レビュー
「iPad mini Retina」ファーストインプレッション
「iPad mini Retina」ファーストインプレッション
性能強化で死角のなくなった新iPad mini
(2013/11/15 20:32)
11月14日、アップルから「iPad mini Retinaディスプレイモデル」が発売された。事前に発表会で製品自体はお披露目されていたが、いつものiPhone/iPadのような「来るぞ来るぞ……発売!」というようなローンチではなく、気がつけば発売、というような静かなローンチだった。
とはいえ、さすがにiPadの新製品だけあって、「いつでも購入できます」というわけにはいかなかった。11月14日時点では、実店舗のアップルストアではWebから予約した人にしか販売されず、量販店でもモデルによっては在庫が瞬時に完売という状態だった。オンラインのアップルストアは5~10営業日で出荷になっているので、Wi-Fiモデルを購入するにはそちらが確実かもしれない。
筆者は「iPad mini Retinaディスプレイモデル」のau版32GB(シルバー)を購入したので、今回はこちらを基本に、ファーストインプレッションをお届けする。
サイズはほぼ従来機種と同じ。少しだけ重たく
「iPad mini Retinaディスプレイモデル」は従来のiPad miniと同じく、7.9インチのディスプレイを搭載している。解像度は4倍の1536×2048ドットになったが、ディスプレイサイズ自体は従来のiPad miniと同じだ。ディスプレイのサイズだけでなく、本体の長さと幅は200×134.7mmで、まったく同じである。
厚みは7.2mm→7.5mmと若干増しているが、比べてみてもほとんど違いはわからない。ケースなどの周辺機器も、そのまま流用できるものも多いだろう。「風呂のフタっぽい」でおなじみの純正のSmart Coverも、従来製品がそのまま利用できている。
一方で、重さはWi-Fiモデルで308g→331g、Wi-Fi+Cellularモデルで312g→341gと1割近く増加している。これも微妙な差で、手にとってじっくり比べてみないとわからないレベルだが、手に持ったまま長時間利用した時には影響はありそうだ。
幅が変わっていないので、従来のiPad miniと同様に、(少なくとも筆者の手では)左右の端を掴むことができる。iPadの重心を支えつつしっかりと掴めるので、立ったまま、あるいは座っているとき、寝ながら、などなど、あらゆる姿勢で快適に利用できる。ここが「iPad Air」など額縁部分を掴むしかない10インチクラスのタブレットと大きく異なるポイントだ。もちろん「iPad mini Retinaディスプレイモデル」も、額縁部分を掴んで使うこともできる。
ちなみに手に持った状態だと、ホームボタンを押すとき、掴んでいる手に負担がかかりやすいが、「マルチタスク用ジェスチャ」の設定がオンになっていれば、マルチタッチでホーム画面表示やタスクスイッチができるようになり、ホームボタンを押す必要がなくなる。iPadシリーズを使いこなすうえで必ず覚えておきたい操作方法だ。
ディスプレイサイズの違いで利用シーンが大きく変わる
ディスプレイの解像度は、「iPad Air」と同じ1536×2048ドットとなっている。従来のiPad miniと比べると、解像度は縦横2倍ずつの4倍だ。従来のiPad miniだと、さまざまな場面で文字などがにじんで見えたが、「iPad mini Retinaディスプレイモデル」だと、そういったことがまったくない。従来のiPad miniで表示に不満を感じていたわけではないが、今回のRetinaディスプレイになってみると、Webページや電子書籍で文字が美しく見えることが心地よく感じられる。
「iPad Air」と比べると、解像度はそのままに、サイズだけ9.7インチから7.9インチに縮小した形になる。面積でいうと約66%に縮小された形だ。だいぶ大きさが違うが、従来のiPad mini同様、アプリは基本的にiPadと完全互換になる。
iPadシリーズのディスプレイの縦横比は4:3(1.333:1)で、一部のノートパソコンやスマートフォン、Androidタブレットで一般的になっている16:9(1.778:1)よりも正方形に近い。iPadの比率は16:9の動画を見るには不利だが、印刷物で一般的な「白銀比」(1.414:1)に近いため、電子書籍との相性は良い。
「iPad mini Retinaディスプレイモデル」くらいのディスプレイのサイズだと、卓上に置いたまま使うとき、コンテンツによっては拡大しないと見づらいことがある。たとえばPC向けのWebサイトは、9.7インチディスプレイの「iPad Air」なら拡大しないでも自然に使えるが、「iPad mini Retinaディスプレイモデル」だと、ちょっとだけ拡大したいかな、と感じることが多い。
電子書籍の漫画は、見開きで2ページを表示させると、「iPad mini Retinaディスプレイモデル」ではちょっと小さく感じられるので、1ページずつ表示させたくなる。一方の「iPad Air」だと、見開き2ページでの表示でも快適に読める。
しかし「iPad mini Retinaディスプレイモデル」だと、卓上でも片手・両手で持ち上げ、スマートフォンのように顔面に近づけて利用するスタイルでも苦になりにくい。コンテンツの拡大・縮小と合わせ、顔面との距離を調整すれば、柔軟にコンテンツを楽しむことが可能だ。
「iPad Air」と「iPad mini Retinaディスプレイモデル」は、アプリが完全互換となっている。UIなどの表示も、「iPad mini Retinaディスプレイモデル」では約66%に縮小されてしまうので、それなりに顔面に近づけないと、UIなどが小さく感じられることも多い。
見え方だけでなく、操作面でも気をつける必要がある。ボタンなどのUIは、「iPad mini Retinaディスプレイモデル」でも問題ないサイズだが、手描き操作では、画面の大きな「iPad Air」の方がより細かい描写が可能になる。手描きアプリを多用する人は、「iPad Air」の方が有利と言えるだろう。
性能は大幅向上
「iPad mini Retinaディスプレイモデル」は、プロセッサーには「iPad Air」やiPhone 5sと同じ「A7」を搭載している。従来のiPad miniは、iPad 2と同じ「A5」を搭載していたので、それに比べると大きな進化である。
従来のiPad miniに比べると、プロセッサーの違いによる処理能力の違いはいろいろな場面で体感できる。現状のアプリ環境では、処理速度にストレスを感じることはほとんどないだろう。高解像度化が注目されがちだが、プロセッサーの強化もユーザーへの恩恵が大きい。
バッテリーの容量は従来モデルの16.3Wh(約4400mAh相当)→23.8Wh(約6400mAh相当)へと一気に増加した。しかし、カタログ上では従来と同じく、「ビデオ再生で最大10時間」と表現されている。Retinaディスプレイ化による消費電力の増加を、バッテリー容量増加によって補っているということだろう。これが重量増加の最大の原因と考えられる。
9.7インチのiPadでも、iPad 2からiPad Retinaディスプレイモデルになるとき、バッテリー容量と重量(601g→652g)が増加している。「iPad Air」で再び軽量化したので、iPad miniも将来的には小型・軽量化はあり得るが、個人的にはそれにはまだ時間がかかると予測している。
インターフェイス系は従来のiPad miniとほぼ同等で、Lightningコネクターを採用している。iPadシリーズなので、Lightning - SDカードカメラリーダーなども利用可能だ。Wi-FiはIEEE802.11a/b/g/nのみで、11acには対応しないが、新たにMIMOに対応している。このあたりの仕様も「iPad Air」と変わらない。
16~128GBモデル・2色・Wi-Fi版とセルラー版
「iPad mini Retinaディスプレイモデル」は、カラーはスペースグレイとシルバーの2種類で、容量は4種類(16/32/64/128GB)が用意されている。それぞれWi-FiモデルとWi-Fi+Cellularモデルがラインナップされ、Wi-Fi+Cellularモデルはau版とソフトバンク版がある。iPhone 5s/5cと異なり、11月14日の時点ではNTTドコモ版は存在しない(iPad Airも同様)。
価格は16GBのWi-Fiモデルが4万1900円で、容量が増えるごとに約1万円ずつ高くなっていく。Wi-Fi+Cellularモデルはさらに約1万4000円のプラスだ。Wi-Fi+Cellularモデルは通信料金も必要になるが、両キャリアともに同一キャリアのスマートフォンとのセット割引や、利用しない月の料金がユニバーサルサービス料のみになる段階定額プランなどを提供している。
「iPad mini Retinaディスプレイモデル」はコンパクトなので、持ち歩く機会も多い。テザリング対応のスマートフォンやモバイルWi-Fiルーターを持っているならば、あえてWi-Fi+Cellularモデルを選ぶメリットは大きくないが、iPadで常時プッシュ通知を受けたいなら、選ぶ価値があるだろう。また、Wi-Fi+Cellularモデルはテザリングができるので、iPad自体をモバイルWi-Fiルーター代わりに活用する手もある。
従来のiPadと同様、Wi-Fi+Cellularモデルは国内限定のSIMロックで、海外では現地のSIMカードを利用できる、ということだ。購入直後のため海外に持ち出して試してはいないが、国内で海外のプリペイドSIMカード(アメリカのT-Mobile、イギリスの3、スペインのmovistar)を挿したところ、SIMカードを認識し、データ通信に必要なAPNが自動設定されたり、オンライン手続きに必要な画面が表示されたりした。余談だが、iPadやiPhoneは世界中でほぼ同じ仕様で売られているので、海外のケータイショップの店頭で実物を見せて、「プリペイド プリーズ!」と言えば何となくわかってもらえることも多い。
ストレージ容量については、購入時に迷ったとき、個人的には32GBをおすすめしたい。32GBあれば、無料化されたアップル純正の大物アプリ群を入れても、まだそれなりに余裕がある。ただし動画や自炊の電子書籍、写真などを大量にストレージに保存して使うならば、128GBを選んでおこう。
iPad mini Retinaディスプレイモデルなら「小が大を兼ねる」
「iPad mini Retinaディスプレイモデル」は、Retinaディスプレイを搭載するだけでなく、プロセッサーなどのスペックも9.7インチの「iPad Air」と横並びとなった。「iPad Air」と「iPad mini Retinaディスプレイモデル」の違いは、もはやディスプレイと本体のサイズ違いだけと言える。しかしサイズの違いが、適応する利用シーンの決定的な違いとなっている。
「iPad Air」のファーストインプレッション記事でも書いたが、電車などで立ったまま使う機会が多いならば、「iPad mini Retinaディスプレイモデル」がおすすめだ。「iPad Air」との重量差は140g弱だが、本体サイズの違いから、とくに片手での持ちやすさに決定的な違いがある。
「電車ではスマートフォン」「自宅やオフィスではタブレット」と使い分けをするならば、「iPad Air」もおすすめだ。もちろん、「iPad mini Retinaディスプレイモデル」でも同様に使い分けられるが、卓上や座った状態での利用ならば、ディスプレイの大きな「iPad Air」の方が快適なことが多い。そしてカバンに入れるならば、「iPad Air」は十分に薄型・軽量なので、持ち運びの面でも大きな差はない。
しかしカバン以外での持ち運び時は、「iPad mini Retinaディスプレイモデル」のサイズがカギとなることがある。「iPad mini Retinaディスプレイモデル」のサイズだと、コートのポケットやA4書類が入らないポーチでも、持ち運びしやすい。「iPad Air」では無理な場面でも「iPad mini Retinaディスプレイモデル」ならば使える、これは大きなポイントだ。
従来から大幅に薄型・軽量化した「iPad Air」も魅力的だが、性能が向上した「iPad mini Retinaディスプレイモデル」もやはり魅力的だ。どちらが良いかは、ユーザーの利用スタイル次第としか言いようがない。利用シーンを想像して、自分に合ったモデルを選択して欲しい。
ただ個人的には、迷うようならば、「iPad mini Retinaディスプレイモデル」を選べば良いんじゃないかな、とも思っている。ディスプレイの小ささは、コンテンツを拡大したり、顔面に近づけたりすることで簡単に補える。しかしサイズの小ささによる持ちやすさ、持ち運びしやすさを使い方で補うことは難しい。小が大を兼ねることだってある、という考えだ。あくまで個人的な意見だが、iPad選びの参考にしていただければ幸いである。