ケータイ用語の基礎知識

第664回:Air Stampとは

 「Air Stamp」(エアスタンプ)は、NTTドコモが、2014年3月より、モバイルサービス事業者向けに提供しているソリューションです。ユーザーのいる場所にあわせてコンテンツを配信するための装置、そしてソフトウェア開発キットなどが有償で企業向けに提供されています。

 「Air Stamp」を導入することで、ある場所にいるユーザーのスマートフォンへ、クーポンやポイント(特典)などを配信できます。たとえば博物館である展示物の前に行くとその説明を配信したり、イベント会場を訪れると特典がもらえたりする、といった使い方を実現できます。

 また、JR東日本が配信している、スマートフォン向け情報配信アプリ「JR東日本アプリ」に採用されています。同アプリでは、山手線でのサービス「山手線トレインネット」も利用できます。「山手線トレインネット」では、JR東日本アプリをインストールしたスマートフォンを持って電車に乗ると、その位置に合わせて、電車の停車駅一覧や所要時間、各車両の混雑度や車内温度などを確認できます。今はまだ山手線全ての車両(編成)で利用できるわけではなく、2014年6月現在、3編成が対応しており、来年度には全編成で提供する予定になっています。

 このサービスの土台を支えるAir Stampは、同じくドコモのポイントサービス「ショッぷらっと」をオープン化したものです。「ショッぷらっと」では、お店に立ち寄るだけで来店ポイント「star」や、クーポンがもらえ、商品券などの特典に交換できるというものでした。

高周波の「音波」を使った位置特定・情報配信サービス

 「Air Stamp」では、ユーザーの現在地にあわせて情報を配信します。ではどうやって、ユーザーの場所を見つけているのかと言えば、音波を利用しているのです。

 あるお店で情報を配信したい場合、その店頭に、ドコモの提供する音波装置を設置します。ここから人の耳には聞こえない高周波域の音波が流れます。スマートフォンに対応アプリを入れて、スマートフォンのマイクで音波を拾うと、アプリがその音波に含まれている情報をサーバーに送信します。これでどの場所の装置の音波か判明して、ユーザーの場所がわかります。そして、その場所にあわせた情報を配信するようになっているのです。

 本コーナーでは、アップルが提供しているiBeaconについて解説(第660回:iBeaconとは)しましたが、「Air Stamp」もまた、iBeaconなどと同様に、GPSが利用できない室内のような場所でも、位置を特定できる技術です。

 iBeaconと比べ、Air Stampでは音波を使うため、最新機種でなくとも利用できることがメリットの1つです。音声用マイクが搭載されているほとんどのスマートフォンで利用できるからです。ドコモでは、Android 2.1以降のスマートフォンやiOS 5.0以降のiPhoneを対応機種としています。現行のほとんどのスマートフォンで使えることになります。

 ちなみにAirStamp対応アプリでは、アプリを起動するとマイクも自動的に起動するため、GPSやBluetoothのように、事前に操作してあらかじめ必要な機能を有効にする、という操作が必要ありません。

 またパネルなどは簡単に通り抜けてしまう電波と異なり、音波を使うので壁などで比較的簡単にさえぎることができるため、限られた場所だけで情報を配信するなど、エリアを設定しやすいというメリットもあります。

 音波を使って現在地を特定していますが、音声信号の解析や認証のため、サーバーと通信するため、このサービスを利用する際には、通信できる状態になっていなければなりません。これは、ビーコンの情報(UUID)さえわかっていればビーコンに近づいたことが確認できるiBeaconと異なる点だといえます。

 もし音波を録音して、別の時間・場所で使おうとしても、認証という手順があるため不正利用はできなくなっています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)