俺のケータイ of the Year
法林岳之が選ぶ「俺のケータイ of the Year 2015」
法林岳之が選ぶ「俺のケータイ of the Year 2015」
新テクノロジー、MVNO、Windows Phone――2015年のトレンドを総ざらい
(2015/12/28 12:41)
毎年、年末に公開してきたケータイ Watchの「俺のケータイ of the Year」。今年は「読者が選ぶケータイ of the Year」のみが公開されることになったが、ここでは筆者が個人的に選んだ「俺のケータイ of the Year」について、説明しよう。
完成度が高められたスマートフォンだが……
2015年のモバイル業界は、昨年の「俺のケータイ of the Year」で筆者が『転換期』とした2014年を受け、新しい潮流が見えてきた一年だった。
業界全体の動きで見ると、昨年に引き続き、MVNO各社の競争が激しさを増す一方、各携帯電話事業者も2014年のかけ放題プランの2700円という料金設定が「高い」という指摘を受け、auが今年9月に月額1700円の「ライトプラン」を導入した。競合他社も追随したが、9月からスタートした総務省の携帯電話料金のタスクフォースによって、今後の業界動向が不透明になってきた感は否めない。月々の料金が安くなることは誰にもとっても望ましいことだが、「1GBプラン導入」などという根本的な勘どころを間違ったまま、議論が進められてしまった有識者会議と総務省に対する不信感が募るばかりだ。
一方、端末そのものに目を移すと、スマートフォンでは今までにない斬新なコンセプトのモデルを見かけることが少なくなり、基本的には既定路線の進化に留まった印象が強い。外見では4月に国内で販売が開始された「Galaxy S6 edge」のデュアルエッジスクリーンが目を引いたが、基本的には2014年のGALAXY Note Edgeのエッジスクリーンの流れをくむものであり、期待されたGalaxy Note 5の国内投入が見送られるなど、ちょっと残念な印象が残った。
少し変わったところでは、NTTドコモの富士通製スマートフォン「ARROWS NX F-04G」に搭載された虹彩認証が目を引いた。これまでにも生体認証を搭載する端末は数多く登場し、なかでも富士通はフィーチャーフォン時代から指紋認証センサーを搭載し、生体認証に積極的に取り組んできたが、7月に登場したWindows 10でも「Windows Hello」がサポートされ、今後、生体認証がひとつの標準機能になりそうな印象を持った。
メカニズム的に面白かったのはiPhone 6s/6s Plusに搭載された「3D Touch」が挙げられるが、サードパーティのアプリも含め、まだ十分に機能を活かしているとはいいにくい状況で、来年以降の進化が期待される。ファーウェイが9月、グローバル向けに発表した「Mate S」ではiPhone 6s/6s Plusに先駆けて、ディスプレイに圧力センサー(感圧センサー)を搭載し、ディスプレイに載せた個体の重さを量るという機能を実現したが、残念ながら、日本向けに投入されるMate Sには搭載されなかった。前述のGalaxy Note 5とも共通する話だが、今年は日本市場にグローバル向けのフラッグシップモデルが投入されないケースが散見される一年だったとも言える。
また、今年のスマートフォンを語るうえで、パフォーマンスと実用性のバランスも気になるテーマのひとつだった。たとえば、2015年夏モデルでは一部の機種において高負荷時の発熱が話題になったが、同じチップセットを搭載しながら、機種ごとで発熱に差があったり、パフォーマンスにも差が出てしまったりしていた。ユーザーとして冷静に考えなければならないのは、ベンチマークテストの最高値を体験するために、スマートフォンを利用しているのではなく、スマートフォンをいろいろな便利な用途に活用することが本来の目的であるはず。かつてのパソコンの『ベンチマーク至上主義』的な流れを踏襲してしまい、逆にスマートフォンがヘンな方向に進まないことを祈るばかりだ。
動き出すもうひとつの選択肢
改めて説明するまでもなく、この7~8年、国内のモバイル業界はスマートフォンを中心に展開してきた。各携帯電話事業者のラインアップしかり、料金プランしかり、サービスしかり、すべての主役はスマートフォンが担ってきたと言っても過言ではない。ただ、日本人(日本の一般メディア?)の悪いクセなのか、どうも対立構図や一極集中を招くような流れができてしまい、異なる選択肢がなかなかクローズアップされない印象がある。
そんな中、今年は意外に「もうひとつの選択肢」が見えた一年だったとも言えそうだ。たとえば、スマートフォンのプラットフォームで言えば、これまで「iOS(iPhone/iPad) vs Android」という構図ができあがり、スマートフォンでは事実上、そのどちらかしか選ぶことができなかったが、今年6月、マウスコンピューターからWindows Phone 8.1を搭載した「MADOSMA」が発売され、スマートフォンにWindowsプラットフォームという新しい選択肢が加わった。今年7月にはWindows 10がリリースされたのを機に、ドスパラでおなじみのサードウェーブデジノスや、FREETELなどが相次いで対応端末を発表し、本格的なオリジナルのWindows 10 mobile端末として、トリニティの「NuAns Neo」も大きな話題となった。Windows 10 mobileについては、法人向け需要が顕著だと言われ、パーソナルユースではまだ未知数という指摘が多いが、Windows 10 mobileのContimuumをはじめとする機能は、意外に一般ユーザーにもウケが良いとされており、対応端末だけでなく、コンテンツやサービスなどが充実してくれば、来年以降、モバイル業界の台風の目になる可能性を秘めている。
注目集めた、2015年のMVNO
また、昨年来の継続した流れとして、ユーザーが契約する事業者として「MVNO」という選択肢が一段とクローズアップされた。前述の携帯電話料金タスクフォースでも取り上げられ、注目を集めたが、当初、指摘されていたサポートの弱さ、ブランド力のなさ、物足りない端末ラインアップ、MVNO各社の差別化の難しさなどが徐々に改善され、今後の展開次第では市場へさらに浸透しそうな勢いだ。ただ、総務省の携帯電話料金タスクフォースの動きを受け、各携帯電話会社があまり割安な料金プランを提示してしまうと、MVNO各社の息の根を止めてしまいかねない。そのあたりの動きは今後も注目される。
MVNO各社の動向では、単に大手キャリアよりも割安な料金プランを提案するのではなく、MVNO各社なりの個性がある独自プランを生み出してきたところは期待できる。たとえば、U-mobileが提供するUSENの音楽配信サービスをセットにした「USEN MUSIC SIM」など、コンテンツサービスをセットにしたサービスも面白い動きだし、なかでもJ:COMが提供する「J:COM MOBILE」は、J:COM TVで視聴するコンテンツをデータ通信料無料で視聴できるというサービスを実現しており、業界に大きなインパクトを与えた。端末もユーザー層を考慮し、従来のフォーチャーフォンと同じ折りたたみデザインのAndroidスマートフォンとして開発されたLGエレクトロニクス製「Wine Smart」が提供されており、はじめてのユーザーでも利用しやすい環境を整えている。来年以降はこうしたコンテンツサービスなどをセットにしたMVNOサービスが本格的に注目を集めることもあるだろう。
逆に、MVNOサービスで少し疑問が残ったのが通信品質の問題だ。MVNO各社が月々の料金と利用可能なデータ通信量で競争していることは望ましいのだが、大手キャリアとどの程度の帯域を契約しているのかはわからないうえ、ユーザー数もわからないため、低価格を売りにするMVNO各社の通信品質がまったく見えてこない。もちろん、ユーザーによる評価などで感じ取れる部分もあるが、本来、無線通信は水物であり、「先月は昼休みも快適だったけど、今月は遅くて、使い物にならない」といったことが起こり得る。本来、総務省と有識者会議はこういうところに目を向けて、消費者が選びやすい指針なり、MVNOに対するガイドラインを示すべきなのだが、どうもそのあたりは考えていないようだ。来年以降もMVNOのサービスはさらに拡がる可能性があるが、こうした問題が今まで以上に顕在化するようであれば、MVNOは厳しい道を辿ることになるかもしれない。
「もうひとつの選択肢」
さて、最後に端末についての「もうひとつの選択肢」を挙げておきたい。くり返しになるが、前述のように、国内のモバイル業界はここ7~8年、スマートフォンを中心に展開されてきた。ただ、それでも国内のスマートフォンの普及率は50%を超えたところで、まだ40%以上はフィーチャーフォンが残っている計算になる。諸外国ではスマートフォンの普及率が60~70%を超えているところもたくさんあるが、残念ながら、日本は遅れを取っている格好だ。ただ、「日本が遅れている」という解釈は必ずしも正しくなく、どちらかと言えば、「必要としない人も多い」というのが正解に近いのではないだろうか。改めて説明するまでもなく、国内は諸外国に比べ、iモードをはじめとするモバイルインターネットが広く普及し、ワンセグやおサイフケータイなどの独自サービスも市場に定着した。海外でも携帯電話で公共交通機関を利用できるサービスは存在するが、モバイルSuicaのように、わずか数秒で何人もの利用者が改札を通過できるシステムは数えるほどしかないはずだ。
ただ、こうして隆盛を極めてきた日本のフィーチャーフォンを中心としたモバイルインターネットの世界もいよいよ端末の開発や製造、保守などが難しい時代に入りつつある。今年9月、NTTドコモは2015~2016冬春モデルを発表し、そこに1年ぶりのiモード端末「P-01H」をラインアップしたが、もしかすると、これは最後のiモード端末になるかもしれないと言われている。なぜなら、すでにiモード端末で利用できるチップセットは、ほとんどのメーカーが製造を終了しており、実質的にパナソニックの「UniPhier(ユニフィエ)」しか選択肢がない状況になっている。そのため、おそらく最後までiモード端末を製造し続けられるのはパナソニックのみということになりそうだ。
そして、こうしたフィーチャーフォンの開発や製造、保守が難しくなってきた状況に対し、ひとつの解として提示されたのが今年1月に発表されたauの「AQUOS K SHF31」だ。2015年の「俺のケータイ of the Year」には、このAQUOS K SHF31を選びたい。
「AQUOS K SHF31」については、すでに本誌でも何度となく、取り上げられてきたが、Androidをベースにしたプラットフォームを採用しながら、基本的なユーザーインターフェイスを既存のフィーチャーフォンに準拠させ、LINEをはじめとするアプリなど、スマートフォンユーザーとのコミュニケーションに欠かせないアプリを別途、インストールできるようにするなど、スマートフォンのいいところを取り込みながら開発された新世代のフィーチャーフォンとして仕上げられている。NTTドコモとソフトバンクも同様のモデルを発売したが、LTEやWi-Fiに非対応であるなど、既存のフィーチャーフォンの再現でしかなく、あまり工夫を感じられない。その点、「AQUOS K SHF31」はLTE、Wi-Fi、テザリングに対応する「前向き」の進化を遂げている点が高く評価できる。今年5月に発表された後継モデル「AQUOS K SHF32」ではVoLTEにも対応し、本来、意図された仕様に進化を遂げることもできた。惜しむらくは発表当時、一部の関係者から「ガラホ」などという意味不明の言葉が冠せられてしまい、本来の製品の存在意義や目的が不透明になってしまった点だろう。
転換期と言われた2014年を経て、2015年は新しい動きや取り組みが少しずつ見えてきた一年だった。最後に、総務省の携帯電話料金タスクフォースで、水を差された感は否めないが、2016年以降もリーズナブルな料金、ユニークな端末、楽しいサービスで、モバイル業界が一段と面白くなってくることを期待したい。