも言える伸びを示している。ちなみに、「dマーケット」のサービスでは「dビデオ」が約3年で437万契約と最も契約数が多く、次いで、約2年半で「dヒッツ」が254万契約、「dアニメストア」が152万契約となっている。これらと比較すると、dマガジンの約半年で128万契約という数がいかに早く伸びてきたのかがよくわかる。
こうしたdマガジンの状況について、サービス開始当初からのことも含め、NTTドコモのスマートライフビジネス本部マーケットビジネス推進部のデジタルコンテンツサービス担当部長の那須寛氏話を聞いてみた。
dマガジンが読み放題を実現できた理由
――dマガジンのこれまでの流れについて、教えてください。
那須氏
サービスを正式に開始したのは昨年の6月20日です。本格的にサービスの企画がスタートしたのはその半年以上前、2013年10月過ぎくらいだったと思います。当初は昨年5月の終わりくらいにスタートしたかったのですが、システム開発がスケジュール通りに進まなかったり、何とかサービス開始時に主要な雑誌を取り揃えたいという思いもあり、サービス開始が1カ月ほど、ずれ込みました。
――なぜ、このタイミングで読み放題という形のサービスをスタートできたのでしょうか?
那須氏
主に3つほど、要因があります。まず、これまで出版社が雑誌を発行されている中で、各雑誌の編集の方と話をしましたが進展せず、『読み放題』という形には踏み切れなかったのですが、業界の認知や環境が変わり始めてきたことが挙げられます。2つめとしては、デバイスが進化してきたことも大きいですね。タブレットもそうですけど、スマートフォンの画面が大きくなり、解像度も高くなったことで、雑誌を表示しても十分に楽しめるレベルになってきました。また、他社が提供する同様のサービスを見てみると、すでに雑誌を読んでいる人をターゲットにしていて、うまく行ってないのかなという印象を持っていたのですが、インターネットで多様なコンテンツに日常的に触れている現在のお客さんに対しては、雑誌においても思いがけない出会いを演出してあげることで、ビジネスモデルのブレイクスルーとできるのではないかと考えました。
――雑誌のラインアップとしてはどのように取り揃えていったのでしょうか?
那須氏
最初は約70誌というところからスタートしました。基本的なコンセプトとしては、主要な雑誌、みなさんがよくご存知の雑誌を揃えようとしました。そのため、男性誌、女性誌、情報誌、グルメ情報やレシピなど、一般的なコンビニエンスストアなどで認知度の高いような雑誌を集め、現在はスタート時の約70誌から120~130誌まで増やすことができました。また、こうした雑誌というコンテンツを提供していただけるようになった背景には、全般的に雑誌の販売が芳しくないというのもあるかもしれませんが、コンテンツ配信に理解のある出版社や編集部が増えてきたことも挙げられます。
――ラインアップ以外に注力されたのはどのような点でしょうか?
那須氏
スマートフォンやタブレットで楽しむサービスなので、アプリについては電車の中などのちょっとした空き時間に片手で楽しめるようなユーザーインターフェイスを目指しました。たとえば、スマートフォンで雑誌を読むとき、拡大・縮小は両手を使うピンチイン・ピンチアウトではなく、ダブルタップで操作できますし、右利きの人でも左利きの人でも片手操作ができるように、画面の左右の端を長押ししたときに表示されるスライドバーでも拡大・縮小ができるように工夫しています。また、ダブルタップで拡大すると、雑誌とほぼ同じ原寸大の表示ができますし、表示される文字もカクカクすることなく、読みやすくなっています。このあたりは競合他社のサービスと一線を画していきたいところですね。
――使い勝手の面ではクリッピング機能もなかなか便利ですね。
那須氏
これはdマガジンに限ったことではありませんが、1日のすき間時間を利用して、手軽に読めることを目指しているので、読みたい記事を最大100件まで、クリッピングできるようにしました。たとえば、今週末、美容院に行きたいという人がヘアカタログを見て、気になる髪型をクリッピングするような使い方が考えられます。ちょうどiモードケータイの画面メモのような感覚ですね。すべてのコンテンツがクリッピングできるわけではなく、権利的に処理ができるもののみをクリップできるようにしています。モデルさんと出版社の契約で対応できないケースや芸能ネタなどで、一部、クリップできない記事があります。
――どういった人たちがdマガジンを楽しんでいるのでしょうか?
那須氏
幅広い年代の方にいろいろな雑誌を読んでいただいていますが、もっとも多いのは30~40代で、男女比は6対4で男性の方が多くなっています。やはり、こういったコンテンツにお金を払うことに理解があり、払える世代が中心ということですね。ドコモのさまざまなコンテンツサービスをご利用いただく層の中心とも一致します。若い世代の方はお金を払うことに慎重ですし、今のままでは拡がっていかないので、先月からテレビCMも展開しました。上の世代の方はタブレットの人気に加え、NTTドコモ以外のユーザーが利用できるキャリアフリーというのも好印象に結び付いて、少しずつ増えてきた印象です。
――雑誌が読めるサービスとしては「マガストア」や「ビューン」などが競合ですが、他社サービスと比較して、dマガジンが支持された要因はどこにあるのでしょうか。
那須氏
そうですねぇ……。いろいろな要素があると思います。たとえば、これまでのサービスを見てみると、お客さんがその雑誌を知っていることを前提に書棚が構成されているんですね。でも、読んだことがない雑誌って、何が書いてあるのかがわからないので、やはり、お客さんはなかなか手に取らないと思うんですよ。
たとえば、ダイエットに興味があったとすれば、我々男性であれば、「POP-EYE」や「BRUTUS」などのダイエット特集は読むと思うんですが、「an・an」や「女性自身」のダイエットの記事はなかなか目にしないわけです。これに対し、dマガジンでは各雑誌を選んで読むだけでなく、「記事から選ぶ」で「ダイエット」を検索すれば、いろいろな雑誌に掲載されているダイエットの記事が表示されるので、今までに出会うことがなかったような新しいコンテンツが楽しめます。
また、他社サービスについては、なかなか比較が難しいのですが、電子書籍サービスとの混在で雑誌に力が入っていなかったり、コンテンツがあまり集まっていないという状況が見えていて、契約数も10万くらいに留まっているようでした。特に、コンテンツの集まり具合は、出版社側の業界内の評価にも大きく影響するので、出版社へのリターンの部分も含め、いろいろと分析をしていました。
それらの点も踏まえ、我々としてはまず最初に小学館、集英社、講談社という大手3社と重点的に交渉しようと考えました。これに加え、女性誌の「STORY」などを発行する光文社、「DRESS」を発行するGIFT、週刊誌も必要なので、新潮社や文芸春秋といった出版社にもお願いしました。その他にも「週刊朝日」や「アエラ」(朝日新聞出版)にもお声掛けしました。こうしたネームバリューがあって、ある程度、みなさんがご存知のタイトルを揃えることで、読者のみなさんが楽しめることはもちろんですが、同じ出版社内の他の雑誌が参入しやすい環境を作り、各出版社と各雑誌を口説きました。
――これだけの出版社や雑誌を口説くことができたのはなぜでしょうか?
那須氏
各誌の編集長や責任者の方とお会いして、我々のビジネスをご理解いただくことにも取り組みましたが、iモード時代から続く、各出版社とのつながりがうまく活かせた部分もあります。iモード時代にお世話になった当時の担当の方々が年月が経ち、重要なポジションに就かれているので、話をしやすい環境になっていました。とは言うものの、出版社によっては自社サイトを持っていて、1号あたり数百円で雑誌を販売されているケースもあり、月額400円で読み放題になると、整合性が取れなくなってしまいます。そういった場合は、若干、記事の量を減らしたり、dマガジンを読者を増やすためのプロモーション的に活用してもらおうとしています。dマガジンで雑誌に興味を持ってもらい、リアルの雑誌の購入に結び付けばいいという考えですね。
NTTドコモが取り組む難しさと課題
――dマガジンを読んでみると、リアルな雑誌と内容に違いがある媒体もありますね。
那須氏
そうですね。これは出版社によって、考え方がさまざまです。たとえば、女性誌の「婦人画報」は現在、ハースト婦人画報社という外資系の出版社が発行されていて、自社サイトで販売するだけでなく、リアルの雑誌と同じ内容がそのままデジタル化され、dマガジンをはじめ、各デジタルコンテンツサービスに展開されています。これは日本の出版社ではあまり多くない考え方ですね。
逆に、リアルの雑誌の売り上げの補完になればいいという考え方の出版社もいらっしゃいますが、デジタル化されているからと言って、出版社が紙媒体を辞めようとしているのではなく、各社とも紙媒体をベースに編集することを大切にされているという印象を持っています。
ただ、なかにはユニークなケースもあって、1980~90年代に一世を風靡した講談社の「ホットドッグ・プレス」という雑誌がありますが、2004年には休刊になったものがdマガジンのサービスが始まる昨年のタイミングでデジタル版として復刊しています。復刊したホットドッグ・プレスは紙媒体ではなく、最初からスマートフォンやタブレットで読めるデジタルコンテンツとして作られていて、非常に見やすくなっています。当時、20代の頃に雑誌を読んでいて、現在は40代を迎えた人たち向けの雑誌として、注目を集めています。
――そう言えば、グラビアなどは制限されているコンテンツもありますが、どういう基準で運用しているのでしょうか?
那須氏
個人的には世の中に出版物として発行されているものなら、『問題なし』としたいのですが、iモード時代からの流れを受け継ぎ、レイティングは少し厳しめにしています。具体的には水着までがOKで、ヌードや下着姿は掲載していません。コンビニエンスストアの一般誌コーナーに置かれている雑誌は見られるようにできればと考えています。他社サービスでは見られるものもあるので、少しもどかしいですが、現在は少し大人しくしています。
レイティングについてはいろいろと難しい部分がありますね。たとえば、写真週刊誌などは震災当時の様子や戦場など、ショッキングな写真が載ることもありますが、編集部としては「写真で伝える」と考えていても電子版は拡大ができるので、誌面以上に鮮明に見えてしまう可能性もあります。
また、雑誌によってはサービスを提供するプラットフォーム側(Google PlayやAppStore)の審査で議論になることがあります。たとえば、週刊プレイボーイなどの男性誌は表紙に水着のタレントさんなどを使いますが、いろいろとご意見いただくケースもあり、現在は部分的にマスクするという対応をしています。そのため、出版社側から「表紙に手を入れるのは……」とご意見をいただくこともありますが、見えていないがゆえに「もしかしたら、この号は逆に紙媒体の売り上げが増えちゃうんじゃないの(笑)?」と、冗談を言いながらも今まで築き上げた信頼関係の元、ご協力をいただいています。
――出版社へのリターンはどういう形で行なわれているのでしょうか? 出版社側は満足されている状況なのでしょうか?
那須氏
基本的にはユニークな一人のユーザーの方がどれだけのページを読んだのかをカウントして、その値をベースに支払い額が決まる形になっています。ただ、月刊誌と週刊誌ではページ数も読まれ方も違うので、あまり大きな偏りが出ないように調整しています。雑誌の数が増えすぎてしまうと、結局、パイの取り合いになってしまうので、バランスを取っていく感じですね。まあ、dマガジンの契約数が2000万とか、3000万になってくれば、話は違うんでしょうけど(笑)。
――どういう雑誌がどれくらい読まれるだろうという予想はあったのでしょうか?
那須氏
全体的には週刊誌が読まれるだろうと予測していました。最初はITリテラシーの高い方がこういうサービスをお使いになるので、週刊アスキーなどのIT系雑誌は読まれていましたね。当たり前と言えば、当たり前ですが、女性は女性誌を読まれますし、FRIDAYやFLASHなどは男性に好まれています。最近だと、ライトニングのように、男性の「モノ」が好きな方が読まれる雑誌、メンズクラブのような男性ファッション誌なども読まれていますね。
――「dマガジンに提供したら、予想以上に売れた」というような雑誌はありますか?
那須氏
各年代や性別の方が雑誌に何を求めているのかというと、女性はファッションやトレンド、男性はFRIDAY、FLASH、SPA!などの週刊誌、DIMEやBeginなどに代表される情報誌がメインですね。ときどき、ファッション系でメンズノンノが若い世代に入ってきたり、Leonが入ってくることもあります。女性は30代を超えると、主婦の方が増えるのか、オレンジページの購読がグッと増えますね。全体的に見ると、一般の紙媒体で売れているものと、売れ筋はあまり変わらない印象です。
――今後、どういう方向で拡大していくプランでしょうか?
那須氏
中心層は揃ってきたので、次はその周辺層の人気コンテンツに手を伸ばしていきたいですね。先ほど、小学館、集英社、講談社を中心に力を入れたというお話をしましたが、実は3社それぞれに対応が違ったんです。たとえば、小学館はiモード時代からのお付き合いもあり、比較的スムーズにお取引ができたのですが、集英社はいったん様子見、講談社も女性誌などはなかなか出していただけない状況でした。それが順調にサービスが展開されたことで、徐々に緩和されつつ、女性誌もタイトルが集まりはじめた印象です。
あとはゴルフや園芸といった趣味的な雑誌、それからKADOKAWAのWalkerシリーズのように、各地域に特化した情報誌も充実させたいところです。いろんな方がdマガジンを見て、2~3誌は興味を持ってもらえる雑誌を揃えるようにしていきたいですね。
――今日はありがとうございました。
スマートフォンやタブレットだから楽しめる雑誌の読み放題
ここ数年、フィーチャーフォンからスマートフォンに移行する中、各社がスマートフォン向けにさまざまなコンテンツサービスを提供してきたが、dマガジンの半年で100万契約を突破するという伸びは、各携帯電話会社のコンテンツサービスとしては少し異例とも言えるものだろう。
その最大の原動力は、やはり、何と言っても月400円で100誌を超える雑誌が読み放題であることが挙げられる。元々、雑誌そのものが数百円だということを考慮すると、月に1~2冊も読めば、十分に元が取れてしまう計算だ。利用環境についてもdocomo IDを取得すれば、契約する携帯電話会社に関係なく、最大5端末まで利用できるのも見逃せないポイントだ。プラットフォームはAndroid 4.0~5.0、iOS 6.1~8となっており、デバイスはスマートフォンでもタブレットでも利用できる。たとえば、iOSはiPad miniでも利用でき、タブレットはWi-Fiのみに対応したモデル、MVNOの格安SIMカードを挿した端末でも利用することが可能だ。
インターネットが普及し、さまざまな情報が検索できるようになった今日。スマートフォンやタブレット、パソコンがあれば、いつでもどこでも自由に情報が得られるようになり、本当に便利になったという印象を誰もが持っているはずだ。こうした状況下において、雑誌や書籍の売れ行きは芳しくない状況が続き、出版業界の行く末を危ぶむ声もよく耳にする。20年以上、紙媒体としての雑誌の編集や記事執筆に携わり、本誌のようなWeb媒体にもいち早く取り組んできた筆者自身としては、昨今の出版業界の状況に少し心苦しく感じていた。
当初、筆者はdマガジンもそんな流れを加速しそうなサービスだと捉えていたが、那須氏は今回のインタビューの中で、「紙の雑誌には編集者というプロの目を通して制作された完成度の高さがあり、玉石混交のインターネット上のコンテンツとは違った面白さや読み応えがある」という主旨の話をしていた。
出版社ごとに思惑は異なるものの、出版社と編集部が持つ「編集」という作業の特性を理解したうえで、dマガジンに雑誌というコンテンツを展開している点は、筆者としても非常に好感が持てた。そして、スマートフォンやタブレットというデバイスの特長を活かし、いろいろな雑誌を横断的に検索する機能を提供することで、今までに触れることがなかったような新しい雑誌や記事にも出会える環境を作り出している。これを月額400円で楽しめるのなら、さまざまな雑誌で育った世代、今も雑誌を手放せない人々、最近、雑誌から遠ざかってしまった人たちに、存分に雑誌を楽しんでもらうことができそうだ。初回31日間の無料期間を活かし、ぜひ一度、体験してみて欲しいサービスだ。