ケータイ用語の基礎知識

第663回:STICS とは

 今回紹介する「STICS」は、英語で「衛星-地上統合移動通信システム」を意味する「Satellite-Terrestrial Integrated mobile Communication Systems」の略称です。「スティックス」と読みます。

 一般的に使われている携帯電話と同じ程度の大きさの端末で、地上の基地局と衛星の基地局のどちらとも通信できる、という方式です。情報通信研究機構(NICT)を中心に、地上や超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)などで実験され、実現に向けてさまざまな要素技術の研究が進められています。

 STICSでは、直径約30mと、人工衛星としては超大型のアンテナを搭載した機材を打ち上げて利用します。その衛星から発射される電波で、円形のスポット約100個を作り、日本、そして日本の排他的経済水域を覆って衛星電話のエリアとします。

 現在の携帯電話は地上の基地局とだけ通信可能で、衛星電話は小型化されてきたとはいえ別途、専用端末を用意する必要があります。

 STICSでは、そういった煩雑さはなくなり、ひとつの機材で衛星・地上両方の方式の携帯電話として使うことができるようになります。STICSは、今、注目されている将来の衛星携帯電話方式の1つです。

地上の携帯電話に近い周波数を利用

 STICSは、衛星電話を兼ねる携帯電話ですが、その大きな特徴として衛星・地上の両方で同じ周波数帯の電波を使うことが挙げられます。

 現在使われている携帯電話では、700MHz帯や800MHz帯、1.5GHz帯、2GHz帯などの周波数帯を利用しています。一方、STICSでは、このうち2GHz帯の使用周波数に近い1980~2010MHzを上り通信用に、2170~2200MHzを下り通信用に使うことが想定されています。

 ちなみに、1980~2025MHz、2160~2200MHzは、国際電気通信連合(ITU)によって、3Gの携帯電話(IMT-2000)つまり3Gの携帯電話と、衛星携帯電話どちらにも使える周波数帯として計画されています。たとえば欧州などでも同じ周波数が衛星通信用として割り当てられています。

 現在、携帯電話が使っている周波数帯とほぼ隣りあっている電波ですので、端末内部のアンテナやアンプなど、周波数によって変えなければならないパーツをひとまとめにして、衛星・地上で共用できます。これによって衛星電話の小型化、低価格化が可能となるわけです。

 STICS対応端末は、通常は地上の基地局との交信を行い、普通の携帯電話としてふるまいます。そして、携帯電話の電波の届かない山間部などに来た場合など補完的に衛星電話として利用できる、というイメージです。これがSTICSの大きなメリットの1つです。

 また、携帯電話が、衛星電話としても利用できる場合、大規模災害などで地上の基地局が使えなくなってしまった場合でも、通信できるというメリットが挙げられます

 2011年の東日本大震災では、被災地となった東北地方を中心に携帯電話の設備の多くも被災しました。その結果、被災したエリアでは携帯電話が圏外になってしまうこともありました。STICSの目的の1つは、このような災害時に、衛星による音声通話ができるようにすることです。いわば“通信の迂回路を設ける”ということを目指しているのです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)