第531回:データオフロード とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 コンピュータ用語における「オフロード」とは、他のシステムに仕事を分けることで、あるシステムに対する負荷を軽減させる技術の1つです。英語では「offload」と表記されます。

 負荷分散には、いろいろな仕組みがありますが、オフロードの場合、分け与える先のシステムは、本来負荷がかかるシステムとは同じものではなく、異なる仕組みのシステムに分散させることを指すことが多いようです。

 携帯電話では、たとえば、単純に基地局を増やすのではなく、携帯電話からの通信を携帯電話以外の仕組みに流すのは、「データオフロード」ということになります。これによって通信量(トラフィック、トラヒックともいう。携帯電話を行き来するデータの流れ・流量)を分散させて、本来のシステムである携帯電話のネットワークにかかる負荷を下げるわけです。

 現在、携帯電話業界で「データオフロード」に関する話題がいくつか取り上げられているのは、先に挙げたような「携帯電話事業者が、データ処理の分散を志向した、さまざまな仕組み」への取り組みが活発になってきているためです。

 

携帯電話のための帯域が手狭に

 携帯電話事業者がデータオフロードに積極的になりはじめた背景には、いくつかの要因があります。中でも、主な要因としては「短期間でのトラフィックの増加によってインフラ、特に電波帯域が足りなくなりつつある」ことが挙げられます。

 携帯電話の通信設備(インフラ)は、基地局、基地局に繋がる設備などがありますが、その中でも、携帯電話端末~基地局の間の無線部分が混雑しつつある、と言われています。

 トラフィックを短期間に激増させている、最も大きな要因は、iPhoneやAndroid端末など、スマートフォンの増加でしょう。スマートフォンは、従来型の携帯電話(フィーチャーフォン)と比べ、多くのデータ通信を行います。スマートフォンでは、さまざまなアプリが利用できますが、たとえば動画再生では、フィーチャーフォンよりも高画質な動画を再生できますので、その分、通信量が多くなります。またバックグラウンドでのアプリ同期やアップデートなどで通信量が増加します。

 携帯電話事業者も、そうした需要を予測して対応はしています。しかし、簡単にいかない部分もあります。基地局を設置しようにも、周辺の基地局の位置などから適切な場所を選定し、地権者の理解を得て、設置場所を確保し、そこに設置します。さらに出力調整などのプロセスを経る必要があります。これには早くても数カ月、場合によっては1年以上という期間が必要とされることもあります。一方で、スマートフォンなどの影響で、より短期間でトラフィックが増加しますから、基地局などの増設では間に合わない可能性があります。

 

最有力な手法はWi-Fi

 データオフロードの方策として、事業者はいくつかの方法を検討、あるいは実施しつつあります。

 その中でも、最も有力で、実際に展開されているのがWi-Fi(無線LAN)です。スマートフォンの通信をWi-Fi経由にして、Wi-Fiによって有線インターネットへ通信を逃がす、という手法です。多くのスマートフォンにはWi-Fi接続機能がありますから、Wi-Fiスポットを増加させる一方、スマートフォン側にもWi-Fi接続用アプリを用意する、といった形で進められています。

 また、スマートフォンを購入した場合、家庭用無線LANアダプタを配布するというような施策を行っている事業者もあります。ただ、こうした手法では、通信量に応じて変動するような段階制のパケット定額サービスであれば、その事業者への売上にも影響が出るかもしれませんが、フラット型のサービスであれば、通信トラフィックを分散しつつ、売上への影響を抑えるといったことも考えられます。

データオフロードの一例。家庭や店舗、公共施設、地域などのWi-Fiアクセスポイントにトラフィックを誘導することで、携帯電話回線へのトラフィックを減らす。図の例では4つの携帯電話のうち3台分がオフロードされ、Wi-Fi圏外の1台分は携帯電話網を使っている

 将来的なデータオフロードの手法の1つには、携帯電話向けのマルチメディア放送も利用されるとの見方もあります。携帯電話などの「通信」と、テレビなどの「放送」との違いを見ると、通信では、基地局と端末が1対1でやり取りするのに対して、放送では1つの局から同時に同じ内容を多くの端末が受け取ることができます。多くの人が利用する、需要の高いコンテンツを放送波で一斉同報で配信しておき、端末上で蓄積し、見たいときに端末上のデータを観る、といった使い方が実現すれば、その分、携帯電話ネットワークでの通信を抑えられる、という考え方です。

 




(大和 哲)

2011/9/13 11:56