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ライバルはFOMA? テレビ電話もできるLookwalk P751v
法林岳之 法林岳之
1963年神奈川県出身。パソコンから携帯電話、メール端末、PDAまで、幅広い製品の試用レポートや解説記事を執筆。特に、通信関連を得意とする。「できるWindows XP基本編」「できるADSL フレッツ・ADSL対応」「できるZaurus」「できるVAIO Windows XP版」など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。iモード用EZweb用J-スカイ用、H"LINK用(//www.hourin.com/H/index.txt)を提供。(impress TV)も配信中。


新ラインアップ「Lookwalk」登場

 ここのところ、データ通信カード一体型端末ばかりが目立っているPHSだが、NTTドコモからテレビ電話にも対応した新端末「Lookwalk P751v」が登場した。PHSのテレビ電話は過去にも発売されたことがあるが、Lookwalk P751vはFOMAでも採用されている3GPP規格に準拠したテレビ電話が可能だ。筆者も機種変更で購入したので、レポートをお送りしよう。


FOMAに挑むPHS

P751v

 NTTドコモ/松下通信工業『Lookwalk P751v』。サイズ:56×104×35mm(折りたたみ時)、150g。シャンパンゴールド(写真)をラインアップ。
 NTTドコモが昨年から提供を開始した次世代携帯電話サービス「FOMA」には、さまざまなアプリケーションが用意されている。なかでも注目度が高かったのが「テレビ電話」だ。離れた地点に居る誰かとリアルタイムで動画を送受信しながら、通話ができるというものだ。一部のメディアでは「次世代携帯電話=テレビ電話」のように報じているところもあるほど、次世代携帯電話ならではのサービスとして扱われている。

 ただ、テレビ電話が市場に受け入れられるには、さまざまな社会的なコンセンサスが必要であり、まだまだ「流行る」という気配は見受けられない。なかでも絶対的に不足しているのは「通話する相手」の問題だ。一般的な携帯電話は、音声による通話をメインとしており、オフィスや自宅の固定電話から携帯電話やPHSなどの移動体通信端末まで、ひと通りの相手とコミュニケーションができる。これに対し、テレビ電話は3GPPのテレビ電話規格に準拠した端末としかビジュアルコミュニケーションができず、それ以外の端末や環境とは音声通話のみになってしまう。今のところ、3GPPのテレビ電話の規格に準拠した携帯電話端末は松下通信工業製「FOMA P2101V」、三菱電機製「FOMA D2101V」、シャープ製「FOMA SH2101V」の3種類のみで、この秋、先日の定例記者会見で明らかにされた東芝製「FOMA T2101V」が投入される見込みだ。固定網についてはISDN用に販売されている「Moppet」が3GPPのテレビ電話モードに準拠しているのみで、一般のアナログ回線などとは残念ながらビジュアルコミュニケーションを楽しむことができない。

 今回発売する松下通信工業製「Lookwalk P751v」(以下P751v)は、3GPPのテレビ電話規格に準拠した端末で、FOMAのビジュアルタイプをはじめとする端末とビジュアルコミュニケーションを楽しむことができる。ちなみに、PHSを使ったビジュアルコミュニケーションとしては、1999年に京セラがDDIポケット向け端末「ビジュアルホン VP-210」で実現されているが、VP-210のビジュアルコミュニケーションが独自形式のものだったのに対し、P751vのテレビ電話は3GPPのテレビ電話規格に準拠している点が大きく異なる。ちなみに、VP-210のビジュアルコミュニケーションではPHSの32kbpsの帯域の内、24kbpsを動画転送、8kbpsを音声通話に利用していたが、これをすでに3年近く前に実現していたのは、今考えると、かなり先進的な商品だったと言えるだろう。

 また、P751vはNTTドコモがPHSで提供しているマルチメディアコンテンツサービス「M-stage visual」にも対応している。つい最近まで、M-stage visualに対応した端末はデータ通信カード一体型端末を装着して利用する「eggy」しかなく、ごく一般的な端末のみで楽しめる環境を実現したのはP751vがはじめてということになる。ちなみに、現在はP751vのほかに、先週紹介したFOMA SH2101V、データ通信カード一体型端末を装着して利用するPDA「musea(ミュゼア)」でもM-stage visualを楽しむことが可能だ。


FOMA P2101Vのボディを流用?

P2101V(左)とP751v

 トップパネルの処理が微妙に異なるが、基本的にはP2101V(左)と同じデザインのボディを採用している。
 製品のスペックや細かい仕様については、NTTドコモや松下通信工業の製品情報ページ、「ケータイ新製品SHOW CASE」を参考にしていただくとして、ここでは筆者が購入した端末で得られた印象を中心に紹介しよう。

 まず、ボディは誰が見てもわかるように、FOMAのビジュアルタイプ「FOMA P2101V」のボディと酷似している。トップパネル側の処理こそ微妙に異なるが、ボディサイズや重量はまったく同じであり、ボディ中央のヒンジ部に装備されたカメラ、折りたたみ時にさまざまな情報を表示する背面の「プライベートウィンドウ」、その隣にある「マナーボタン」(P2101Vでは[memo]ボタン)など、外装品のレイアウトもまったく同じだ。外装品で異なるのはイヤホンマイク端子の形状で、FOMA P2101VやP504iで採用されている薄型コネクタではなく、一般的な円形コネクタを採用している。底面に備えられている外部接続端子は、NTTドコモのPHSで採用されてきたものではなく、FOMA端末と同じFOMA専用USBポートが装備されている。

 ちなみに、ACアダプタと卓上ホルダはP2101Vと共通になっており、バッテリーは型番こそ違え、形状はまったく同じとなっている。また、市販のFOMA用USB充電ケーブルも利用することができた(※ただし、これらの利用については各自の責任で行なってほしい)。

 一般消費者が購入する製品において、ひとつのボディから異なる製品を作り出すことはよくあることだ。乗用車にはいわゆるブロスカー(兄弟車)があり、AV機器などではOEM供給で異なるメーカーから酷似したデザインの製品が出ることはある。しかし、ケータイの世界ではあまり前例がなく、正直に言って、多くのユーザーが驚いたはずだ。コスト削減のためということは理解できなくもないが、その割にはイヤホンマイク端子の形状を変更したり、NTTドコモのPHSで利用されてきた外部接続端子を採用しないなど、非常にチグハグな印象を受ける。


 液晶ディスプレイは、176×220ドット表示が可能なフロントライト式2.2インチTFTカラー液晶を採用している。FOMA P2101Vから流用されたこともあり、最近のPHSとしてはかなりのハイスペックだが、フロントライト式特有の色味の薄さが目立ち、せっかくの液晶パネルのスペックが活かされていない。特に、P2101Vが発売された昨年10月以降、液晶ディスプレイのスペックはかなり向上しており、やや古くなった印象は否めない。

 ボタン類もP2101Vと共通のレイアウトを採用しているが、一部のキーに割り当てられている機能が異なる。たとえば、コマンドナビゲーションボタンの右下にあるボタンは、P2101Vではカメラ利用時の[シャッター]に割り当てられていたが、P751vではM-stage visualに接続するためのボタンになり、シャッター機能はテンキー左下のボタンに割り当てられている。マナーモードボタンやテレビ電話用発話ボタンなどのレイアウトは変更されていない。


ディスプレイ ボタン
 PHSとしては最大級の液晶ディスプレイを搭載。フロントライト式特有の色の薄さは残る。  ボタン類の基本レイアウトもP2101Vを継承。コマンドナビゲーションボタン右下が[M-stage visual]ボタン。

32kbpsでもテレビ電話が楽しめる

メニュー

 メニュー画面の構成やレイアウトもP2101Vとほぼ同じ。

テレビ電話機能

 テレビ電話機能の設定もほとんど変わらない。
 一方、機能面についてはどうだろうか。基本的な操作体系はメニュー画面を見てもわかるように、P2101Vに非常に近い。各機能は9分割された画面からアイコンを選ぶ形式になっており、文字入力やアドレス帳の使い勝手などもほぼ同じだ。ただし、プラットフォームがFOMAとPHSで違うこともあり、設定できる機能などには微妙に違いがある。

 注目のテレビ電話については、3GPPのテレビ電話規格に準拠しているため、FOMAのビジュアルタイプと同じように、64kbpsで接続し、ビジュアルコミュニケーションを行なう。P2101Vなどと通話テストを試みたが、いずれも特に問題なく、テレビ電話で通話することができた。64kbps対応のホームアンテナにP751v登録した状態から発信しても安定したビジュアルコミュニケーションができた。

 ただ、意外なのがP751v側が基地局の空き状況などによって、P751vが32kbpsで発信してしまった場合でもビジュアルコミュニケーションができた点だ。つまり、FOMAのような巨大かつ高価なリソース(という表現が適切かどうかはわからないが……)を使わなくてもテレビ電話が楽しめるというわけだ。FOMAサービスの特徴のひとつであるテレビ電話が既存システム(FOMAも現行サービスではあるが)のPHSで実現できるということは、ある意味、FOMAの存在意義にもやや「?」マークを付けたくなってしまう。

 また、同じカメラを利用した機能としては、動画や静止画の撮影が可能で、撮影した画像をメールに添付して送信することが可能だ。ただし、パルディオEメールは容量に制限があるため、動画メールを利用する場合は後述するプロバイダメールを利用した方が無難だろう。カメラの使い勝手はP2101V同様で、背面側に向けたときにその都度、反転表示の操作をしなければならないなど、今ひとつという印象だ。


M-stage visual

 M-stage visualには[M-stage visual]ボタンの長押しで、ワンタッチアクセスが可能。
 M-stage visualは前述のように、eggyなどで利用できる映像配信サービスだが、P751vでは端末のみでいつでも映像を楽しむことができる。NTTドコモでは「mopera情報サービスHot’s」や「M-stage visual」、「mopera位置情報サービス」などのモバイルマルチメディアサービスを個別に申し込む必要があったが、8月23日より、「infogate(インフォゲート)」に統合されたため、月額100円を支払うのみで、これらのコンテンツを利用することが可能だ。もちろん、通信料や有料コンテンツの利用には別途、費用が必要になるが、端末を購入し、infogateの申し込みをすれば、それだけで最低限の環境が整うようになったのはうれしい。

 実際の使い勝手については、面倒な設定もほとんど必要なく、P751vの[M-stage visual]を長押しするだけで、すぐにアクセスすることができる。コンテンツ内容に関してはユーザーによって好みがあるため、一概に言えないが、無料のコンテンツだけでもそこそこ楽しめるレベルにあるという印象だ。

 P751vでもうひとつ特徴的なのは、最近のNTTドコモのPHS端末と同じように、通常のプロバイダを利用したインターネット接続やメールの送受信に対応している点だ。PDAなどに比べると、設定がやや面倒な印象は否めないが、ブラウザ、メールともに最大5件まで接続先が登録可能だ。

 こうしたさまざまな機能を持つP751vだが、個人的に非常に残念だったのが従来のPHS端末でサポートされていたオフィスステーションモードやホームステーションモードに対応していない点だ。これらのモードは端末を家庭やオフィスのステーションに子機として登録するモードだが、P751vはこれが利用できないため、必ずNTTドコモのPHS回線から発信しなければならない。NTTドコモとしては自前のPHS回線を利用してもらわなければ、通信料という収入が得られないので、当然の措置とも言えるのだが、FOMAと組み合わせたオフィスでの利用なども考えられるので、ぜひサポートして欲しかったところだ。


不可解さは残るが、PHSの可能性を示す一台

P751v(右)はP2101V

 P751v(右)はP2101V(左)の資産をどのような理由で継承したのだろうか。キャリアとメーカーの意図が今ひとつよく見えない端末だ。
 さて、最後にP751vの「買い」について考えてみよう。NTTドコモのPHSは定例記者会見で「見直し発言」が飛び出すなど、厳しい状況にあると言われている。しかし、NTTドコモの携帯電話を持つユーザーにとっては、ファミリー割引が利用できるといった導入のしやすさもある。データ通信カード一体型端末ではそのアドバンテージを活かすことができたが、DDIポケットがAirH"を開始して以降はその魅力も失われつつある。

 P751vはFOMA P2101Vの資産を継承しながら、テレビ電話に代表されるように、FOMAに近いレベルのサービスを利用できるという特長を持っているが、別な側面から見れば、非常に不可解な端末でもある。なぜなら、NTTドコモにとって、FOMAの普及は至上命題であり、PHSはどちらかと言えば、将来的な展開を見直そうとしているサービスだ。P751vは見直される側のサービスの端末でありながら、至上命題となっているサービスに近いレベルのことができてしまうわけで、ひとつ間違えば、「あ、FOMAなんていらないんじゃん」という解釈も成り立ってしまうからだ。もっともFOMAの魅力はテレビ電話だけではないため、P751vでテレビ電話ができるからと言って、即座にFOMAが無用ということにはならないのだが、現時点のFOMAの存在意義に「?」マークを付けたくなる端末であることは間違いない。

 通信事業者としてのサービスの一貫性には今ひとつ疑問を抱かざるを得ないが、ユーザーにしてみれば、P751vはFOMA端末ほどのリスクを負わなくても、それに近いレベルのサービスを利用できるのだから、テレビ電話やM-stage visualに興味があるユーザーなら、購入を検討する価値はあるだろう。また、すでにFOMAを導入し、ビジュアルコミュニケーションをビジネスに活用しているオフィスなどでは、P751vも導入して、環境やシチュエーションによって使い分けるという手も考えられる。

 ただ、現実的に考えた場合、やはり、P751vでネックになるのは、端末そのものの魅力だ。コストダウンのために、P2101Vの資産を継承することは理解できなくもないが、かなりの小型軽量化が進んだPHS市場に持ち込むにはあまりにも大きく重い上、外部接続端子の仕様などを見てもわかるように、NTTドコモのPHSとしての継続性が感じられない。内部的なソフトウェアについてもP2101Vが試験サービス開始から計算して、すでに1年以上を経過しているのだから、もう少し改良をすることもできたはずだ。極端な受け取り方をしてしまうと、「P2101Vの資産でこんなモン作ってみました~」というおざなりな印象すら残ってしまう。言い方は悪いが、製品をリリースする側に製品に対する愛情があまり感じられないのだ。

 P751vは機能的にもなかなか面白い位置付けの商品であり、FOMAと組み合わせれば、ビジネスユースにも十分活用できそうな端末だ。しかし、「持ち歩くハードウェア」としての魅力に今ひとつ欠ける面があり、この部分をどう受け取るのかによって、「買い」指数は大きく変化することになりそうだ。


・ ニュースリリース(NTTドコモ)
  http://www.nttdocomo.co.jp/new/contents/02/whatnew0708a.html
・ 製品情報(NTTドコモ)
  http://www.nttdocomo.co.jp/p_s/mstage/visual/product/pro_p751v.html
・ 製品情報(松下通信工業)
  http://www.mci.panasonic.co.jp/pcd/p751v/

P751v(シャンパンゴールド)
ドコモ、M-stage visual対応のPHSビジュアルホン「Lookwalk P751v」
「限定プレミアムフィギュア」がうれしい人は誰?


(法林岳之)
2002/09/10 15:19

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