法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

カメラの進化とセキュリティの強化で生まれ変わったGalaxy S9/S9+

 サムスンは2月25日(現地時間)、Mobile World Congress(MWC) 2018が開催されるスペイン・バルセロナにおいて、製品発表イベント「Galaxy UNPACKED 2018」を開催し、同社のフラッグシップモデル「Galaxy S9」「Galaxy S9+」を発表した。

 すでに、発表イベントの内容については速報記事でお伝えし、実機の写真レポートも掲載したが、現地滞在中に実機を試すことができたので、ファーストインプレッションをお伝えしよう。

継承された基本コンセプトとデザイン

 ここ数年、春にGalaxy Sシリーズ、秋にGalaxy Noteシリーズを発表してきたサムスン。国内向けには夏モデルとしてGalaxy Sシリーズ、秋冬モデルとしてGalaxy Noteシリーズが採用されてきた。昨年は2016年のGalaxy Note7のバッテリー不具合の影響もあり、MWCに合わせての発表はなく、昨年3月末にGalaxy S8/S8+が米ニューヨークで発表されたが、今年は例年のペースに戻り、MWCの会期直前にプレスイベントが開催され、「Galaxy S9」「Galaxy S9+」が発表された。

Galaxy S9
Galaxy S9+

 ここ数年のGalaxy Sシリーズはおよそ2年程度の周期で、デザインを少しずつ変化させてきている。Galaxy S5まではボディ側面の形状をラウンドさせながらも基本的にはフラットなデザインを採用していたのに対し、2015年のGalaxy S6/S6 edgeではディスプレイの側面を湾曲させたデュアルエッジデザインを採用し、翌2016年にはほぼ同じデザインを継承したGalaxy S7/S7 edgeをリリースしている。そして、昨年3月に発表されたGalaxy S8/S8+ではネーミングも変更しつつ、縦横比18.5:9のInfinity Displayを搭載し、ハードウェアキーによるホームボタンをなくし、背面もラウンドさせることで、新しいGalaxy Sシリーズのデザインを打ち出していた。

GALAXY S5 SC-04F
Galaxy S6 edge
Galaxy S8

 今回発表されたGalaxy S9とGalaxy S9+は、基本的に昨年のGalaxy S8/S8+のデザインを継承しており、正面のデザインは一見、まったく変わりなく、実機を手にしただけではすぐにわかるほどの大きな違いはない。ただし、背面については後述するように、カメラ周りや指紋センサーのレイアウトなどに変更が加えられており、明確に違う。

 ちなみに、ボディサイズは従来機種に比べ、Galaxy S9+は縦に約1.4mm短く、幅は0.4mm広く、厚みも0.4mm増し、重量は16g重くなっている。Galaxy S9は縦に約1.2mm短く、幅は0.6mm広く、厚みが0.5mm増し、重量は8g重くなっている。Galaxy S9+の方がサイズや重量の違いが大きいのは、やはり、後述するデュアルカメラ搭載による影響だろう。ただし、実機を触っている限り、その差はほとんどなく、普段からGalaxy S8+を使っている筆者もわからないレベルの違いだったと言える。

 ボディカラーは4色が発表されている。基本的にはGalaxy S8/S8+の流れを受け継いだカラーで、背面はグロス仕上げとなっている。従来はグローバル向けで最終的に6色まで増えており、今後、Galaxy S9/S9+も異なるカラーが追加される可能性は十分に考えられる。ちなみに、ボディカラーは発売される国と地域によって、異なるため、国内市場へ投入される場合もどのカラーが採用されるのかはわからない。

 ボディの基本的なレイアウトは従来のGalaxy S8/S8+と同様で、右側面に電源キー、左側面に音量キーとBixbyキーを備える。ホームキーをはじめとするナビゲーションキーはソフトウェア表示で、[戻る]キーの位置を変更したり、表示/非表示を切り替えられるなどの仕様も従来モデルから継承している。本体上面にはSIMカードスロット、下面にはUSB Type-C外部接続端子と3.5mmイヤホンマイク端子を備える。

Galaxy S9
Galaxy S9+

 動画視聴などで本体を横向きに構えたとき、ステレオ再生ができるように、本体上部と下部の両方にスピーカーを備える。サムスンが傘下に収めたオーストリアの音響メーカー「AKG」によるチューニングも加えられたとのことで、従来に比べ、音響もかなり良くなった印象だ。IP68準拠の防水防じんにも対応する。

 背面には後述するカメラを備えており、その真下に指紋センサーを搭載する。従来モデルではカメラの隣に指紋センサーが搭載されていたため、指紋認証時に指先でカメラのレンズが汚れてしまうという問題が指摘されていた。Galaxy Note8ではカメラと指紋センサーの間にLEDフラッシュをレイアウトすることで、少し位置を離すことができたが、今回は真下にレイアウトすることで、指先を当てるとき、レンズ部に触れてしまうリスクはかなり少なくなった。同時に、指紋センサーの位置も本体中央寄りになったため、あまり手の大きくない人でも操作しやすくなったと言えそうだ。

 指紋登録時の操作も変更されており、指紋センサーに指先を数回、スワイプするだけで登録できるようにしている。指紋認証そのもののレスポンスもかなり速い。

 バッテリーはGalaxy S9が3000mAh、Galaxy S9+が3500mAhの大容量バッテリーを搭載しており、連続ビデオ再生はGalaxy S9で約16時間、Galaxy S9+で約18時間、連続通話はGalaxy S9で22時間、Galaxy S9+で25時間のロングライフを実現している。充電は急速充電に対応し、WPC/PMA準拠のワイヤレス充電も利用可能だ。

6.2インチと5.8インチのInfinity Displayを搭載

 本体前面には昨年のGalaxy S8/S8+同様、Quad HD+(2960×1440ドット)表示が可能なSuperAMOLED(有機EL)ディスプレイを搭載する。縦横比率は18.5:9となり、本体前面のほとんどを覆い尽くすことから「Infinity Display」と名付けられている。サイズはGalaxy S9が5.8インチ、Galaxy S9+が6.2インチとなっている。有機ELの視認性の良さは従来モデルから高い評価を受けているが、今回のGalaxy S9とGalaxy S9+も同様で、Webページなどのテキストコンテンツから動画まで、さまざまなコンテンツを美しく表示することができる。

 ディスプレイの上部にはフロントカメラ、RGBセンサー、赤外線センサーを内蔵する。これらのデバイスを利用し、従来のGalaxy S8/S8+に引き続き、虹彩認証にも対応するが、今回は虹彩認証と顔認証を組み合わせた「インテリジェントスキャン」に対応する。

 虹彩認証は画面を見るだけでロックが解除できるという便利さがあるが、周囲の明るさによってはうまく認証されず、結局、指紋センサーやPINなどで解除するといったことが起きるが、インテリジェントスキャンでは利用するシーンに応じて、最適な認証が選ばれるため、屋外でも室内でも暗いところでも同じようにロックを解除できる。

 筆者も実際に顔認証を登録して、周囲の明るさを変更して試してみたが、従来のGalaxy S8+に比べ、周囲の明るさなどに影響されることなく、すばやくロックが解除できるという印象を得た。ただ、iPhone XのFace IDに比べ、やや角度に対する柔軟性が厳しいようで、従来の虹彩認証ほどではないものの、「端末をまっすぐ持ってください」と表示され、すぐに認証されないケースもあった。もっとも今回のGalaxy S9とGalaxy S9+は前述のように、背面に備えられた指紋センサーが操作しやすい位置に移動したため、実際にはインテリジェントスキャンと指紋センサーを併用しながら、使うことなると予想され、あまりストレスを感じるケースはないかもしれない。

 チップセットはサムスン製Exynos 9810、もしくはQualcomm製Snapdragon 845を採用し、メモリーはGalaxy S9がRAM 4GB、ROM 64/128/256GB、Galaxy S9+がRAM 6GB、ROM 64/128/256GBがそれぞれ搭載され、microSDメモリーカードは最大400GBまで対応する。今回試用した端末はグローバル向けのモデルだったため、nanoSIMによるデュアルSIMに対応していたが、国と地域によってシングルSIMのモデルも用意されているとのことで、国内向けはシングルSIMのモデルが採用されると見られる。

 Androidプラットフォームについては出荷時からAndroid 8.0(Oreo)が搭載されている。ネットワークは受信時最大1.2GbpsのLTE Cat.18に対応し、4×4 MIMOアンテナを搭載する。Wi-FiはIEEE 802.11a/b/g/n/acに対応し、MultiUser-MIMOによる接続にも対応する。

 ユーザーインターフェイスについては従来のGalaxy S8/S8+までのものを継承しており、基本的に同じ操作感で使うことができる。目新しいところとしては、縦横比18.5:9の画面を活かし、複数のアプリを同時に起動できる「アプリペア」という機能が従来モデルで搭載されていたが、従来はアプリペアのアイコンが右側面側から内側にスワイプしたときに表示されるエッジメニューにしか登録できなかった。今回はホーム画面も登録できるように変更されている。登録方法が今ひとつわかりにくいが、エッジメニュー内に登録しておき、これを起動したときに中央に表示されるボタンをタップすると、ホーム画面に登録できるようだ。

エッジメニュー
アプリペアで2つのアプリを同時起動すると画面中央にメニュー。この一番左のボタンを押すと
ホーム画面にアプリペアのアイコンが設置できる

最大960fpsのスーパースロー撮影が可能

 今回発表されたGalaxy S9とGalaxy S9+が従来モデルと比較して、もっとも大きく進化したところと言えば、カメラだろう。Galaxyシリーズは他のスマートフォンと同じように、カメラ機能には早くから注力してきたが、ここ1~2年、個人的には暗いところでの撮影には他メーカーの製品を一歩リードしているという印象を持っている。

 その一方で、スマートフォンのカメラには「デュアルカメラ」「セルフィーに強いインカメラ」という新しいトレンドが生まれており、Galaxyシリーズも昨年のGalaxy Note8でデュアルカメラを初搭載するなど、しっかりとキャッチアップしてきている。

 今回のGalaxy S9/S9+ではGalaxy S9+にデュアルカメラ、Galaxy S9にシングルカメラが搭載されているが、いずれも新たに開発されたカメラモジュールで、非常にユニークな機構も備えている。

 まず、Galaxy S9+のデュアルカメラだが、背面上部中央に上下に並ぶ形でカメラが備えられている。このデュアルカメラの上側が超高速12メガピクセルのデュアルピクセルセンサーを採用した広角カメラ、下側が12メガピクセルの望遠カメラという構成になる。

 この上側の広角カメラは非常にユニークな構造で、メカニカルな切替式の絞りが組み込まれており、F1.5とF2.4を切り替えるようになっている。切り替えは基本的に自動で、明るいところではF2.4、暗いところではF1.5に切り替わる。撮影モードを「プロ」にすると、手動で絞りを変更することもできる。下側の望遠カメラはF2.4固定で、センサーサイズが広角カメラよりもわずかに小さいが、約2倍の光学ズームが可能で、デジタルズームを組み合わせれば、10倍のズームも可能。光学手ぶれ補正は両方に搭載されており、手ぶれを抑えた撮影が可能だ。

S9+で撮影した写真

 一方、Galaxy S9のシングルカメラは、Galaxy S9+の広角カメラと同じものを搭載しており、基本仕様はまったく同じとなっている。一般的に、デュアルカメラは背景をぼかしたポートレート撮影などに有利とされているが、Galaxy S9に搭載されたカメラはGalaxy S9+の広角カメラ同様、絞りをF1.5とF2.4で切り替えることができるため、「選択フォーカス」という撮影モードに切り替えると、デュアルカメラと同じようなボケ味の利いた写真を撮ることができる。背景をぼかした雰囲気のある写真には、デュアルカメラ搭載モデルが必須と考えられている傾向があるが、シングルカメラでも面白い写真が撮影できるGalaxy S9はもうひとつの選択として、今後、新しい流れを作ることになるかもしれない。

S9で撮影した写真

 そして、もうひとつGalaxy S9とGalaxy S9+のカメラで注目すべきは、960fpsのスーパースロー撮影に対応していることが挙げられる。両機種に採用された超高速12メガピクセルのデュアルピクセルセンサーにはメモリーが内蔵されており、これを活かすことで、0.2秒を6秒間として撮影するスーパースロー撮影を可能にしている。

【Galaxy S9で撮影したスーパースロー動画】

 同様のスーパースロー撮影は昨年、他機種がひと足早く実現しているが、Galaxy S9とGalaxy S9+では被写体の動きを自動的に検知して、自動的にスーパースロー撮影に切り替えられるなど、ユーザビリティの面も含め、一段と進化を遂げている。撮影したスローモーションの動画は端末やパソコンなどで再生するだけでなく、GIFアニメーションに変換して、SNSなどでシェアしたり、ロック画面に壁紙として設定できるなど、活用できる範囲を拡大している点も高く評価できる。

 また、スーパースロー撮影で活用されているセンサー内蔵のメモリーは、暗いところでの撮影にも効果を発揮する。照明が1ルクス未満というような薄暗いところでは、マルチフレームで12枚の画像を撮影し、これを1枚に合成することで、ノイズを抑えた写真を撮影できるようにしている。サムスンによれば、Galaxy S8との比較で、30%のノイズが軽減できるとのことだ。今回は渡航先での短い試用だったため、本連載でよく撮影している薄暗いBarでの撮影ができていないが、おそらくそういった環境でもかなり明るく撮影できるのではないかと推察される。

 インカメラは両機種との共通仕様で、8メガピクセルのイメージセンサーにF1.7のレンズを組み合わせる。自分撮り、グループでの撮影を考慮し、背面の広角カメラの77度という画角よりもワイドな80度の画角を確保している。このインカメラを活かした新しい機能として注目されるのが「AR Emoji」だ。自分の顔をインカメラでスキャンし、その顔に似ているアバターを生成する機能で、肌の色やメガネ、服装などもあらかじめ用意されている範囲内でカスタマイズできる。生成したアバターを利用したスタンプ(GIFアニメーション)も自動的に作成され、GIFをサポートするメッセンジャーアプリやメール、SNSなどに利用することができる。

 筆者も実際にアバターを作成したり、会場でも他の人が作成しているところを見てみたのだが、やや顔のテイストが似通っている印象で、欧米のスタッフがデモで作成したときのような似てる印象がなかなか得られない。面白い機能ではあるが、現在の絵のテイストがいろいろな国と地域で受け入れられるかどうかは未知数だ。ただ、スーパースローの動画同様、端末内で閉じるのではなく、GIFアニメーションに変換して、さまざまなコミュニケーションに活用できるようにしている点は高く評価できる。

国内市場投入が待ち遠しいGalaxy S9とGalaxy S9+

 国内外で販売される数あるスマートフォンの中で、もっとも注目度の高いシリーズのひとつがサムスンのフラッグシップモデルである「Galaxy S」シリーズだ。モデルを重ねるごとに着実に進化をしてきたが、今回のGalaxy S9とGalaxy S9+は進化の歩みを止めることなく、スマートフォンの本質であるコミュニケーションとカメラに注力しながら、さらなる進化を遂げたモデルに仕上げられている。

 今回はグローバル市場でも発売される前のモデルを渡航先で短期間、試用したのみということもあり、いつものような使い込みができなかった感は残るが、わずかな時間でもそのポテンシャルの高さは十分にうかがうことができた。

 今のところ、国内市場への投入については、何もアナウンスされていないが、順当に行けば、昨年同様、2社から両モデルが発売されると予想される。もし、国内向けモデルが発表されれば、あらためてレビューをする予定だが、今から発売が待ち遠しいモデルと言えそうだ。

法林 岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話・スマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるゼロからはじめるiPhone X/8/8 Plus超入門」、「できるゼロからはじめるAndroidタブレット超入門」、「できるゼロからはじめるAndroidスマートフォン超入門 改訂2版」、「できるポケット HUAWEI P10 Plus/P10/P10 lite 基本&活用ワザ完全ガイド」、「できるWindows 10 改訂3版」(インプレス)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。