レビュー

「iPad Air」ファーストインプレッション

「iPad Air」ファーストインプレッション

薄く、軽く、速くなって魅力アップ

 10月23日、アップルは「iPad Air」と「iPad mini Retinaディスプレイモデル」の2モデルの新iPadを発表した。iPad Airは新たな製品名だが、従来のiPadのコンセプトを踏襲する後継モデルだ。一方、iPad mini Retinaディスプレイモデルは、名前の通り、高解像度ディスプレイを搭載したiPad miniである。今年のiPadシリーズも2モデルを中心に展開するというわけだ。

 iPad mini Retinaディスプレイモデルは、11月後半に発売予定と、若干発売タイミングがずれているが、iPad Airは11月1日に発売された。今回はそのiPad Airについて、ファーストインプレッションをお届けする。

薄く軽くなったデザイン

横幅比較。iPad Airは液晶額縁がだいぶ小さくなっている

 「iPad Air」は従来のiPadと同じ、9.7インチのディスプレイを搭載する。解像度は1536×2048ドット、アップルが称するところの「Retinaディスプレイ」で、これも変わりはない。

 従来のiPadと比べると、より薄く、軽くなった。昨秋発売のiPad(第4世代)から、重さは652g→469g(いずれもWi-Fi版)に、厚みは9.4mm→7.5mmになった。

 さらに液晶左右の額縁が細くなり、サイズも小型化。もちろん片手で左右の端をつかむのは難しいので、従来通り、額縁部分を握って使うのが、通常の“立ったまま利用”のスタイルと言えるだろう。

iPad Air。このように持てる
iPad miniくらいのサイズだと、このように左右端をつかめる
従来のiPad(左)とiPad Air(右)。従来のiPadもあまり厚みを感じさせないデザインだった

重さ、サイズから見た利用シーンの違い

 「iPad Air」は、従来モデルから約200g、つまり3割ほど軽くなった。手で持った印象も、軽量化を実感できる。縦長の状態で片手で持つと、人差し指や中指が本体中央あたりまで届き、重さを支えやすく、手への負担も小さく、電車内でも使いやすいのではないだろうか。ただ個人的には、持ち上げたまま、ずっと長く使う、というのはちょっと想像しづらい。読書や動画鑑賞など、長時間利用するときは、卓上や膝の上で使いたい。

16:9の画面の例(レノボ製ThinkPad Tablet 2)。Webページを縦表示すると、小さめに表示される

 画面のサイズや解像度は、第3世代と第4世代のiPad Retinaディスプレイモデルと同じ。ちなみにiPadシリーズの画面の縦横比は4:3(1.333:1)で。スマホやAndroidタブレットで一般的な16:9(1.778:1)の画面よりも正方形に近い。16:9の映像を見る分には不利だが、電子書籍やWebブラウジングでは、iPadの画面比率の方が見やすいことも多い。とくに印刷物で一般的な「白銀比」(1.414:1)に画面比率が近いので、漫画や雑誌など、紙のレイアウトに近い形で楽しむ電子書籍との相性が良い。

iPad mini(上)とiPad Air(下)。

 兄弟機である「iPad mini」の画面サイズ(7.9インチ)では、漫画は1ページずつ、雑誌は拡大しながら読むのに適している。一方、「iPad Air」の画面サイズ(9.7インチ)ならば、漫画は見開きで2ページずつ、雑誌はあまり拡大せずに読める。

新プロセッサでサクサク感が向上

ボタン類の種類・配置は従来のiPadと同じだが、デザインは若干変わっている

 ハードウェアのスペックについては、例によって、あまり詳細が公開されていない。ただ、プロセッサはiPhone 5sと同じ「A7」だ。クロックスピードなどは明らかになっていないが、「CPUの速度とグラフィックパフォーマンスは最大2倍」と紹介されている。

 筆者は普段、iPad miniを愛用しているが、比べてみると、プロセッサが3世代も違うこともあって、パフォーマンス向上を強く実感できる。文字入力時の予測候補の表示、WebサイトやPDFの表示など、さまざまな場面で「軽快になった」と感じられる。ちなみに11月後半発売予定のiPad mini RetinaディスプレイモデルもA7を搭載しており、同様の快適さが味わえるのではないか、と期待している。

Lightningコネクタを採用。ちなみにスピーカーも改善されている

 第4世代のiPadと比較すると、バッテリー容量は、42.5Wh(約11000mAh相当)→32.4Wh(約8700mAh相当)と約24%ほど減っている。このあたりが薄型化・軽量化の秘密なのだろう。一方でバッテリーの持ちは、従来モデルと同様に「Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生で最大10時間」となっているので、バッテリー効率は大幅に向上しているようだ。

 インターフェイス系は第4世代のiPadと同等で、Lightningコネクタを採用している。Wi-FiはIEEE802.11a/b/g/nのみで、11acには対応しないが、新たにMIMOに対応している。iPhone 5sで搭載されたTouch ID(指紋認証センサ)がないのは、ちょっと残念だ。

アップル純正のiPad Air Smart Cover。このようにスタンドとしても使える

 auとソフトバンクのWi-Fi+Cellularモデルは、それぞれのネットワークの3GとLTEネットワークを利用可能だ。対応周波数はiPhone 5s/5cと同じで、auの800MHz帯やソフトバンクの900MHz帯(2014年利用開始予定)にも対応している。ちなみに対応周波数の違う5モデルが存在するiPhone 5s/5cと異なり、iPad Air(とiPad mini Retinaディスプレイモデル)は全世界を1モデルで展開する。

 なお、サイズが変わっているため、従来のiPad向けのケースなどは利用できない。「風呂のフタっぽい」でおなじみのSmart Coverも、iPad Air用の製品が発売されている。ちなみにiPad Air Smart Coverの重さは実測で約104gだった。決して軽くはないが、装着しても旧iPadより軽いのはなかなかありがたい。

モデルラインアップは従来と同じ

iPad Air(Wi-Fiモデル)のスペースグレイ。従来のカラーよりグレイ寄りになっている

 iPad Airは、カラーはスペースグレイとシルバーの2種類で、容量は4種類(16/32/64/128GB)が用意されている。また、それぞれWi-FiモデルとWi-Fi+Cellularモデルがラインアップされ、Wi-Fi+Cellularモデルはau版とソフトバンク版がある。iPhone 5s/5cと異なり、11月1日時点でNTTドコモからは販売されていない。

 価格はWi-Fiモデルが5万1800円~で、容量が増えるごとに1万円ずつ高くなる。Wi-Fi+Cellularモデルはさらに1万4000円のプラス。もちろんWi-Fi+Cellularモデルは月々の利用料金も必要だが、同一キャリアのスマートフォンユーザー向けの割引プランもある。

 もしテザリング対応のスマートフォンやモバイルWi-Fiルーターを持っているのであれば、あえてWi-Fi+Celluar版を選ぶメリットを見出すのは難しいかもしれない。ただ、Wi-Fi+Cellularモデルであれば、外出先でも常にインターネットに接続し、各種アプリのプッシュ通知を受けられる。ここは利用スタイルによっては大きな違いとなるところ。スマートフォンでの使い方も踏まえつつ、Wi-Fi版で十分という人もいるだろうし、Wi-Fi+Celluar版ならではの利便性を求める人もいるだろう。

「Air」か「mini」か、悩ましい選択肢

 薄型化・小型化とプロセッサの性能向上など、「iPad Air」は、従来モデルから大きく進化した。10インチクラスのタブレットが欲しい人には、非常に魅力的な製品に仕上がっている。AndroidタブレットやWindowsタブレットに比べると、iPadシリーズでは、タブレットに最適化されたアプリが多く存在する、という点も魅力の1つだ。

iPad mini(上)とiPad Air(下)。サイズの違いが適応する利用シーンの違いになっている

 しかし、同時に発表された「iPad mini Retinaディスプレイモデル」と比べて、どちらを選ぶべきか、かなり悩ましい。

 個人的には、電車での利用など、立ったまま使う機会が多いならば、iPad mini Retinaディスプレイモデルをお勧めしたい。カタログスペックを見ると、iPad Airの469gとiPad mini Retinaディスプレイモデルの331g(従来のiPad miniより重い)は、130gの違いとなっているが、ディスプレイサイズが異なり、本体サイズも違うことから、持ちやすさの面で明らかな違いがある。仮に同程度の重さであったとしても、より小さい方が断然持ちやすいだろう。

 しかし、「電車ではスマートフォン」「自宅やオフィスなどではタブレット」と使い分けをすると、iPad Airのサイズ感は非常に使いやすい。iPad Airの大きさもカバンに入れて持ち運びする分には、まったく問題ない。カバンを持つ手や肩への負担も、従来モデルよりも軽減する。

 「大は小を兼ねる」という言葉はあるものの、「iPad Air」と「iPad mini Retinaディスプレイモデル」のどちらが良いかは、ユーザー1人1人の利用スタイルによる、としか言いようがない。実際に使ってみないと自分に適したスタイルもわかりにくいところだが、ディスプレイサイズの違いからくる操作感や見やすさ、手にし続けたときの印象など、店頭で慎重に感じながら、自分にあったモデルを選んで欲しい。

白根 雅彦