出張先で思いがけず活躍したNFC

2012年6月22日 06:00
(石野純也)

 各キャリア、メーカーの夏モデルに搭載されるAndroid 4.0は、標準でNFCをサポートしている。NFCとは、非接触ICの国際規格のこと。おサイフケータイの「FeliCa」や、taspoなどに使われる「MIFARE」と下位互換性を持っているのも特徴だ。国内では、昨年12月に発売されたグーグルのリードデバイス「GALAXY NEXUS SC-04D」に加え、ドコモの「GALAXY Note SC-05D」やauの「GALAXY S II WiMAX ISW11SC」が、ハードウェアとしてNFCの機能を搭載している。Android以外では、ドコモから発売された「BlackBerry Bold 9900」も、NFC対応のスマートフォンだ。

 AndroidのOSレベルでは、2.3からNFCに対応し、搭載デバイスも徐々に増えている。日本ではFeliCaを利用したサービスがインフラとして定着していることもあり、普及の速度は緩やかだが、それでも上記の端末がすでに発売されている。夏モデルでは、「AQUOS PHONE SERIE ISW16SH」がFeliCaと両対応する形で、NFCを搭載。日本航空やEdyなどが、今後、サービスを開始する予定だ。ドコモもFeliCaとNFCを徐々に統合させていくロードマップを発表しており、今後に期待できる。

 一方で現時点では、NFCを搭載していても活躍の機会は非常に少ない。Android 4.0では、NFCを利用して閲覧中のサイトやマップなどを送受信する「Android Beam」という機能を使えるが、これも相手がいないと宝の持ち腐れだ。NFC搭載スマートフォンの数が限られている現状を考えると、まだ赤外線やBluetoothの代わりにはならないだろう。筆者が海外取材の際に現地のSIMカードを挿して使っている「Nexus S」もNFCを搭載しているが、Android Beamで連絡先を交換する以外の出番はほとんどなかった。

サンフランシスコのMuniで支払いに利用するClipper
アプリを起動し、Clipperにかざすとカードナンバーや残高が表示される

 そんなNFCだが、先日、アップルの開発者向けイベント・WWDCを取材する際に訪れたサンフランシスコで、思いがけず役に立った。サンフランシスコには“時差調整”という名のもと、WWDC開催の3日前に到着していた。体内時計を合わせるには、現地の時間に合わせて活動するのが一番。金曜の午後にサンフランシスコに到着して、さっそく街中をフラフラすることにした。サンフランシスコには「Muni」と呼ばれる公共交通機関があり、バスや路面電車などを運営している。車なしで市内を移動するなら、このMuniを頼るのが手っ取り早い。とはいえ、特にバスは乗る際に運賃を支払うのが少々面倒。支払い慣れていないドルだと、なおさら乗車時にもたついてしまう。そこで、今回はプリペイドカードの「Clipper」を購入した。

 Clipperとは、一言でいうとサンフランシスコのSuicaのようなもの。Muniのバス内に設置されたリーダ・ライターや、電車の改札にかざすだけで決済が完了する。日本での場合と同様、小銭を取り出す必要がなくなりスムーズに支払いができるため、公共交通機関で移動する場合は、ぜひ手に入れておいた方がいい。ただ、Clipper自体はただのカードで、いくら入っているのかが分かりづらい。いざMuniに乗ろうとした時に残高不足だと、焦ってしまうことは必至だ。いつでもサッとカードの中身を確認できれば便利なのだが……そんなことを思いながらバス停でためしにClipperをNexus Sをかざしてみたところ、何やらカードを読み取ったような音がした。

 ひょっとしたらアプリがあれば、残金が分かるかもしれない。そう考えGoogle Playを検索したら、NFC関連と思われるアプリがいくつかヒットした。その中から、NXP SEMICONDUCTORS社の提供する「NFC TagInfo by NXP」を選び、端末にインストールした。ちなみに、NXP社はNFCチップを開発していることで有名な企業だ。このアプリを起動しClipperをかざすと、読み取りはいとも簡単に成功した。文字が小さく少々読みづらいのは難点だが、カードの残額もきちんと表示されている。スマートフォンでこまめに確認しつつチャージをすれば、いざという時に支払いができないという失敗を防げる。実際、自分も金額が分かったおかげで、安心してClipperを利用できた。

 今回はたまたま場所がサンフランシスコで、使っていた端末もNexus Sだったが、この利用方法は国内でも応用可能だ。たとえば、ドコモ版のGALAXY Nexusでも、SuicaやEdyの中身を読み取れることは確認している。カード型の電子マネーは、残高をすぐにチェックできないのがおサイフケータイと比べた際の弱点の1つだったが、NFC対応スマートフォンがあれば、この部分は補完可能というわけだ。普段はおサイフケータイが中心という人も、筆者のように、海外で非接触ICを利用する際に活用できるだろう。