4月18日、NTTドコモはロゴマークを含めた企業ブランドの刷新を発表し、同時に変革するためのビジョンとして、4つの「新ドコモ宣言」を掲げ、今後はユーザーとの関係を強化した事業展開をする方針が明らかにされた。同社設立以来となる積極的な取り組みを発表したことになるが、NTTドコモは「新ドコモ宣言」で生まれ変わることができるのだろうか。
■ 業界トップシェアと「MNP一人負け」という現実
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ドコモの新コーポレートブランドロゴ
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昨年の「DoCoMo 2.0」キャンペーンロゴ
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日本のケータイ市場だけでなく、世界のケータイ市場においても重要なポジションを占めるNTTドコモ。iモードをはじめとするさまざまなサービスを生み出し、内外のケータイ市場をリードしてきた存在だ。国内市場においては、旧日本電信電話公社の移動体通信事業を母体とし、1991年に設立されて以来、常にトップを走り続け、50%を超えるシェアを確保している。
その一方で、2006年10月24日にスタートした番号ポータビリティ制度では、開始以来、一社のみで転出を記録し続け、15カ月で150万を超える契約を失ってしまった。auは約140万、ソフトバンクは約13万契約の転入に成功しており、結果的にNTTドコモが「一人負け」と言われる状況になってしまった。シェアについてもMNP開始直前には約56%を確保していたが、現在は約52%まで落ち込み、シェアの50%割れも目前に迫っている。PHSを含めた移動体通信全体では、すでにシェア50%を切っている。
こうした状況に対し、NTTドコモも手をこまねいていたわけではない。昨年来、展開されてきた「DoCoMo 2.0」のキャンペーン、「反撃してもいいですか?」という挑発的なキャッチコピーは記憶に新しいところだが、端末についても昨年10月に905i/705iシリーズ23機種を一気に発表するなど、他社にはなかなかマネのできない充実のラインナップを展開してきた。しかし、これらの『反撃』も十分な効果が発揮できなかったのか、結果的にMNPでの転出傾向は止まっておらず、2008年3月には月単位で過去2番目の多さとなる13万7,000もの契約を失ってしまった。
ただ、海外でのMNPでもトップシェアの事業者はシェアを落とす傾向にあるため、NTTドコモの苦戦はしかたないと見る向きもあった。また、MNPの転出が続いている一方で、NTTドコモは新規契約も獲得し続けており、実は契約数だけを見れば、MNP開始以降の15カ月で約130万の純増を記録している。auの約560万、ソフトバンクの約310万には遠く及ばないが、それでもマイナス傾向ばかりが続いていたわけではなく、MNP開始による顧客争奪戦の被害を最小限に留めたという見方もできる。
そして、今回「コーポレートブランドの刷新」が発表された。ブランドとしてのテコ入れは数年前から検討が重ねられていたが、やはり、MNP開始を起点とする市場動向の変化が大きく影響したという。
■ 「新ドコモ宣言」は何を見据えているのか
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ブランド刷新とともに「新ドコモ宣言」発表
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NTTドコモは今回のコーポレートブランドの刷新発表に際し、新しいブランドロゴとともに、自らの決意を表わす「新ドコモ宣言」を発表した。
まず、ブランドロゴの変更については、同社の変革を表わす象徴的な取り組みと言えるだろう。というのも国内では携帯電話事業者の買収や業界再編がくり返されたため、同社のロゴマークのみが初期段階から使い続けられており、市場全体にも密接にリンクした印象を持たれている。それを捨てでも新しいドコモブランドを打ち出してきたのは、変革に対して、相当な意気込みがあると言えるだろう。
一方、ドコモ宣言についてはどうだろうか。一つ一つの言葉については、NTTドコモとしての思いが込められており、現在のNTTドコモの置かれている現状を考えれば、非常に意義のある宣言だ。ただ、一般のコンシューマーを対象にしたサービスを提供する会社が掲げるものとしては、ユーザーから見れば、ある意味、「当然そうあって欲しい」と受け取れるもので、少し意地悪な見方をすれば、「今まではそうじゃなかったの?」と言いたくなってしまうような印象すらある。
今回の発表では、コーポレートブランド刷新について、NTTドコモの特別顧問を務める魚谷雅彦氏による説明が行なわれたが、そこで「新規顧客の獲得に集中するあまり、新規のお客さんには1円で端末を売っているのに、既存のユーザーが新しいFOMAに取り替えるのに1万5,000円が掛かることに違和感を覚えた」というエピソードが紹介された。昨年来、NTTドコモが905i/705iシリーズ以降を対象に開始した新販売方式以前の状態を指したものだが、新規のユーザーを増やしながら、ネットワークのトラフィックから生まれる収入で成長させていくという手法は限界があることを指摘したわけだ。
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新ドコモ宣言
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これからの事業運営
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では、具体的に我々ユーザーにとって、「新ドコモ宣言」で変わってくる部分は何かあるのだろうか。今回の発表でひとつ掲げられたのは、プレミアクラブの拡充だ。たとえば、1年以上、同一機種を利用しているユーザーに対し、電池パックを無料でプレゼントするサービスが今年10月以降に提供される。この他にもたまったドコモポイントをDCMX及びDCMX miniで利用できる特典も提供される。
ただ、ここで取り上げた2つの特典は、プレミアクラブの会員ステージがもっとも高い「プレミアステージ」のユーザー向けに限られている。プレミアクラブの会員全員に提供される特典もあるが、ある程度、メリットのある特典は対象ユーザーが限定されることになる。プレミアクラブのステージ決定条件は今年4月に見直され、現在は10年以上、NTTドコモを利用しているユーザー、もしくは平均で月々約2万900円以上、利用しているユーザーがプレミアステージとして扱われる。つまり、長期ユーザーとヘビーユーザーを大切にしようというわけだが、意外にハードルは高い。ちなみに、10年以上のユーザーと言うことになると、端末で言えば、ムーバ206シリーズが販売されていた頃で、まだiモードも始まっていなかった時期からのユーザーが対象になる計算だ。
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変革に向けたアクション(1)
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変革に向けたアクション(2)
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変革に向けたアクション(3)
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ドコモの課題
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昇格と報道されたドコモの山田氏
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前社長の立川敬二氏(写真は当時のもの)
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このほかにも既存サービスの見直しやきめ細かい料金対応、端末の使いやすさ向上、ビジネス・技術面でのイノベーションなどが掲げられている。ただ、端末などについては、開発期間が長いため、実際に反映されてくるまでには、半年から1年以上の猶予が必要とされる。
全体的に見れば、確かに変革しようとするドコモの姿勢が見えてくるのだが、その一方で、「これは誰に向けた宣言なのだろうか?」という疑問も少なからず出てくる。というのも今回の宣言には、ユーザーに直接かつ具体的にメリットが見えてくる項目があまり多くないからだ。
本来、ユーザーは事業者に対し、サービスや端末、料金、顧客対応などを含め、トータルで質の高いサービスを受けたいと考えている。NTTドコモが自らの変革のために、今回のような内容の事柄を宣言されてもユーザーとしては、現時点では「なるほど。分かりました。今後に期待しています」くらいのことしか感じない。
むしろ、今回の宣言はNTTドコモと各地域会社、関連会社をはじめ、NTTドコモの事業に関わるすべての人たちに向け、意識改革を促すためのものというのが本当の姿だろう。前述の魚谷氏の説明によれば、今回の「新ドコモ宣言」はトップダウンで決まったものではなく、現場の社員と上層部の両方からのヒアリングを重ねて生み出されてきたものだという。つまり、「新ドコモ宣言」はユーザーへ向けた宣言であると同時に、「このままではいけない」「変わらなければならない」という意識をNTTドコモ全体で共通認識として持つという意味合いの方が強いと言えそうだ。
ただ、その一方で、本質的な部分はなかなか変わらないのではないかという見方もある。たとえば、最近、NTTドコモの中村社長の後任人事が新聞などで取りざたされているが、NTTグループでは古くから技術系と事務系の出身者が交互に社長に就任するという慣例がある。前社長の立川敬二氏は技術系の出身で、当時、後任には技術系出身の津田志郎氏の就任が有力視されながら、最終的には事務系出身の中村維夫社長が就任したということがあったが、今回も順番が守られることになるのか、技術系の山田隆持副社長の昇格が取りざたされている。今回の発表会見後の囲み取材でも「現時点で何も決まったことはない」と報道を否定していたが、こういった部分も含め、従来のNTTグループの方法論とは違ったアプローチも考えていかなければ、本当の意味での「変革」はなかなか実現できないかもしれない。
■ もっとわかりやすい取り組みにも期待したい
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新ドコモ宣言の展開
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やや抽象的な印象が否めない「新ドコモ宣言」だが、ユーザーに対して、もっと具体的に何か新しい取り組みは期待できないのだろうか。
たとえば、NTTドコモはパケット通信料の割引サービスと定額制サービスを提供しているが、割引の内容を勘違いしたユーザーがパソコンと接続したり、海外でも国内と同じようにパケット通信を利用したりして、膨大なパケット通信料が請求されるというトラブルが何度となく、起きている。もちろん、定額制や割引サービスの制限内容を確認しなかったユーザーにも非があるわけだが、ユーザーのことを考えたサービスを提供していきたいとするならば、もう少し違った対応も考えられるのではないだろうか。
もし、あるユーザーのパケット通信量が急激に増えてきたのであれば、その時点でユーザーにメールや電話で確認をしたり、アラートメッセージを送ったりといったアプローチもできるはずだ。こういう言い方は良くないかもしれないが、自分たちも端末の不具合やネットワークのトラブルなどの「ミス」を起こしているのだから、ユーザーの「ミス」もある程度、カバーできるような体制が作ってもいいのではないだろうか。おそらく、こうした細かい部分のフォローを積み重ねていかなければ、ロイヤリティの高いユーザーを育てていくことは難しいだろう。
また、端末についても市場の反響を見てもわかるように、個々の製品の良さは十分に認めるところだが、現在のようなラインナップの展開や販売方法、プロモーションが本当にユーザーにとって、喜ばれるものなのか、伝わっているのかは疑問が残る。たとえば、905i/705iシリーズはなかなか他社にマネのできないほど充実したラインナップだが、見方を変えれば、「これだけあれば、ひとつくらいは気に入りますよ」とも受け取られかねないほど、似通ったものを並べているという見方もある。ひとつひとつの端末は優れているが、その特性や良さは十分にユーザーに届いているのだろうか。
新ドコモ宣言を掲げ、ロゴマークを変更してまで、企業ブランドを刷新しようとするNTTドコモ。最大のシェアを持つ事業者が新しい取り組みをすることで、日本のケータイ市場全体への影響が気になるが、最終的に「新ドコモ宣言」で掲げた項目を実践するのは、NTTドコモ自身であり、それが実践できなければ、この宣言は意味をなさない。我々ユーザーとしては、NTTドコモが今後、具体的にどんな製品やサービス、施策を打ち出してくるのかをじっくりと見守っていく必要があるだろう。いつか多くのユーザーから「ドコモは変わったね」という声が聞かれる日が来ることを期待したい。
■ URL
NTTドコモ
http://www.nttdocomo.co.jp/
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(法林岳之)
2008/04/23 18:40
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