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KDDI研、LTE-Advancedに向けた技術などを披露
(2013/5/23 20:55)
KDDIとKDDI研究所は、報道関係者向けにKDDI研究所が手がける最新技術を公開した。次世代通信方式「LTE-Advanced」に向けた新技術や、AR(拡張現実)関連での画像認識技術などが紹介された。
KDDIの研究開発拠点は、今回公開された埼玉県ふじみ野市にある施設のほかにも、神奈川県横須賀市、そして都内の本社にある。
もともとは国際電信電話(KDDI)の研究部として発足し、その後目黒に移転したという同研究所は、1987年からふじみ野市に本拠を構える。このふじみ野市の施設は、かつて短波送信所内の運動場という場所だったという。2001年には京セラDDI未来通信研究所と合併して、現在のKDDI研究所となった。
さらなる高速通信に向けた「Advanced-MIMO」
現在、国内のモバイル通信サービスでは、LTEと呼ばれる方式が各社で採用されている。これに続く次世代の通信方式は「LTE-Advanced」と呼ばれ、現在のLTEよりさらに高速なスピードが実現する見込みだ。
その高速通信を実現するためには、今はまだ実用化されていない新技術を取り込むことになる。その1つとして、今回、報道関係者向けにKDDI研究所から公開されたのは「Advanced MIMO」というもの。MIMO(Multi-Input/Multi-Output)とは、複数のアンテナを使うことで、1つのアンテナでの通信よりもスピードアップする技術。家庭内など、ごく限られたエリアで使うWi-Fiと、パワフルなノートパソコンといった組み合わせでは実用化されている技術だが、スマートフォンと街中の基地局、というケースでも今後、普及が見込まれる技術でもある。
KDDI研究所の提唱するAdvanced MIMOとは、その名の通り、高度化したMIMOのこと。現在のLTEでは、2×2(基地局と端末にアンテナが2つずつ)という形だが、今回披露されたAdvanced-MIMOでは、基地局は4つの端末と同時に通信できる。
この場合、近いエリアにいるAさんの端末とBさんの端末には、それぞれ基地局から電波を集中して送信する。いわゆるビームフォーミングと呼ばれる技術だが、これを行うには端末の状況を基地局側で把握しておく必要がある。端末側からは電波環境などを基地局へ通知することになるが、何も工夫せず送信すると上り通信のトラフィックが一杯になってしまうため現実的ではない。そこでKDDI研究所では、端末から基地局へのフィードバックのデータを圧縮する手法を採用。今回の新技術は、この圧縮する部分が肝、とのことだが、その詳細は明らかにされていない。
これにより、周波数利用効率がLTEの3倍になるとKDDIでは説明。LTEでは、1Hzあたりの通信速度が7.5bps(bit per socond)で、これまでの既存の手法では1Hzあたり10bpsだが、Advanced MIMOでは20bpsになるという。これは通信速度にすると、100MHz幅で2Gbpsという速度だ。今回、報道関係者向けには基地局役の設備と端末役の設備を有線で繋いだ形でのデモンストレーションが披露された。
他社の取り組みとしては、3月にNTTドコモが横須賀の研究施設を公開した際、似たようなMIMOの技術を紹介している。ドコモでは同時に2人(2端末)まで通信でき、3人以上の同時通信は時分割で区切る、としていたが、KDDI研究所では「時分割か周波数分割になるだろう」と説明。Advanced MIMOは3GPPの将来的な仕様と目される「Release 13」に向けて提言される見通しとのことで、他社が進める似たような手法とのすり合わせなどを経て標準化されることになるという。
KDDI研究所代表取締役所長の中島康之氏は「技術は標準化すれば誰でも使えるようになる。しかし、実際に街中で展開してみるときにどういった特性になるか、事前に理解していなければ、商用展開する際、想定以下の性能になることはよくある。KDDI研究所でこうした技術開発を手がけることで、我々のノウハウに活かせる」と、その意義を語る。一方で、同様の技術を3月に披露したドコモでは、屋内では無線で、屋外では車載設備での実験を行っている。KDDI研究所でも、具体的なスケジュールは明らかにされなかったものの、有線ではなく無線での実験も近く行う方針と、中島社長は語っていた。
ARに活かす画像検索技術
今回紹介された技術の中で、ユニークな取り組みの1つが、10万点に及ぶ画像データベースから検索する、大規模な画像検索機能だ。約1秒で目当ての画像を見つけ出せるというこの技術は、カメラで捉えた被写体に似た画像をスピーディに見つけ出すというもの。データベースには、白黒画像を元に特徴的な部分を抽出して圧縮、格納したデータがあり、カメラでお菓子や服飾品などを捉えると、一致する画像を見つけ出す。
これだけでは用途が想像しづらいが、実はARアプリを支える根幹の技術だ。KDDIでは「SATCH」というブランドを打ち出してAR関連サービスを進めようとしているが、その実証実験で大規模画像検索技術を活用。たとえば通信販売のニッセンのサービスと連携するケースでは、スマホアプリでニッセンのカタログに掲載されている商品を撮影すると、より詳細な商品情報紹介ページを参照できる。このページでは、商品の価格などの情報だけではなくクチコミ情報もチェックできる。これは紙のカタログでは提供できない情報で、スマホアプリと紙のカタログの連携によって実現したものと言える。
無響室、新型アンテナなども
KDDI研究所内の設備や、直近の取り組みの成果なども紹介された。そのうちの1つが「電波無響室」だ。尖った四角錐が並ぶ部屋で、その室内を写真などで目にしたことがある人も少なくないはず。通信に関連する研究所の設備には不可欠と言える部屋だが、この四角錐はカーボンが入ったスポンジとのことで、音や電波を吸収するため、「電波無響室」は携帯電話や基地局との通信環境を検証する上で、ノイズを取り除いて緻密に検証できる、絶好の場所となっている。
現在は、LTE-Advancedに向けて、端末に複数のアンテナを備え、周囲に複数の基地局がある、という状況を再現して実験を行っているとのこと。LTE-Advancedやそれ以降の通信技術では、3.5GHz帯という、これまでよりも高い周波数帯が利用されると見られているが、一般に周波数が高いほどアンテナは小さくて済む。そこで、今後の通信方式に対応する端末、たとえばタブレットでは、これまでよりも多くのアンテナを内蔵して、先述したMIMOによる高速通信が可能になる見込みだ。
また、街中には複数の基地局が設置されており、ユーザーがいる場所によっては、少し離れた基地局から電波が遅れて届くこともある。通常は、最も近く、電波環境のよい基地局と繋がって通信するのだが、他の基地局からの電波が届いてしまうと、近くの基地局との通信を邪魔することになりかねない。電波無響室内では、そうした環境を再現しつつ、LTE-AdvancedとMIMOによる高速通信の特性を調べている。
このほか、KDDI研究所が3月に発表したLTE-Advanced用の新型アンテナも披露された。今後、半年ほどかけてフィールドでテストするというこのアンテナは、受信用アンテナと送信用アンテナ、アンプなどの回路を一体化して、従来よりも大幅な小型化を実現したもの。従来のアンテナおよび無線設備のセットが40kg程度になるところ、新型アンテナは無線設備を内蔵しながら18kgになった。現在は2GHz帯のみサポートされているが今後はマルチバンド対応も検討されるという。
会場では、同研究所発の音声合成ソフトウェア「N2」を使ったiOS向けアプリも披露された。これまではAndroid版のみ提供されていたが、今回、KDDI研究所ではiOSアプリ開発者向けに開発キット(SDK)の提供を開始。音声合成技術対応のアプリを開発できるようにした。たとえばゲーム内のキャラクターに喋らせたり、アプリに入力したテキストを読み上げたりできるとのこと。