みんなのケータイ
Mobile World Congressとスマートフォン、そしてLTE
石野純也
(2015/3/12 06:00)
3月2日から5日にかけ、スペインのバルセロナで開催されたMobile World Congress(MWC)を取材してきた。振り返ると、自分が最初に参加したのは2009年で、今回で7年連続ということになる。
7年も経てば、サグラダ・ファミリアですら形が変化する。それ以上にガラッと変わったのが、通信環境だ。当時はまだ、スマートフォンが今ほど一般的ではなく、MWCで発表される端末もSymbianやWindows Mobileを搭載したものが中心。2009年の記事を見れば分かるように、ソニー・エリクソン(現・ソニーモバイル)も、LGエレクトロニクスも、まだAndroid端末は1台も出していない。その前の年である2008年の年末頃に、HTCが開発したAndroid初号機の「T-Mobile G1」が発売されたばかりで、Androidがどうなるのかは未知数だったころのことだ。
日本ではLTE開始の足音も聞こえてくる頃だったが、まだ欧州では3Gが普及し始めた段階。場所によっては2Gにつながってしまうこともままあった。スマートフォンが一般的ではなかったため、通信も、基本的にはフィーチャーフォンの国際ローミングと宿のWi-Fiに頼っていた。
スマートフォンを持ち込み、現地でSIMカードを買ったのはその翌年。ドコモから発売されたHTCの「HT-03A」がベースになった「GDD Phone」(Google Developer Dayで配布された、開発者向けのSIMフリー端末)に、スペイン4位のYoigoのSIMカードを挿して利用した。今と比べると通信速度は格段に遅いが、それでも街中でGoogleマップを見られたり、Gmailをチェックできたりしたのは便利だった。
その後は、スマートフォンが普及し、インフラもどんどん増強されていった。その都度持ち込んだ端末は異なるが、基本的にはSIMフリー端末と現地のSIMカードを組み合わせて利用している。ただ、一昨年頃から、ちょっと速度が遅いなと思い始めていた。日本ではLTEが普及し、スマートフォンがどんどん高速化していく一方で、バルセロナは3Gどまり。この差が目立ち始めてきていた。そして今年は、ついにLTEが登場した。LTE自体はバルセロナでもすでに始まっていたが、プリペイドのSIMカードが対応し、旅行者でも利用できるようになったのだ。
今回のMWCでは、このVodafoneのSIMカードを購入。プランは昨年とほぼ同じ。SIMカード代込みで20ユーロ(約2600円)、nanoSIMの場合は25ユーロ(約3300円)で、1.6GBのデータ通信がつく。今回は、バルセロナ到着の翌日からインタビューが入っていたため、初日に借りていたアパートのチェックインを済ませたあと、閉店ギリギリにVodafoneショップに駆け込み、SIMカードを購入した。
過去、ドイツや台湾では、端末との相性もあり設定には少しばかり苦労したが、その反省を生かし、今回は「iPhone 6」のSIMフリー版をメイン端末として利用することにした。各国のキャリアが正式に取り扱っており、モデル数の少ないiPhoneは、海外のSIMカードを挿したときのトラブルが少ない印象を受けている。サブとしてAndroid 5.0にアップデートした「Nexus 5」も持ち込んだが、どちらの端末も、SIMカードを挿すだけで設定は完了。APNなどの入力も全く必要なく、あっけなくLTEにつながった。ちょっとしたトラブルでもあった方が記事にはしやすいのだが(笑)、これだけ簡単ならスマートフォンに詳しくなくても、利用しやすい。
速度もまずまずといったところ。筆者の泊まっていたアパートでは、15MHz幅のBand 3をつかんでいたが、下りで50Mbpsを超えることもあった。Vodafoneのプレスリリースを見ると、同社はLTE Advancedも開始している。屋外で、時々もっと通信が速くなったことがあったが、おそらくキャリアアグリゲーションをしていたのだろう。残念だったのは、VodafoneがプレスリリースでうたっていたVoLTEが利用できなかった点。通話をすると、CSフォールバックがかかり、3Gになってしまった。
ともあれ、宿の細いWi-Fiで、四苦八苦しながら原稿を日本に送った2009年を思うと、その差は歴然としている。あっけなさすぎて物足りないと思いつつも、簡単に仕事に必要なネット環境を整えられるのはやはり便利だ。やや大げさかもしれないが、遠く離れたバルセロナと日本の距離がぐんと縮まった気もする。
あと5年も経てば、今年のMWCで話題になっていた5Gが商用化される。その頃には、バルセロナの通信環境はもっとよくなっているのだろうか。そんなことを思いながら、日本に帰国した今日、この原稿を書いている。