KDDI田中新社長が就任会見、「新しいKDDIをつくる」


KDDI新社長の田中氏

 KDDIは、12月1日付けで新社長に就任した田中孝司氏による就任会見を開催した。同氏は、3社合併から10年を経て、現在同社を取り巻く環境と、これからのKDDIが目指す姿を語った。

 会見で触れられた、今後の取り組みに関する主なポイントは「マルチネットワーク、マルチデバイスをシームレスに利用できるようにする」「海外では、従来の法人向けサービスに加えコンシューマー向けサービスを含め拡大する」といった点になる。

 これらの点について、具体的な施策は「これから来期の計画を詰める」として、来年4月頃に開催される2010年度決算の場で明らかにするとされたが、大まかなイメージについては質疑応答で紹介された。また、施策の一端を担うスマートフォンへの質問も多く為された。

KDDIを取り巻く環境から今後の姿を示す

 田中氏は、KDDIが置かれた現況は「デバイス」「ネットワーク」「競争軸」「ビジネスモデル」「グローバル化」という5つの観点で紹介。従来は携帯電話一辺倒だった“デバイス”だが、スマートフォンの普及やタブレット端末のような新形態のデバイスの登場、さらには電力メーターなどでの通信モジュールなど機器間通信用デバイスも増えてきている。そこへ携帯網、光ファイバーを中心とした固定網に加えWiMAXやLTEが導入され、CATVにも注力している。

 こうした変化に対し、田中氏は「これらのネットワークを全て使うような、データ(トラフィック)の莫大な増加が見込まれている。次の時代は、これまでのネットワークをマルチなものと捉え、自由に、シームレスに使うようになるのではないか」と指摘する。

 さらに同社が展開する事業分野のプレーヤーとして、これまではNTTグループやソフトバンクグループのような同業他社だけであったのに対し、アップルやグーグルのようなプレーヤーが参入してきており、キャリアによる垂直統合一辺倒だったビジネスモデルが変化し、ここでも「マルチネットワーク、マルチデバイスを中心にオープンなものにしなければならない」と述べた。

5つの観点から環境変化を説明3つのキーワード
目標3つの“もっと”

 ドメスティックな事業とされる通信事業に立脚するKDDIとして、今後は日本国内だけではなく、グローバル化を進め、海外進出を積極的に行わなければならないと説いた。ここで同氏は、3000万ユーザーを既に抱えていること、コンテンツを含め多くの経験を持っていること、そしてグループ全体で1万8000人の社員が存在し、「こうした資産を最大化したい。飽くなきチャレンジが必要で、実行していかなければならない」と意気込みを見せた。

 こうして打ち出された今後の大きな目標が「もっと身近に!」「もっとグローバルへ!」「もっといろんな価値を!」という3つの“もっと”だ。そのためには、まず社内改革が重要として、田中氏が先頭に立って改革を進めるとした。

価値向上を図るまずは社内改革
プレゼンの最後で「新しいKDDIをつくる」

 

マルチネットワーク、マルチデバイス

 これまで、パケット定額サービスやGPS機能など、他社より積極的に新たな機能・サービスを取り込んできたauだが、ここ数年はキャッチアップされた、と素直に認めた同氏は「スマートフォンへの認識がチャレンジ精神を失わせ、最初の波に乗れなかったことに繋がり、反省している」と述べる。

 Android搭載のセットトップボックスのようなデバイスを開発していることを示し、こうしたデバイスが、携帯電話、スマートフォン、タブレットといった存在に加わって、新たな変化に対応すべきとする。

マルチネットワーク、マルチデバイスへの取り組みも

 現在は1回線を1つの端末で使う、という形だが、この形態のまま複数の端末・複数の回線を利用するという未来が実現するのは難しい。この点を指摘された田中氏は、「3Gの立ち上げでは、全国ネットワークを構築するために1兆円以上の費用が必要だったが、たとえばWiMAXは1000億円程度で全国の60~70%をカバーしていると思う」と述べ、3.9GであるLTEの導入においても、そのコストはかつての3Gに比べ、大幅に安くなるとする。さらに「複数のネットワークでトラフィックをコントロールしなければならない。これは通信屋からすれば固定網に(移動網のトラフィックを)オフロードする(逃がす)ということで、ユーザー目線ではシームレスな利用ということをしていかなければならない」と説明し、単純な足し算のような費用増に繋がるという指摘はあたらないと、懸念を払拭した。

 “真のFMBCを実現したい”とする同氏は放送事業についても、CATVが放送そのものの事業であり、インターネット上でも映像ジャンルのサービスが多くあることから、「マルチユースな世界を作っていきたい」と語り、コンテンツでもマルチかつシームレスな使い勝手が必要との認識を示した。ただ会見後の囲み取材で「携帯マルチメディア放送はどうするか」とあらためて尋ねられた田中氏は「(前社長の小野寺氏が)述べたと思うが、やりません」と明言した。

 こうしたサービスの具体像は、「来年のある時期には、これってこういうことか、と今日の説明が腑に落ちるのでは」として、来年度以降に示す方針とされた。

 キャリアが主導するマルチネットワーク/マルチデバイスのサービスの強みを尋ねられると、携帯電話やスマートフォンといったモバイル機器では、位置情報が取得でき、ユーザーの認可次第という側面はあれどアドレス帳のような個人に紐づく情報も存在することから、それらを利用しやすい立場にある通信キャリアは「大きなポジション」とする。また、アップルのように、通信事業者ではないプレーヤーがそうしたモデルを構築できるのではという指摘を受けた同氏は、そうした議論があったが、と前置きした上で「キャリアとそういう方が一緒にやったほうがより強力、という方向感にある。そういう意味ではソフトバンクさんとはちょっと違うのかもしれない。中長期視点では、上位レイヤーを含めてビジネスモデルを構築したい」とした。

来期前半は半数以上がスマートフォン

スマートフォン戦略について語る田中氏

 マルチデバイスの代表格とされるスマートフォンについて尋ねられた田中氏は、「(前週金曜の11月26日に発売された)IS03は非常に好調で週末も伸びた。これは短期的な状況だが、これからも積極的にスマートフォンへの変化に対応したい。IS03発売時にも申し上げたが、来期に向かってスマートフォンの割合を増やしたい」と述べた。

 中長期的に見ると、「携帯電話→スマートフォン」への単純なシフトではなく、Wi-Fiだけをサポートするような機器も同社のビジネスモデルでカバーしたいとする同氏は、「来期(2011年度)全体は現在計画中のためはっきりしていないが、来期前半における機種のうち、半分以上がスマートフォンになる。総数がどうなるかは、IS03の状況などを勘案しながら決定していく」とした。

 同氏は「モバイルでの戦略として、IS03をKDDI反転のきっかけにしたいと思っている。元気なau、わくわく感のあるauを取り戻すべく、企画部門が必死にやっている」とする一方、別の質問に答える形で「他社に追いつくには時間がかかる。しかしIS03で他社にないものを出せたかなと思う。iPhoneはもっと前にいるが、自信を持って『追いつくつもりだ』と言いたい」と語った。

海外展開について

海外市場への進出を積極的に

 グローバルでの展開を示したことに対し、コンシューマー向けビジネスへの考えを問われた同氏は「アジアを中心にやることになるだろう」と語る。文化面や地理面での近さという点がアジア中心の根拠とする一方、海外での存在感が現状示されていないことから、現地企業の買収がグローバル化の主な手段として「インターネット市場にフォーカスしていく」(田中氏)とした。ただ、買収に向けた投資規模は個々の案件ごとに判断するとされた。

 海外事業の売上規模について、2年前に小野寺氏が「2000億」としていたが、これは現在手がけている法人向け事業を中心とした場合の数値で、今回コンシューマー市場への取り組みを示したことで、その数値は今後変化する可能性があるとされた。

 買収する相手として、キャリアが中心になるか、という問いに対しては「そんなことはない」と述べた。

 



(関口 聖)

2010/12/1 16:56