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[2000/12/26]

第11回:FelixMobileの移動通信講座(2)? iモードとWAP、どこが違う? ?
[2000/11/07]

第10回:モバイル・インターネットは本当にインターネット?
[2000/09/29]

第9回:Felix Mobileの移動通信講座(2)IMT-2000って何?
[2000/08/31]

第8回:Felix Mobileの移動通信講座(1)
[2000/06/19]

第7回:iモード成功の理由
[2000/05/19]


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第9回:Felix Mobileの移動通信講座(2)IMT-2000って何?
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飼い主と一緒に日本へ来た、アメリカはシリコンバレー育ちのシャム猫。現在は横須賀、京浜急行の野比駅近くに住む。育った場所がら、モバイルにはちょっとうるさい“モバイル評論猫”。


グローバル、パーソナル、マルチメディア

 IMT-2000夢紀行では、2001年というより一気に2010年にワープしてしまった。今回は来年にサービスをひかえたIMT-2000の正体をこのFelixMobileが明らかにしよう。まず、IMT-2000って何かということからスタートだ。

 次世代携帯電話システムは、もともとFLMTS (Future Land Mobile Telecommunication System、フルンプツスとも発音)と呼ばれていた。このFLMTSをベースに2000年をターゲットにサービス仕様を絞り込んだものがIMT-2000だ。現在、ITUという世界標準化機関で標準化が進んでおり、1999年版は完了している。

 IMT-2000の要求条件は大きく3つある。まず、最も重要な要求条件がグローバビィリィティーだ。これは現在の携帯電話の利用可能エリアが、各方式の導入エリアに限定されており、世界中で利用したいという要望に起因している。世界中で最も広く普及しているGSM方式はヨーロッパを中心にアジア、オセアニア、アメリカで導入されており、その範囲内ではほとんどローミングが可能だ。一方、現在日本で広く利用されているPDC方式は日本国内だけだ。日本で利用されているもう1つの方式であるcdmaOneはもう少し広くて韓国などでも利用できる。

 2つめの要求条件はパーソナリティだ。もともと携帯電話はパーソナルツールで、現状でも充分パーソナルだと思う。しかるに要求条件に入っている理由が分からない。それ故にこれと言った具体的な機能があげられていないのだろう。敢えて言えば、電話帳を始めとするパーソナル情報を保存可能なICカードの導入程度ぐらいだろう。このICカードはUIMと呼ばれている。UIMはUniversal Information Memoryの略だ。

 3つめは、マルチメディアへの対応だ。そのため、伝送速度は、室内での半静止状態/歩行程度の移動状態/自動車等を利用した高速移動状態で、それぞれ2Mbps/384kbps/144kbpsの実現が要求されている。ドコモは高速移動時でも384kbpsで提供すると言っている。信号の送り方としては、以下が規定されている。

・パケット

・マルチレート

・上下非対象

・マルチメディア

 ピンとこない読者も多いだろうから、今のiモードと比較してみよう。iモードが9600bpsのパケットでテキストとGIFしかサポートしていないのに対し、IMT-2000ではiモードの40倍の伝送速度を実現し、動画コンテンツにも対応すると言うことだ。HDTVを見るなどは不可能だが、TV会議を含めてかなりのことが可能だ。オイラの好きなフィッシングゲームの“釣りバカ気分”もグッとリアルになり、釣り上げた魚を見てヨダレがでてくるかもしれない。



■ 5つの標準方式

 さて、このように利用者の側に立って目標は掲げられたが、実用化に向けた標準化が進むうちにメーカや既存の事業者のエゴが出てきた。総論賛成、各論反対のようなものだ。結局、標準方式としては、1つに絞り込めず、次の5つの方式が認められてしまった。

【IMT-DS】
 W-CDMA(UTRA-FDD)と一般的に呼ばれ、日本・ヨーロッパが中心となって開発を進めている方式。

【IMT-MC】
 cdma-2000と一般的に呼ばれ、アメリカのQualcomn社を中心に開発を進めている方式。アメリカでの規格はTIA TR45.5だ。

【IMT-TC】

 UTRA-TDDと言う一般名称から分かるようにヨーロッパ勢が提案した規格だが、なぜか中国が押している方式。

【IMT-SC】

 UWC-136と呼ばれ、アメリカでの規格はTIA TR45.3だ。

【IMT-FT】

 PHSと類似のコンセプトのサービスであるDECTの発展系で、ヨーロッパの標準化団体であるETSIが規格化を進めている方式。

 実用化ということでは、W-CDMAとcdma2000がデファククトスタンダードを目指して駆け引きを繰り広げている。NHKのドキュメンタリー番組でW-CDMAをリードするERICSSONとcdma2000の推進役であるQUALCOMNの統一に向けた駆け引きが放送されていた。雑誌や新聞では日本、特にドコモがW-CDMAを推進してきたと書いてあったのに、日本の標準化団体の人が両者の仲介役でチョコッと出ていただけだ。マムには悪いが、やっぱり、世界をリードしているのはオイラの生まれ故郷のアメリカだ。

 IMT-2000の最も大きな目標であるグローバルモビリティー実現に向け、打ち合せは何度も行なわれたんだろうが、結局物別れになってしまったようだ。そこにもってきて、前回紹介したようにW-CDMAやcdma2000に加えて、GSMをベースとしたGPRSとその発展系であるHEDGEもIMT-2000のマーケットを狙っていることが分かった。こうなっては、IMT-2000の目標の1つであるグローバビリティーの実現は、遥か遠くにいってしまったと言わざるをえない。残された道は、ケータイメーカが複数方式に対応可能な端末を開発するしかないだろう。


3つの規格の覇権争い

 さて覇権をめぐって争っているW-CDMA/cdma2000/GPRS & HEDGEについて比較してみよう。W-CDMAはDS-CDMAと言って、3.75MHzの帯域を利用して当面384Mbpsを実現しようとしている。ATM交換機のように電話からマルチメディアまで1つのシステムの中で処理することにより、システムコストが下がるようなことを言っている。

 一方、cdma2000はMC-CDMAという方式で、同じCDMAと言ってもW-CDMAとは異なる。MCはMulti Carrierの略で、4.6MHz以下の帯域において1.25MHz帯域で3分割していることに由来している。当面、1.25MHzの帯域で144kbpsを実現するそうだ。それをMC-1xと呼んでいる。その後、3 carrier利用して2Mbps以上を実現するとしている。これをMC-3xと呼ぶそうだ。cdma2000陣営のリーダであるQUALCOMNは、音声通信やメール程度の利用をするユーザには384kbpsや2Mbpsもの高速伝送は不要であり、最大伝送速度を下げることにより、設備コストも携帯端末の消費電力も低下すると主張している。

 オイラのようなアメリカ産まれのにわか評論家にはQUALCOMNの言っていることの方が正しいように思えのだが……。またQUALCOMNはHigh Data Rateなる方式も提案している。これは、MC-1xと同じ1.25MHzの帯域で2Mbps(下り)以上の伝送を実現しようというものだ。技術的な根拠はよくわからないが、インターネットにチューニングしてシステムを開発すれば、常に2Mbpsの伝送を保証する必要がなく、条件が整ったときだけ2Mbpsを出すのは1.25MHzでも可能だという考えらしい。

 これは、インターネット網のラスト1マイルに使うことを前提にしているようだ。ここで気になるのが、インターネット網に無線機を接続するとして、どうやってルーティングするかだ。元々 、インターネットに移動端末に対するルーティング機能はない。ネットワークにぶらさがる端末が定常的に移動するなんて考慮されていない。そこで考えられた技術にMobile-IPがある。主張先の100Base-Tコネクタに持ってきたPCを接続しようということから考えられた技術だ。有線系をベースに考えられた技術を移動無線に利用しようとするといくつか疑問が残る。例えば、以下のような点だ。

・高速ゾーン切替は可能だろうか?

・そもそもホームとなる接続先があるのだろうか?

 HDRは適用領域をラスト1マイル通信と割り切ってしまっており、iモードユーザのようなモバイルユーザは対象外であれば、上記の問題は関係ないかもしれない。

 続いて、HEDGEについてだが、これは、W-CDMAおよびdma2000がCDMA系なのに対しTDMA方式だ。これは前回でも紹介したようにTDMA方式のGSMをベースに開発しようというところから来ている。9600bpsのGSMからHEDGEまでの道程はおおよそ次のようなストーリーだ。

Step 1:GSM:9600bps(回線交換)
Step 2:HSCSD:57.6kbbs(回線交換)
複数のスロットを1つの通信に割り当てることにより、高速化を実現
Step 3:GPRS:115.2kbps(パケット交換)
符合圧縮により1スロット当たりの伝送速度を14.4kbps化した上で8スロット全てを利用することにより14.4kbps x 8=115.2kbpsを実現する。
Step 4:HEDGE:384kbps(パケット交換)
変調方式をGMSKから8PSK化することにより384kbps化を図る。


 GPRS化まではなんとか理解できるのだが、HEDGEについては理解できない。クールなオイラが前回に引き続いて同じことを言うのは気が進まないが、8PSK化だけではGPRSの3倍の345.6kbpsしかならない。384kbpsにするためには、もともと冗長度の高いGSMの通信プロトコルを簡略化するか、より圧縮率の高い符合方式を導入するか、等を考えているのだろう。

 現段階では、いずれの方式も最大384kbpsの回線交換およびパケット交換をサポートすると言うアナウンスと実験システムの報告だけで、まだ商用サービスが始まっていない。このような状況では、いずれが優れているか言うのは難しい。実用化ということでは、W-CDMAが一歩リードしており、来年の5月にサービス開始すると言っている。


IMT-2000導入で、どんなサービスが登場するか

 さて、次なる興味は、このIMT-2000のサービス導入でどのような新たなサービスが登場するかだ。2010年の夢トリップでは非常にリアルなオンラインゲームやビデオ・オン・デマンド、秘書サービスなどがあったが、2001年ではどうなるだろうか?

 サービスを考えるにあたっては、技術面での性能だけでなく、料金も問題になる。PHSより安くならないとの噂もある。伝送速度が速くなっても、Byte当たりの料金が安くならないと片手落ちだ。公開されている情報と色々な噂をつな ぎあわせると、IMT-2000はIDO/DDIのPacketOneの速度を6倍にしただけのサービスと思える。さて、そのPacketOneを見る限り、高速パケットという特徴を生かしたサービスは見当たらない。

長年モバイルマルチメディアに関わってきたオイラの経験からすると、利用イメージとしては以下のようなところが予想される。

  • TV会議やTV電話としては、ほとんど使われない。

  • 動画系では、アニメを多用したオンラインゲーム、落語のようにMPEG4にすると極めて伝送情報が少ないコンテンツの配信等に限定。動画によるモニターもいいかもしれない。問題があった時意外は、ほとんど変化がなく、MPEG-4向きだ。

  • 静止画は、イラストの配信だけでなく、各種モニターとしての利用やオークション等に幅広く利用。

  • 少しコンテンツがリッチになったiモード的サービス

  • 音楽配信は通信料金しだいだが、CDをそのままと言うより、ライブ録音やアルバムに入りきらなかった曲が中心

  • ITSへの利用


 新聞や雑誌で騒がれているようにケータイがドラエモンのポケットになるわけではないが、そこそこ面白いサービスが出てくるのではなかろうか?



(Felix Mobile)
2000/08/31 00:00

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